第五章〜先代の勇者〜
それは今から二十年ほど昔ー 俺は草薙響也という名前の高校生で、高校では剣道をしていた。剣道は高校から始めたが、俺は剣の才に恵まれ、二年で主将を任せらるに至ったー 俺は真面目で責任感が人一倍強く、主将という立場に恥じない様、更なる鍛錬に励んでいた。 ーだが、上級生の中には俺が主将を務めることをよく思わない者が存在し、何かと因縁をつけては些細な諍いが絶えなくなった。 俺は因縁をつけられた事よりも、その上級生が正々堂々と実力で決着をつけようとしないことに腹を立てたー 実力で勝っていると証明する気概もなければ、試合を申し込む度胸も持たない上級生の、「年上という理由で因縁をつける」という行為が認められなかった…… それから一年の歳月が経ち、三年になると剣道部に新入部員の一年生がやって来たー 俺は今度こそ、主将としての責任を果たそうと、厳しく指導を行なったが、新入部員からは不評の声が相次いだ。 『実際に剣を使って戦うことなんてないんだから、そこまで頑張る必要ないでしょ…』 『格好良いと思ったから、やってみたかっただけだし……』 そんな言葉が聞こえる度、強く心に想った。 (剣の実力が、重要視される世の中だったなら……) ー苦悩の日々が続いていたある日の事、いつもの様に道場の朝練で素振りの目標回数を達成し、目を瞑り息を整え、再び目を開いた時ー突如として景色が一変し、俺は『ルーン王国』へと召喚されていた。 その頃の『ルーン王国』は、魔王軍との長い戦争によって、慢性的な食料不足が続き国民は誰しもが飢えていた。 それは『魔法師』も例外ではなく、勇者召喚による身体強化も今ほど高い効果を持ってはいなかったー 国力も衰退し、魔王軍に押され気味の状況でなんとか戦線を保っていた。 魔王軍とは言っても、『ゴブリン』や『オーク』などで編成されており。数こそ多いが、『ロックリザード』や更に上位のモンスターに比べれば雑魚と言っても良いようなレベルだった。 俺は勇者として剣を取り、日々鍛えた剣技で思う存分戦ったー それはまさに、俺の追い求めていた理想をそのまま現実にしたような経験であり…… その活躍により魔王軍は撤退し、『ルーン王国』は戦争に勝利し、俺はその功績を称えられー勇者兼、『ルーン王国騎士団団長』に任命された。 『ルーン騎士団』に課せられた役目は、『ルーン王国』に生息する全モンスターの討伐だった。俺は騎士団長として、騎士団を率いモンスターの討伐を続けー遂には、『ロックリザード』よりも下位のモンスターを全て討伐するに至った。 ーそんなある日、先代国王の娘であった姫が騎士団の活躍を見てみたいと言い出した…… 先代国王は娘の我儘を聞き届け、騎士団長だった俺に姫の面倒を見るように命じた。 王の命令により、渋々姫を連れーモンスター討伐を行うことになった日、その討伐対象は『ロックリザード』だった。 俺はそれまでのモンスター討伐と同様に、自ら仲間の士気を高めるべく先陣を切りー『ロックリザード』へと斬り掛かったが、攻撃はいとも容易く硬い鱗に弾かれ、その衝突により生じた「バッシュ〜〜〜ン!!」という甲高い炸裂音と共に後方へ転倒した。 その隙を狙った『ロックリザード』の鋭い鉤爪による攻撃が、顔めがけて振り下ろされー俺は右眼に傷を負い、後に続いた騎士達もかなりの重傷を負った。 息も絶え絶えとなった『ルーン騎士団』を目の当たりにした姫は、皆の身を案じ駆けつけようと馬車から降りると、眼前の『ロックリザード』はその巨大な尻尾による薙ぎ払いを行った。 俺は間一髪のところで姫を庇い、その代償として左脚を失なった。幸い姫は無事だったものの、恐怖により身動きが取れなくなっていたー 俺は残った気力を振り絞り、姫を抱きかかえると馬車まで運び、御者台へと上ると騎士団へ撤退命令を下した。 その後、『ルーン騎士団』は何とか『ルーン王国』への帰還を果たしたが、それによる損失は予想以上に大きいものとなった。 俺が傷の治療に当たっていると、姫は涙ながらに感謝と謝罪の言葉を告げ、責任を取らせて欲しいと婚姻を申し込んできた。 断れるはずもなく了承し、俺は王位継承と共に勇者を引退したー 『ロックリザード』討伐が失敗に終わったことで、相対的に『ロックリザード』は、この世界で最も弱いモンスターとなった。