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第二十一章〜友達〜

 (ーう〜ん、『湖橋里さん』か……)                                                                「……ん、どうしたの?」                                                                       私が廊下の途中で立ち止まり、ふと考えにふけるとそれを不思議に思った小百合も前方でその歩みを止めた。                                       「ーあのさ、もう結構な付き合いなんだし……いい加減、苗字じゃなくて下の名前で呼んで良いよ?って言うより、異世界まで一緒に来てる友達をいつまでも苗字の上にさん付けとか、最早ギャグだからね……」                                     「そっ、そうかな~?でも、湖橋里さんがそういうならそうするねっ!」                                                  私が(おど)けつつもそう告げると、小百合は少し戸惑ながらも嬉しそうに微笑みながら抱き着くと、耳元で『カレンちゃん』と名前を呼んだ。                                                        (ーカレン…”ちゃん”〜!?)                                                                        私はその耳慣れない言葉の響きに困惑した。ちゃん付けなど、幼少期を除けば母くらいにしかされたことがない。                                 ー通常の場合、ちゃん付けは子供に対して使われる呼称で、高校生は友達相手であってもちゃん付けでは呼ばない。                                                その瞬間、私は直感したー                                                                      まだ小百合は()()()()()だという事を……                                     『子供に対して使われる』という事は、当然ながら子供も同い年の子をちゃん付けで呼ぶのが自然でありー                                     その事と照らし合わせると、私自身が小百合から子供扱いされているとかではなく。小百合自身が”精神的”にまだ幼い子供であるという事を指し示している。                                                            そういえば保健の授業で習った覚えがあるー                                                        人間は他人との関わりによって、精神的に成長することが出来ると……                                                    ー思えば、私以外の誰かと小百合が会話している光景を一度たりとも見た記憶がない。                    私自身も、人付き合いが苦手で精神的に未熟な部分があったりする…。                                             (そういう未熟さが、小百合には顕著に表れているのかもしれない……)                                             私の中の小百合は物静かで、本を読むのが趣味の優等生であった為、その余りのギャップに面食らった。                                そして謎のハグも長いー既に十秒程は経過した気はするものの、一向に離れる気配がない。                                  (ーちゃん付けで呼ばないでとも言いづらいし、そうじゃなくても今の時点で凄く気不味い…!どうしよう……)                                小百合が勇者として召喚された事で人間関係はヌルゲーに成ったと勝手に思い込んでいたが、どうやらそうでもないらしい…。                                                                               その時、ふと視界に案内役の兵士の姿が入ったー                                                        「……ほら!小百合……取り敢えず進もっか?案内役の兵士さんが待ってるから!」                           「ーうんっ!カレンちゃん!!」                                                                   小百合は抱き着いた状態のままで返事を返すと、一瞬だけ離れ、今度は子供のように無言で私の手を引いて歩いた。                                     これからは常に小百合の面倒を見ながら、片手間で世界を救うことになるんだろうか?                                「……それ、なんて言う無理ゲー?」                                                                 最初の頼もしさは何処へやらー私は導かれるまま歩みを進め、苦笑しながら目の前が暗くなっていくのを感じていた。                             そんな私とは裏腹に小百合は元気こそなかったが、召喚された直後の彼女と比べて、その表情はとても晴れやかだった。                                                                                      その翌日ー私は小百合と共に、実戦訓練へ臨むことになり。注文していた盾を受け取る為にガランドさんが経営する鍛冶屋に立ち寄り。そのまま、その足で同行していた小百合と一緒に城の近くにある『ルーン騎士団本部』へと向かい、挨拶回りをしていた。                                                                                                    ……というのも、王様から『騎士に成ったからには新たな勇者と共に先達の騎士達への挨拶くらいするべきだ』と直接、念押しされた為だった。                                                                         ー城はルーン王国の中央に存在し、国を囲む城壁の中を更に半分に隔てる城壁が、城から伸びている。                                         その城壁の片側は城門がある賑やかな城下町で、反対側はまるで別世界のように長閑(のどか)で広大な農村地帯が広がっている。                                                                                                             城下町と農村地帯を隔てる城壁が建造された理由は二つ存在し、国賓の来日に備えて国の景観を良くする目的と、農村地帯で採れる作物目的の泥棒が立ち入れないようにする為の物理的な対策。                                                         