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第七章〜ルーン王国の兵士〜

 (そういえば、本物のお城に来るのなんて人生初じゃない?何かワクワクしてきたかも……)                『謁見の間』を後にした私は、案内役の兵士に『勇者の間』へと案内されていたー                                                               私は『勇者の間』へ向かう前に、案内役の兵士に頼み込み城内を見て回ることにした。                               ー『ルーン王国』はモンスターを全く寄せ付けないほど強固な城壁に護られており。その為、殆どの兵士はモンスターとの戦闘経験がない。                                                                戦争時は戦闘に参加するらしいが、魔王の誕生により、全人類が危機にさらされた今……世界一の大国である『ルーン王国』に、戦争を仕掛けるような国は存在せず、魔王軍も二十年前の戦争以降は一度も攻めてこなかったらしい。                                                       王様曰くー魔王軍は二十年前の戦争により大幅な兵力を失った為。他の小国から攻め落とし、人類の戦力を着実に削いでから徹底抗戦に出るつもりであろうとの事。                                                           そう語った際の深刻な表情から、既に小国から被害が出始めていることが感じ取れた……                            (どうも王様は、嘘をつけないタイプっぽい…)                                              言葉を濁してはいても、表情までは隠しきれていない。私はそれを見て、王様のように正直な人が悩まなくても済むようにしたいと思った。                                                                          そう思う反面、自分には出来ないと心のどこかで否定したー                                         現時点で『ロックリザード』すらも討伐できなかった私が、魔王などと言う荒唐無稽な存在を倒せる筈がない…。                    (倒す勇者が現れたとしても、それは私じゃなく…これから召喚される勇者の方でしょ……)                               ー私が『ロックリザード』と戦う理由は、雪辱を果たす為ではあっても、世界を救う為ではないし、『ロックリザード』から逃げた際、私の心にあったものは「悔しい」という感情だけであり、それ以外は何も感じなかった。                      私は勇者としての「使命感」も、「責任感」もまるで感じてはいなかったのだー                                    (私の知ってる勇者達なら、きっと逃げたりなんてしないだろうし…自分以外の為に戦うはずじゃん!?)                              勇者について考えを巡らせる内、私はふと思った。誰かの為に行動することは立派な事かもしれないが、勇者自身は何の為に戦ってるんだろう?                                                                    (私が経験した戦闘は、痛くて、怖くて、苦しい…誰の為でも、あんな状況で命を懸けてまで戦えるとは思えない……)                                                                    私は勇者として”戦って”いても、勇者として”戦えて”はいなかったー                                        そんな私と同様に、戦争で兵士として戦う事のなかった『ルーン王国』の兵士達には、個々に戦闘以外の役割が与えられていた。                                                             来賓への案内を始め、不足している物資の発注や必要書類の作成及び、経理、事務から雑務に至るまで……                               兵士というよりも、会社で働くサラリーマンのような事ばかりしている。                                         私はそれを見て、とても愉快な気持ちになったー                                              兵士と聞けば、国に住む人々を命を賭して守り。その家族は兵士達の身を心から案じて帰りを待つような、殺伐とした印象が強く……                                                                         そのイメージとのギャップにより、兵士のコスプレをしたサラリーマンが眼鏡をキラッと光らせているような情景が頭に浮かんだ。                                                                その姿が、あまりにも意味不明且つシュールだった為、私は案内役の兵士を前に爆笑しそうになったー                                  私は何とか湧き上がる笑いを堪え、ニヤけ顔までに留めつつ『勇者の前』まで辿り着いた。                                「こちらが、勇者様のお泊まりになられる『勇者の間』でございます…」                                   案内役の兵士は細身で、妙に礼儀正しく。まるで私のイメージするサラリーマンを絵に描いたような人物だった。                            「ここまでの案内、ブッ…フフッ……ありがとうございます!」                                        「いえいえ…私めは国王陛下より、勇者様の案内を仰せつかっていますので……」                                  (そんな取引先の社長に接待するサラリーマンみたいな塩らしいことを言わないでよ…面白過ぎるからッ!)                              私の我慢はピークに達し、逃げるように『勇者の間』に駆け込んだ。                                     ー聞いた話によると、元々案内役の兵士は貴族に執事として仕えており、その経験を買われて案内を任せられているらしい…。                                                                 (それにしても、強力な刺客だった。あれで仕込みじゃないとか、信じられない……)                           『勇者の間』は、まるで一流ホテルのような内装に備え付けのフカフカなベットがあり。『魔法石(ルーン)』のあしらわれた照明により部屋全体を白く照らしだしていた。                                                    