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第四章〜勇者の厳選〜

 「今回の勇者は生きて帰ると思いますかな?陛下…」                                      勇者カレンが『謁見の間』より去り、大臣はいつもの様に語り掛けてきたー                                            俺は辟易として玉座へ頬杖をつくと、いつも通りに対応した。                             「それは誰にも判るまい…。何故ならば、俺の後に喚ばれた勇者は一人として生きて帰らなかったのだからな……」                     俺は大臣の方に目を向けると、足早に続けたー                                               「分かっている事は、魔王を倒せる者は少なくとも、『ロックリザード』を倒せる者でなければならないという事くらいだろう……」                                                         (昔の俺でさえ、『ロックリザード』を倒せなかったのだから…)                                   俺は無意識下で思ったーその言葉により、自分自身が最も認めたくなかった筈のことを、いつの間にか認めてしまっていることに気付いた。                                                                  そのことについて考えると、徐ろに勇者カレンの言い放った言葉が頭を過る。                          仕方のない事とはいえ、無関係な上、先のある若者達を未だ生存者のいないー『ロックリザード』との実戦訓練へと送り込む事に、自分自身の非力さと自責の念を感じていた。                                              ー現在の『ルーン王国』は勇者を召喚し鍛える事によって、いずれは魔王を討伐するという大義名分のもと、各国から募った支援金により、財政を賄っている。                                       『ルーン王国』は『魔法石(ルーン)』が豊富に存在し、昔は【魔法】の発見と共に、貴重な鉱石として高値で取引されー                                                             それによって得た莫大な利益により、現在では世界一の大国として世界中に知れ渡っているが、『魔法石(ルーン)』が各国の隅々まで流通してからは『魔法石(ルーン)』を輸入する国は存在しない。                                          それは『魔法石(ルーン)』が、【魔法】を行使する際に一切の消耗を必要としない「永久物資」である事に起因する。                                                           ー物というのはそれが食料品や宝石類であろうとも、需要があるからこそ売れる……                          永久物資は貴重ではあっても、消耗しない為に補充の必要もなく、徐々に需要が低下する。                     『ルーン王国』は大国である為、国を維持するだけでもかなりの国家予算を必要とするがー                     現時点で最も需要の高い物資は、杖の素材として使われる木材であり。『ルーン王国』には木材となる木々が、殆ど自生していない。                                                   (植林は現在も進行しているが、財政の負担にはもう数年は掛かるだろう……)                        その期間を埋め合わせるためにも、『ルーン王国』は新たな勇者の育成に努めなければならない。                  ーしかし、そうであっても肝心の資金は国の財政に充てられ、肝心の勇者には碌な支援が出来ていない…。                     その結果、召喚される勇者はより優れた人材でなければならず、これまでの勇者達は尽く、実戦訓練へ赴いては戦死を相次いでいる。                                                    (ーだが、決して無駄死になどではない!その犠牲がなければ…『ルーン王国』の存続はあり得なかった!!)                      どれほどそう思っても、実際に勇者を使い捨ての道具に等しい境遇で扱っていることに変わりはなく。                 そして今回、召喚された勇者はあどけない少女だった…。                                    彼女はこれまでに召喚された若者達とは異なり、自らが魔王を倒すという事に始めて難色を示したー            魔王と聞けば大抵の場合、はしゃぎ出しては駆けずり回るなどの素振りを見せていた。                      「それにしても、『私に倒せる訳ない』とはー」                                      (勇者召喚が頻繁化した影響により、勇気ある若者がいなくなってしまったのだろうか…?)                仮にそうだとしても、勇者カレンの言葉は的を射たものだった。                                      たった一人の若者に出来ることは、とても限られており、俺にも勇者カレンと同じくらいの娘がいる。                        (もし娘が、同じ状況に置かれていたら…やはり、年端のいかない少女が召喚されたのなら、勇者として扱うべきではないのではないか?)                                                     ー国王としての業務をこなし、その間にも勇者召喚について考えを巡らせ、数時間が経過した頃…。              『謁見の間』に伝令役の兵士が入室し、勇者カレンが実戦訓練より帰還したとの報告を受けた。                           俺はその報告を聞き、驚きを隠せなかったー                                         (まさか、あの少女が実戦訓練を乗り越えたというのか!?)                                   すぐ隣の大臣は、驚くどころが焦り一つ見せたことのない冷静沈着な男だったが、その瞬間だけは驚きの余り言葉を失っていた。                                                                           それでも実際に、勇者カレンは再び『謁見の間』へとその姿を現した。所々に傷を負い、その表情からは疲労の色が表れている。                                                                                  ー俺は直ぐ様、平静を装い。大臣へ実戦訓練の報告を聞くよう促すと、大臣は遅れて勇者カレンへと問い掛けを始めた。                                                                                     その内容は憂慮していた以上に、到底芳しいと言えるものではなかったが、実戦経験など皆無だった筈の少女が一人でモンスターを相手取り、無事に帰還しただけでも十分な快挙であると言える。                                                          