第二十三章〜真・魔法石の剣〜
実戦訓練から命からがら『ルーン王国』までの帰還を果たした後ー私は小百合に提案して、最初にガランドさんの経営する鍛冶屋へと足を運んだ。 「ガランドさん!この剣は『ロックリザード』に通用しました!!」 私はカウンター横の扉から、姿を現したガランドさんに呼び掛けると同時に『魔法石の剣』を鞘から引き抜いて見せた。 「ー急に知り合いが訪ねてきたと聞いて、出て来てみれば嬢ちゃん達かーって、何だ〜!?その剣は!俺の渡した剣をどうしたんだ?!」 『魔法石の剣』を一見したガランドさんは、挟んだカウンターから身を乗り出すと血相を変えて問い質す。 「……ナニって、決まってるじゃないですか?『魔法石の剣』ですよ!」 (ー態々、別の剣を鍛冶屋まで見せに来るわけないじゃん……) 「『魔法力』を込めて、見た目が変化したんです。見た目が変わる事ぐらいご存知の筈ですが?」 「……確かに、『魔法力』に込める事によって見た目は変化するが、それはあくまでも剣身が淡く光る程度の変化でしかない!…だが、その剣身は溢れ出した『魔法力』が周囲に集まり可視化している……ちょっと見せてみろ!」 ーという風な話の流れで、私は『魔法石の剣』が『こんな状態』に至った経緯を説明する事になった。 「……そういう訳で、『魔法石の剣』は今の見た目に変化しました!」 (ー怒ってるのかなぁ〜?元から怖い顔だから分かんないや…) 説明を終えるとガランドさんは一言、『なるほど……』と納得した様子を見せ、『魔法石の剣』の変化について考察を述べた。 「ーそういえば、嬢ちゃんには『魔法石の剣』の無限に斬れ味を増す原理をしっかりと説明してなかったな…」 「一言でいうと、この剣は込めた『魔法力』を剣身へと凝縮させる事で、斬れ味を増しているー」 ガランドさんの口にした、その事実を前に私は驚愕した。 「……!?『魔法力』を”凝縮”って、それじゃまるでー」 「そうだ!『勇者召喚』と同じ原理で、『魔法石の剣』はその斬れ味を増すー」 「俺も勇者である嬢ちゃんがこの剣を使う事を念頭に置いていなかった。それに依って、起きるこの事態についてもー」 「勇者の『魔法力』を剣身へ凝縮するという事は、既に凝縮された『魔法力』を更に凝縮するという事……」 「その上、限界を超えて注ぎ込まれた『魔法力』が剣の許容量を上回った事で、可視化するほど凝縮された『魔法力』が剣身から溢れ出したんだろう……」 ガランドさんはそう告げると、暫く口を噤み、満を持してそっと呟いた。 「それだけなら、何も可笑しくはなかったんだがー」 「どうしたんですか…?」 「……この先は口で言うより、直接見せた方が手っ取り早い!」 そう告げたガランドさんは、奥の部屋から『魔法石』を手にして戻ってきた。 「……『魔法石』…?」 (ーえっ、何の為に?) ガランドさんは『よく見ていろ』と口にすると、取り付く島もない内に突如として、【爆炎球】の詠唱を始め出した。 私と小百合の二人は、キョトンとしたまま互いの顔を見合わせると、ガランドさんの奇行とも言える行動に恐怖にも似た驚愕の表情を浮かべる。 「……へっ?ちょっ、ガランドさん!?」 「ーカレンちゃん下がって!!」 ガランドさんを止めようと、私が前に出ようとした時、間に割り込んだ小百合に手によって阻止された。 「ー灼き尽くせ、【爆炎球】!!」 ガランドさんは手にした『魔法石の剣』に向かい、小さな【爆炎球】を放った。 (…アレ?思ってたのと違う……) 『魔法石』から放出された火の球は、『ロックリザード』を焼滅させた物とは異なり。拳大の大きさしかなかった。 「ーん?何をしている?【爆炎球】は家庭でよく使われている【魔法】だ。当たっても火傷程度で済む…」 (家庭で使われてる『火魔法』って、【爆炎球】の事なんだ……) 「ーそれより、剣を見てみろ!」 【爆炎球】が直撃した筈の『魔法石の剣』は、その原型を保っており。焼け跡どころか、小さな傷一つ付いていなかった。 