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第二十四章〜羅針盤の針先〜

「ー実戦訓練は大体そんな感じでした……」                                                                           『謁見の間』へと到着してすぐ、私と小百合は王様に実戦訓練の経過報告をしていた。                                     「そうか…それにしても、あの『ロックリザード』を討伐して来るとはな…」                                          王様はそう呟くと、感慨深そうに俯いた。                                                                          (勇者カレンがもう一人の勇者を召喚すると言い出した時から、そんな予感はあったが……)                       「ー国王陛下!一つお聞きしても宜しいでしょうか?」                                                               「……良かろう。申してみよ!」                                                                                   「何故、国王陛下は『ロックリザード』との戦闘で、【魔法】を使わなかったのでしょうか?討伐していないという事は使っていないということですよね?」                                                                            「ーその事については、前回も説明した通り…俺が『勇者召喚』された当時の『魔法師』は、魔王軍との戦闘が長期間した影響による慢性的な食料不足によって、現代の『魔法師』よりも『魔法力』が少なかった」                                   「…その為、『勇者召喚』された俺自身も現代の勇者程の『魔法力』を有してはいない。依って【魔法】の威力も低く、例え使用したとしても一発では倒し得なかっただろうー」                                                        (…という事にして置くか、本当は剣で戦いたかっただけだけどな!)                                             「ーそうですか…」                                                                                                                                                    (それでも戦えそうだけど……きっと私みたいに『呪文』を覚えられなかったんだろうな〜)                               「……『ロックリザード』を討伐したなら、もう判っていると思うが、到底二人だけでは全ての『ロックリザード』を討伐することなど出来ない!」                                                                                   (ーなんだ、やっぱ王様も分かってたんじゃん!!)                                                                私は王様の発言を耳にして、人が悪いとばかりに頷いた。                                                           「……なので今後、勇者及び【小走りの騎士(ジョグナイト)】にはー」                                               「『ルーン騎士団』や『宮廷魔法師』と協力するんですね!!私もそれしかないと思ってました!」                          王様の言葉を続けるように、若しくは遮るように私は告げた。                                  「ー!?嫌……」                                                                                                 「数には数で対抗するしかないッ!『ロックリザード』には主に【魔法】しか効果がないので、『宮廷魔法師』の協力は必須です!!」                                                                                                「それに、『宮廷魔法師』が【魔法】の詠唱をするまでの時間を稼ぐ必要もあるので、『ルーン騎士団』の協力も必要になると!」                                                                                                       『ルーン騎士団』と『宮廷魔法師』の協力ー!?                                                                     (ー待て待て、そもそも『ロックリザード』を討伐する必要などない…)                                               何故なら、『ロックリザード』は滅多に森から出ない。討伐によるメリットは精々が森の木々を得られる事くらいだ。                                                                                                                     実戦訓練の相手に選んだのも、『ロックリザード』よりも下位のモンスターが存在しない為、必然的にそうなったに過ぎない。                                                                                                       (ー態々『ロックリザード』を討伐せずとも、数年後には植林で木材は入手出来るんだぞ!!…という事を口に出来るならどれほど良かったことか……)                                           

仮にも一国の主たる国王が、威厳的な問題として軽々しく『植林の為の時間稼ぎをしてくれ』と言う訳にはいかない。                                 「……協力とは言っても、一朝一夕には行かない。『ルーン騎士団』は兎も角として、『宮廷魔法師』には協力する義務も責任もないのだから…」                                                                                              「ーそれはどうしてですか?」                                                                                    「『宮廷魔法師』の存在理由は、『勇者召喚』により勇者を喚び出す事にある。戦闘は職務に含まれておらず、現在の『ルーン王国』は財政的余裕がない故、働きに対する報酬も払えない……」                                             「名誉のみのモンスター討伐に、命の危険を承知で協力する者など居はしないだろう。残念だが、現実はそう都合良く運ぶ物ではない!」                                                                                            (ーどうか、これで諦めてくれ!)                                                                                「…それなら、一つ良い考えがあります!」                                                                        私は自信を持って堂々と宣言した。                                                                                