ー何故なら、この実戦訓練の目的は生きて帰れるかを試すことにあったのだから……                                         勇者の最終目標は世界を救うことであり、勝てもしない敵に立ち向かうことではない。                                     そして勇者とは、全ての民の希望を背負う存在。それは同時に希望のあるべき姿を示すという事でもあり、その姿は決して”死という形”であってはならない。                                                 (死する事で保たれる平和など、希望である筈がないのだから……)                                               希望のあるべき姿とは、どのような状況に立ったとしても、生きることを諦めず見る者に「勇気を与えるような姿」であるべきだー                                                                                 つまり勇者の最も重要な役割は、「生き続ける事」にこそある。                                  (しかし、それは理想の話でしかない…)                                                          仮に生きて帰れたとしても、敵の強さと己の弱さを知った者が、次は本気で勝つつもりで自らを厳しい訓練により鍛え上げられるかは別の話だ。                                                                           (殆どの者は、戦意を喪失し、二度と戦おうとは思わないだろう……)                                              ー実戦訓練とそれに伴う犠牲は、俺が勇者を引退したことから始まっているー                                          (この左脚さえ動けば…)                                                                     俺は悔しさを滲ませながら思う。召喚された若者にはこの国のために戦う義務も責任もない。                                             例えるならば、この国の借金を一人の若者に肩代わりさせているようなものだ……                               それがどれほど、業の深い悪徳であるかを理解していようとー                                                  許されるべきでない事をした挙げ句、生きて帰れる保障のない戦いへ送り出すことに対して、簡単とばかりに赦しを乞うことなど出来るはずがない。                                                                     (代われるものなら…すぐにでも代わりたいッ!ただ座りー謝罪すら出来ない罪悪感に苛まれ続けるより、余っ程マシだ……)                                                                               ー俺は謝罪が出来ない代わりとして、召喚された若者から生存者が出た上で、その者がそれ以上の戦いを望まない場合。勇者としての責務から解放した上で、一般の民として迎え、どのような罵詈雑言を並べ立てようとも、その一切を許すと決めていた。                                                                      勇者カレンは実戦訓練の報告を終えると、徐ろに”ある質問”を投げ掛けたー                                   「『ロックリザード』が世界一弱いモンスターと呼ばれる理由を聞いてもいいでしょうか?」                               その問い掛けは、彼女の風貌と相まって、こちらの説明不足を非難しているような印象を受けるものだったが……                                        俺はそれを聞いて、胸のすくような心境になった。                                                       それを非難であると仮定した場合、俺は勇者召喚をおこなった国王として、勇者が戦死した場合の責任者として、これまでに召喚された若者達から、あって当然だった「言葉」を始めて聞くことが出来たのだから。                                                      それは生き残る者がいなかった若者達を含め、この国の重鎮や兵士、国民からも、財政難を理由に聞くことがなかったー                                                                               国王という立場のせいなのか、仕方のない事だからなのか、面と向かっては誰一人として非難の色を見せる者はいなかった。                                                                        ーだがその事は、逆に俺を苦しめ続けていた……                                                          (全ては国王であるー俺だけのせいだと、責任を突き付けられているようで心苦しかった…)                             必然性の有無こそわかってはいないが、勇者に選ばれる若者は、心優しき者や元の世界に馴染めず孤立している人物などが選ばれている。                                                                     俺自身も、昔は勇者として召喚された一人の若者だった。元来、犠牲が出る現状を目の当たりにして何も思わないほどの冷血漢ではない。                                                                         ー俺は大臣の返答を待たずして、勇者カレンの質問に答えた。                                     「その答えは、現時点で存在する中に『ロックリザード』よりも弱いモンスターが存在していないからだ…」                            勇者カレンは驚いた様子で、そっとこちらを見上げると、囁くようなか細い声で言葉を交わした。                    「それは、どういう意味…ですか?」                                                相次いだ質問に対し、深く息を吐くと俺は満を持して返答した。                                         「それを説明するには、俺が勇者として召喚された頃の話からする必要がある…」                                                                                                         

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