「…エッ?何で?!」 「ー【爆炎球】は確かに直撃した筈なのにっ!?」 「……恐らくだが、許容量を遥かに上回る『魔法力』を注ぎ込まれた影響で、剣身自体が『魔法力』を吸収する特性に変質したのやもしれん…」 「ーそれにより、通常なら時間経過で霧散する筈だった『魔法力』は剣身の内に留まり。溢れ出した『魔法力』は剣身の周囲を覆い、強く吸い付けられる事で地層のように押し固められ、今の形に収束したんだろう…」 「今現在の『魔法石の剣』は、【魔法】を吸収しー剣身へと変化させる代物に成っている!」 「ーへぇ~そうなんですか……」 (何言ってるか、全然分かんない!!) 「……つまり、その剣は『魔法力』を一切消耗しないどころか、逆に吸収できる剣に成ってしまっているんですね!」 小百合は何も分からない私を横目に、ガランドさんの説明を要約して見せた。 (あんな説明を一度聞いただけで理解したの!?小百合…恐ろしい子!!) 「ーああ、その通りだ嬢ちゃん!これは最早、『魔法石の剣』と呼べる代物ではない……」 「言うならば、『真・魔法石の剣』とでも表現すべき代物だ!!」 「ー『真・魔法石の剣』……」 私は不覚にも、その響きを耳にして、少しだけ格好良いかもしれないと思ってしまった…… (ー私の感性もこの世界に毒され始めているみたいだ。それにしても、『呼べる代物ではない』とか云っといて、対して変わんないじゃん!) 私は無意識に、冷ややかな視線をガランドさんへと向けていた。 (ーカレンちゃん……) 「……一つだけ注意すべき事がある。『真・魔法石の剣』が一回り小さな鞘へ収まっていたことから、この剣身は恐らく、『魔法力』の宿っている物体しか斬れないと考えられる…」 「ーつまり、『魔法力』の介在しない無機物には剣身が纏っている『凝縮された魔法力』が障壁となり。本来の威力を発揮しない可能性が高い。…だが、これにも一つだけ例外が存在している!」 ガランドさんは自信に満ちた顔で、堂々と言い放った。 「……その例外とはなんですか?」 私の咄嗟の問い掛けに対し、ガランドさんは神妙な面持ちで語り始めた。 「ー……通常、この世界に存在する全ての生物には例外なく『魔法力』が宿っていると考えられている…」 「モンスターは勿論、『魔法師』以外の人間にも微量に存在しているー」 「それなら、例外はないんじゃ…」 小百合はガランドさんの言葉を遮るように告げた。 「これも恐らくだが、カレンの嬢ちゃんがその例外だ…」 「へっ!?何で……」 「ー何故かは分かりかねるが、まず間違いないだろう。普通なら『魔法力』は消費しても、時間が経てば自然に回復する…」 「一度に全消費した事が原因なのか?それとも…『真・魔法石の剣』の変質が関係しているのか?判っていることは、『真・魔法石の剣』は手に持っているだけでも『魔法力』を勝手に吸収してしまうという事だ」 「ーにも関わらず、ずっと『真・魔法石の剣』を手にしていた嬢ちゃんは何ともない…」 「それが何故なのかは、解明のしようがない。何せー『魔法力』を全消費した事例など聞いたこともないからな……」 ガランドさんはそう告げると、呆れ返った様子でこちらを一瞥した。 「……それは、そうですよね~」 「ー取り敢えず、無機物とカレンの嬢ちゃんだけは『真・魔法石の剣』では斬れないという事になる!」 「……だから、『光身』には触れられなかったんだー」 私はガランドさんの説明に熱中する余り、無意識に自分の考えを口に出してしまっていた。 「コウ…シンとは、何のことだ…?」 「エッ?あぁー『真・魔法石の剣』を包み込んでいる光をそう呼んで…います……」 ガランドさんは真剣な眼差しで黙り込み、腕を組む。私は突然の緊迫感に思わず息を呑んだ。 「ー『光身』……悪くない名前だ!」 (……良かった〜怒ってるんじゃないんだ!?やっぱり、表情だけじゃ分かんないや…) ーその後は特に何事もなく。私と小百合は鍛冶屋を後にし、『謁見の間』へと向かった。