私は『勇者装備一式』の入った頭陀袋を部屋に置くと、汚れと傷だらけの体を綺麗にする為、城内にあるという大浴場へと向かうことにした。                                                       『勇者の間』を出ると、入り口の傍に案内役の兵士が待機しており、その光景に私は困惑したー                   (まだ、居たんじゃん!?)                                                      「え〜っと……何をされているんですか?」                                                 咄嗟に『勇者ロープレ』を再発動させ、問い掛けると、案内役の兵士は当たり前かのように告げた。                                 「先程も申し上げた通り、私は勇者様の案内を申し付けられている為、この場で待機しておりました…」                       (そういえば、『勇者の間』までの案内とは一言も言ってない…!?)                                   「ーその様子ですと、勇者様は身を清めに行かれようとしているのですね…でしたら、私めが『ルーン式銭湯』までご案内致します!」                                                            (…ルーン式、()()!?)                                                   ー案内役の兵士によると、城の浴室は草薙王の提案によって「銭湯」という”新たな様式”へと造り替えられたらしい。                     (王様…好き放題し過ぎでしょ!?)                                                  『ルーン式銭湯』は『魔法力』の込められた『魔法石(ルーン)』で火を起こし、湯を沸かす仕組みになっており……               その見た目は英国風で、白の石材を全面に敷き詰めた内装と、山の風景画が生み出すコントラストはまさに銭湯だった。                                                                  山の風景画をよく観ると、太陽の代わりに『サークレット』にもあった様な、『魔法石(ルーン)』の刻印が色鮮やかに描かれていたー                                                              (この国のオリジナリティーは、『魔法石(ルーン)』だけで構成されているらしい…)                                                                「それにしても、『異世界』で銭湯に入れるなんて……そういえば王様は、明らか日本人だったな〜」                    私はこれまでの出来事に思いを馳せつつ、『ルーン式銭湯』を心ゆくまで満喫した。                              湯に肩まで浸かり、頑張った甲斐があったと自身を褒め称えながら……                                              (まあーデカいトカゲから逃げて来ただけだけどね…)                                           ー『ルーン式銭湯』から出ると着ていた服が姿を消し、一風変わったデザインをした別の服と取り替えられていた。                  (…この服は何だろう?)                                                        ふとそう思うと、『言葉の壁−破壊者(デストロイヤー)』によりー『勇者の服』と呼ばれる、あらゆる衝撃や【魔法】への耐性がある服だという事が判明した。                                                          私は『勇者の服』を普通に着用したが、名前のインパクトから「装備した」という単語が脳裏に浮かび、ふと思ったー                                                                                          (こんな服があるのに、何で『勇者装備一式』には含まれてないんだろう?変なの……)                そのまま『ルーン式銭湯』を後にすると、案内役の兵士に連れられ、『食の間』という場所に案内された。                       その道中、私は『勇者の間』や『ルーン式銭湯』などの設備が整っていた事から、食事も日本風のものが用意されているのではと胸を弾ませたー                                                          (この調子なら、『異世界』でもやっていけるかも…!)                                           しかし『食の間』に着いてすぐ、その期待は木っ端微塵に消し飛んだ。                                       そこに用意されていたのは、トカゲを使ったコース料理で、どの料理にも漏れなくトカゲが材料に使われていたー                               (何で料理だけ、異世界ド直球なワケ…?)                                            私は貼り付けたような笑顔でそう思った。                                                 トカゲ料理自体は、何かの嫌がらせという訳ではなく、『ルーン王国』の列記とした名物料理であり。                                                     『ルーン王国』が食料不足だった時代に、トカゲを捕まえて調理したら美味かったというのが、トカゲ料理の起源らしいー                                                                 そうだとしても、『ロックリザード』と命懸けの戦闘をしたばかりの人間にとって、トカゲ料理はあまりにも殺人的な組み合わせだった。                                                           (なんでか、『顧問の言葉』が聞こえるような気がする……)                                         その夜、私は食文化の変更を行わなかった王様への憎悪と、この食文化に馴染める日は永久に来ないという確かな確信を胸に抱いた。                                                                                                                                                                                                      

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