農村地帯は城下町と完全に隔絶されており、行き来する手段は城と『ルーン騎士団本部』と物流のための関所だけ。                  その為、農村地帯の存在を知らない子供も多く、関所を守っている騎士が強面な事もあり。近所の子供からは幽霊屋敷や悪人を閉じ込める監獄があるなどと噂される事もある。                                                                  『ルーン騎士団本部』には、泥棒が向こうから態々来るはずがないという理由で、鍵などは一切なく。誰でも入ることが出来た。                                                                                                  (王様に言われなかったら絶対に来てなかった……)                                                           挨拶に行かなかった場合、ローランドの機嫌がどうなっていたかー                                               (そんなの考えただけで恐ろしい!!)                                                                  小百合と一緒に挨拶をして回る内、とうとう最後はローランドを残すのみとなった。                                ローランドと話すのは、鍛冶屋での一件以来……                                                       私はその日の出来事を脳裏に浮かべ、意を決して訓練中のローランドへと歩を進める。                                  それに気付くと向こうからも距離を詰めてきた。私はそれを見るなり臨戦態勢を整える。                                 「ーカレンちゃん…?」                                                                        小百合は不思議そうな面差しで私を見ている。                                                     (……せめて、小百合だけでも守らないとー)                                                             あの人を人とも思わない様な単細胞生物(ローランド)から……                                           小百合が人と余り話さないのは、極度の人見知りだからかも知れない。                                              そんな子がローランドのような(やから)に詰められたなら、命に関わる可能性すらある。                              「ーよぉ〜久しぶりだなー()()()?イヤ〜違ったか、今は騎士様なんだってな…?」                                    「……」                                                                              (何か、いつも以上に不埒な輩っぽくなってる!?)                                                         身の内に緊張が走り、自分でも汗を掻いているのを実感した。                                                  そして私は、実戦訓練用に所持していた『魔法石の剣(ルーン=グラディウス)』へ反射的に目を向けるー                                       (すいません、ガランドさん。最悪の場合はこの剣を使う事にかもしれません……)                                        そして数秒の沈黙が続き、私が何も答えないのを見ると、ローランドは頭を掻いて目を背けた。                         「はぁ〜何とか言えよ!せっかく人が分かりやすくからかってるって言うのに……これじゃ、こっちがバカみてぇじゃねぇーか…」                                                                                                            その口振りから察すると、どうやら()()冗談のつもりのようだった……                              (間が悪過ぎじゃん!?今の私には、そんな()()冗談に応えられる余裕はないッ!)                          こっちは友達の命が懸かってるんだー                                                                  私の背中から、小百合の(てのひら)の感触が伝わってくる。怯えているのだろうか?                                              (……無理もない、私だってまだ怖い。出来ることなら一生関わりたくないタイプだし…)                                   「ーそっちの奴が新しく召喚された勇者か?ハッ!勇者っていう割に女ばっか喚び出されてんのかよ?!」                                    「勇者召喚じゃなくて、『聖女』召喚の間違いじゃねぇのか?イヤ、それも違うか……『聖女』にしては、お淑やかさに欠けてるもんな?フハハハハハハハッ!!」                                                   ローランドは人を馬鹿にしたような態度で、冷笑を響かせる。                                               (……コイツ〜!?)                                                                                ()()()()ー!!こんな奴は到底勇者には向いていない……                                 (ー今すぐにでもぶった斬ってやりたい!もっと真っ直ぐな奴だと思ってたのに!?)                                      一瞬でも勇者向きの性格かもしれないと思った事が恥ずかしいー                                            (こういう奴は一度痛い目に遭わない限り、ずっとこのままなんだろうな……とは言え、どんな人間でも傷つければ犯罪になるし、腹が立つぐらいで人を傷つけるような人間にも成りたくない!)                                     「……挨拶も済んだ事だし、もう行くよ!小百合…」                                                       「えっ!?…う、うん……」                                                                      私は小百合の手を引くと、そのまま騎士団本部を立ち去ろうとしたー                                         「ちょっと待てよッ!?