「ー何ッ!?良い考えだとー?!」                                                                                「はい!今の話を整理すると、『宮廷魔法師』が協力しない理由は『協力する理由と報酬がない』からですよね?」                                      「…だったら、新しく作れば良いんですよ!!」                                                                     「ー『作れ』というが、無いものはどうしょうもなかろう?…何か、具体案があるのか?」                                王様はいつにも増して渋い顔で、怪訝そうに告げた。                                                               「勿論あります!国王陛下が『ロックリザード』の討伐に復帰なされば良いのです!!」                               「ー復帰とは、どういう事だ!?」                                                                                     私の発言を受け、『謁見の間』に小さな喧騒(けんそう)が巻き起こる。                                                 「国王陛下が危険を承知で討伐に臨まれるという事は、『宮廷魔法師』からすると、会社の社長が働いている横でその部下が休憩しているような物だと思います!」                                                                      「それは世間的にあまり良くありませんし、『宮廷魔法師』の名誉にも傷が付きます。逆に協力は名誉な事なので、協力せず評判を落とすよりも、必然的に協力する方を選ぶと思います……」                                              「ーふ〜ん。それはそうかもしれないが、前提として、左脚の負傷によって前線を離れる事を余儀なくした俺自身を、どのように復帰させるつもりだ?」                                                                               「国王陛下も既にご承知の通り、小百合が放った【爆炎球(ファイヤーボール)】は通常の物と比べて遥かに高い威力がありました!」                                                                                               小百合はその発言に動揺したのか、驚いた表情を見せた後、戸惑った様子でこちらを見つめた。                               「……【魔法】の威力が高いという事は、『治療魔法』の威力も同じように高いという事になります。絶対とは言えませんが、国王陛下の左脚も治療できるかもしれません!」                                                            小百合が驚くのも無理はない。こんな展開になる事は私自身、夢にも思っていなかったのだから……                                   「ー小百合…【個人へ捧ぐ癒し(パーソナルヒール)】って、唱えられる?」                                                                   私が耳打ちすると、自信なさげな声で小百合は囁き返す。                                                             「…唱えられるけど、出来るとは限らないよっ?!」                                                                 「唱えられるなら多分大丈夫。試してみて!」                                                                      ーそうして、小百合は不安な面持ちのまま玉座の前まで歩みを進め、『呪文』の詠唱を始めた。             その周囲では、兵士達がひそひそ話をしている。                                      ー『治療魔法』だと、【魔法】は精々かすり傷や疲れを癒す程度の効力しか持たない筈だ……                                                     どんな【魔法】を用いても、失われた四肢を治療できる筈がないー                                                                                     「全ての生命(いのち)の源よ−我が想いに応え地を肥やし緑を芽吹かせ−彼の者に束の間の癒しを(もたら)せ−【個人へ捧ぐ癒し(パーソナルヒール)】」                                                                          小百合が詠唱を終えると同時に、王様の左脚は新緑のように鮮やかな光に包まれ、見る見る内に再生された。             「ーな、何という事だ…!?」                                                                                    王様は再生された左脚を何度も踏みしめ、徐ろにそう言葉を漏らした。                                  周囲からは、驚きの声が上がり『謁見の間』は騒然としていたー                                                     その光景を目の当たりにした私自身も、その瞬間だけは周囲と同様の想いを抱いていた。                                          (ーあははっ、流石に無理だろうなと思ってたのに……)                                                                         抱いた想いはすぐさま驚きを超え、恐怖心へと塗り変わっていくー                                                     勇者の【魔法】は十二分に凄い物であると解釈していたにも関わらず、それすらも過小評価に過ぎなかったという事実に対する恐怖……                                                                                                        不可能を可能にする出来事を人は奇跡と呼びーそして、奇跡を起こした存在は神や超能力者と呼ばれる。                                 神は兎も角として、超能力者にはあまり良いイメージがない。アニメやゲームでは、その存在が知れただけであらゆる災厄に見舞われる。                                                                                              拉致監禁、解剖、人間兵器。最悪の場合、世界大戦すら起こり得るー                                  (…なんにしても、最悪じゃん!?)                                                                              そういう存在は、ただ存在するだけで世界の在り方やバランスを根本から揺るがす可能性を秘めている。                                    ーそう成らなかったとしても、失った四肢を再生出来る人間がいると判れば、頼りたくなるのは必然……                                 いつの日か厄介事に巻き込まれるのは目に見えている。                                                              「ー国王陛下!どうかこの事は内密にして頂きたいのですが!」                                                      