ここまで言われて、何も言い返さず逃げんのか?」                                             「……うっさい!近付くなミジンコ男ッ!!バーカバ〜カ!」                                                       私は呼び止めようとしたローランドに向けてそう吐き捨てると、その勢いのまま実戦訓練へと向かった。                                      「…チッ!なんだよ、『ミジンコ男』って?意味わかんねぇけど、何か腹立つな……」                              ーそんな出来事に見舞われながらも、私と小百合は満を持して、『ロックリザード』の生息する森へと到着した。                                 それから暫くの間、小百合との相談を重ね。『魔法石の剣(ルーン=グラディウス)』と盾を持った私が先頭を進み、その十歩ほど後方から杖を構えた小百合が付いてくるという方法で森を探索することに決まった。                                 実戦訓練時における作戦は『ロックリザード』を発見し次第、まず私が注意を引き付け。小百合が【魔法】を使うまでの時間を稼ぎ、一度の攻撃(まほう)でどれ程のダメージを与えられるかを試すという討伐とは無縁の代物だった。                                                                                 その理由は、王様の発言にあり。王様の口からは一言たりも『ロックリザード』を討伐しろとは言われなかった為に他ならないー                                                                                 『ロックリザード』を討伐させる事が目的なら、実戦訓練等という言い回しはせずに討伐で良かったはず……                    王様が実戦訓練という言い方を貫いている理由は、おそらく「王様という役職」を演じているからだろう。                                      先代勇者である王様は、私や小百合と同様に『言葉の壁−破壊者(デストロイヤー)』の影響で建前が機能しない状態にあり。                                                                                       ー私が『勇者ロープレ』で本音を隠すように、王様は「王様という役職」を演じる事で本心を包み隠してしている可能性が高い。                                                                                   そう仮定した場合、これまでの態度にも説明が付く。王様は嘘を付けない性格という訳ではなく。単に嘘が付けなかっただけで、沈黙や言葉を濁すことが多かった事も演技に集中する為の時間が必要だったからかもしれない。                                  そもそも、たった一人で実戦訓練に向かわせたり、剣術の訓練を三日間も延長させた挙句。何も伝えずに最後までやり通させたりするような王様が、この期に及んで嘘一つ付けないような殊勝(しゅしょう)な人間である筈がないー                             (よく考えてみれば、元々は日本人だった人があんな如何にもな王様口調で話しているのも可笑しい……)                                       王様という者は、基本的に消極的な発言をしないというイメージが強い。その観点から、王様は『ロックリザード』を討伐する必要がないか、もしくは討伐不可能だと考えていて、その上で『消極的な発言』が出来ないために『ロックリザード』を討伐する必要がないと言葉に出来なかったのだと私は推測した。                                                    (ーだから、倒さなくても大丈夫…な筈。多分、絶対に……)                                                           それならやりようは幾らでもあるー                                                                                私はそんな考えを巡らせながら、生い茂る草木が太陽光を遮断する薄暗い森を黙々と進み続けていた。                             『ロックリザード』の巨体でも、森の中では数メートルまで近寄らなければ、一番高い位置にある頭部すら視界に入らないだろう……                                                                                                 私と小百合の二人は(ひし)めくような藪を避けー開けた場所を進み続け、いつの間にか右を見ても藪、左を見ても藪という前後以外は藪と高い木々の枝葉しか目に入らない樹海のような光景に囲まれていた。                                      その上、足元には泥濘んだ地面が広がり一歩を踏み出す度、ランニングシューズの靴底が深く沈み込み体力を奪い続ける。                                                                                                         いつ視界にその姿を現すともしれない『ロックリザード』の強襲に警戒しながら探索すること一時間ー                     私はふと朝早くに来ていてよかったと思った。                                                                  これが日中なら、蒸し暑い中を一時間以上も捜索する事になっていたかもしれない上にー夜間は暗くて捜索できないどころか、遭難する危険すらある。                                                                                (もうちょっと探して見つからなかったら、今日はもう帰ろう……)                                                  そう考えた次の瞬間ー「カレンちゃん!!」と後方から呼ぶ小百合の声が、まるで弓から放たれた矢の様に鼓膜へと突き刺さった。                                                                                 その尋常ではない声の響きは、私が嫌な予感を抱くに充分な波乱を物語っている。                                          小百合のこんな声は初めて聞いたー                                                                                直ぐ様振り返った私が目の当たりにしたのは、藪から上半身を覗かせた『ロックリザード』が小百合の手にした杖に噛み付いた状態のまま持ち上げては、小百合ごと地面へと叩き付けているという見るも悲惨な光景だった。                                       

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