先々のことを悟り、私は王様に対し必死に訴えかけた。                                                              「……それは不可能だろうな。俺が『ロックリザード』討伐に復帰する場合…左脚の件は避けて通れないだろう」                                 (ー願ってもないチャンスだ!これで討伐を諦めるかもしれん……)                                                  「じゃあ、一体どうすれば……」                                                                                   「あの〜っ、少し良いでしょうか?」                                                                              思い悩む私を見かねてか、小百合が声を上げるー                                                                   (えっ……小百合!?)                                                                                          「ー今回の件が知れ渡ったとしても、何の問題も起こらないと思いますよっ!」                  「……それは、どうしてだ?!」                                                                                  「ーこの国は世界一の大国だと聞きました。そして勇者は元々、この世界を救うという目的で召喚されています!」                                 「その勇者を世界一の大国と戦争してまで手に入れるメリットより、世界全体を敵に回すデメリットの方が遥かに大きいので、そんな事をする勢力はただ一つを除いて存在しない…」                                                        「その勢力とは、一体……」                                                                                    「ーそれは、魔王軍です。魔王軍は既に世界を敵に回しています。今更、恨みを買うことなど気にしないでしょうし、現状『ルーン王国』の脅威になり得る存在があるとするなら魔王軍だけですっ!」                                       「ーなので、早急に国内に生息するモンスターの討伐を進めるべきだと思います!」                                      ((……それは何で?!))                                                                                        突然の要領を得ない小百合の進言に私と王様は困惑した表情を浮かべる。                      「ー魔王軍が脅威である事は確かだが、モンスター討伐と何の関係がある?」                                            「……関係ならありますっ!その関係とは、二十年前の魔王軍がモンスターで構成されていた事です!モンスターで構成されているという事は、魔王軍がモンスターを操る術を持っている可能性があるという事に成ります…」                        ((ーそこまでは考えてなかった!!))                                                                             まるで雷に撃たれたかのような衝撃が私と王様を駆け巡る。                                                            「……近隣のモンスターをこのまま放置していると、魔王軍に吸収される危険があるという事です。既に魔王軍による吸収が始まっていても、可笑しくありませんっ!」                                                                       王様は真剣な面持ちで、小百合の話を最後まで聞き届けると、満を持して口を開いた。                                    「ー確かに、勇者殿の言う事には一理ある。俺の左脚の礼も兼ねて、モンスター討伐復帰の件と、『宮廷魔法師』との協力を正式に許可しよう!」                                                                                    (……勇者殿!?私の時は、『勇者カレン』だったのに…?!)                                                       王様が不意に口にした言葉に、私は軽いショックを受けていた。                                                     「……但し、一つ問題がある。『ルーン騎士団』は『宮廷魔法師』の事をよく思っていない。何かと比べられることが多かった影響か、『宮廷魔法師』を苦手としているのだ!」                                                           「同様に『宮廷魔法師』にも、長年に渡り、目新しい功績を挙げていない騎士団との協力を不安に思う者もいるだろうー」                                                                                                          「先ずは、両者の間にある”(わだかま)り”を解かぬ限り。協力など夢のまた夢だ……」                           王様は厳しい顔でそう告げると、何処か別の場所を見るような遠い目をした。                                                               ー正直、この問題の解決は不可能に近いだろう。                                                                     (…だからこそ、諦めて欲しかったくらいだ……)                                                                   勇者とはいえ、それをたった二人の少女の手に委ねてしまう事は、出来ることなら避けたかった。                        (ーだが、不可能だというなら『ロックリザード』を討伐する事も、失われた左脚の再生も不可能な事柄だった…)                            彼女達なら、ひょっとするかもしれないー                                                                         「それでも、やってくれるのか?」                                                                               「「はい!…アッー」」                                                                                             私と小百合の二人が同時に返事をすると、無意識にユニゾンしていた。                                                「ハッハッハッハ!…そうか、やってくれるのか……ならば、よろしく頼むとしようかー息の合った勇者と騎士にな!!」                                                                                                        王様がそう告げた時、私と小百合は妙な気恥ずかしさに襲われ、お互いに目を逸らしていた。                                          

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