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第十九章〜また明日とさようなら〜

 湖橋里さんがグラウンドに向かった後、私は彼女の机に残された忘れ物(スク水)に気づき、グラウンドまで届けに行くことにした。                                                                       (そうだ!これを渡す時に、『また明日』って勇気を出して伝えてみよう……)                                     私はグラウンドで部活動の準備をしている湖橋里さんを発見し、忘れ物(スク水)を手渡した。                         彼女はそれを受け取り学校鞄の隣に置くと、『実は部活が終わってから取りに帰るつもりだった』と私に告げたー                                     それを耳にして、私はアタフタと弁明を重ねる内、すっかりと『また明日』を言いそびれてしまった。                      湖橋里さんが『もう良いから』とグラウンドに戻ろうとした丁度その瞬間、私は『また明日』と伝えようとしていた事を思い出した…。                                                                        私はグラウンドで湖橋里さんを呼び止めると、突如として彼女の足元が白く光輝き、最初から誰もいなかった様に、忽然(こつぜん)とその姿を消した。                                                                       俗に言う所の神隠しと呼ばれる現象に彼女は遭遇してしまったようだった……                                     少なくともそれは、「UFOアブダクション」の類ではないー                                                  「UFOアブダクション」ー                                                                       未確認飛行物体や宇宙人に誘拐され、人体実験などをされるという体験談を指したもの。                           (光は確かに、湖橋里さんの頭上からじゃなく。足元から発生した様に見えた……)                                     ー私は動揺の余り、咄嗟に周辺にいた他の陸上部員に彼女が消えた瞬間を目撃していないかと尋ねて回った。                    誰に尋ねようとも、湖橋里さんが消えた瞬間の目撃者は私を除き、誰一人として存在してはいなかった……                             謎の光が現れてから湖橋里さんと共に消失するまでの時間は、ほんの一瞬であった為、誰も見ていなくても不思議ではない。                                                                              それからの私は、陸上部の顧問や担任の教師にありのまま起こった事を説明した。                                   その結果、まともに取り合ってくれる人物は一人も居なかった。誰しもが口を揃えたように、見間違えやドッキリ、もしくは単なるサボりだと疑いの言葉を投げ掛ける…。                                                     結局、誰にも信じてもらえないままその日は幕を下ろしたー                                             その翌日、湖橋里さんの母親から娘が昨日から帰っていないと学校に連絡が入り、詳しい話が聞きたいと私は職員室へと呼び出された。                                                                        担任の教師が別室で湖橋里さんの母親と会話をしている緊迫した空気の中、私は湖橋里さんが失踪した件に関して説明を求められた…。                                                                          私は昨日までと同じくありのままを説明すると、湖橋里さんの母親は鬼の様な形相で『巫山戯(ふざけ)ないでッー!!』と言い放ち、湖橋里さんの私物を持って学校を去っていった。                                                    (巫山戯、る……?)                                                                                                「巫山戯る」ー                                                                              おどける、たわむれる、人をばかにする、男女が人前でいちゃつくの意。                                 私はどこか巫山戯けていたのだろうか?友達すらも居たことのない私が、あの人には巫山戯ているように見えたのだろうか?                                                                                (それは何の冗談なんだろう……?)                                                                 私が失笑していると、何故か一滴の涙が手の甲へと零れ落ちた。                                           違うーあの人は大切な娘が突然失踪した事に気が動転して、周りが見えなくなっていたんだ……                         私は錯乱した母親の姿を目の当たりにして、湖橋里さんが本当に失踪したのだということを痛感した。                                湖橋里さんが消えた瞬間を目にしておきながら、私は何も知らなかったー                                  (……あの人の言う通りだ。私は巫山戯てるじゃないか……)                                                  一つだけ確かな事は、もう学校に彼女の存在を証明してくれる物が何一つないという事だけー                  その数日後、警察が捜査の為に学校を訪れた。                                                           『湖橋里カレンさんの失踪について何か知っている事があったら教えてください……』                             『ー何も知りません…』                                                                      『……では、彼女と最後にどんな会話をしましたか?』                                                     ー会話……?                                                                            私は過去を思い返し、湖橋里さんとまともに会話した言葉が『また明日!』と『さようなら……』 である事に思い至った。                                                                             (……なんで私は『さようなら……』 と口にしたんだろう、湖橋里さんは『また明日!』だったのにっ…)                           そう思った瞬間ー激しい濁流のような後悔が全身を駆け巡った。                                                せめてまた明日と言いたかったーそうすれば、また会えたかもしれない……                                       そんな確信のない実感だけが、いつまでも心に食い込んで離れなかった。                                    あんな風にして消えた彼女にもう一度、逢えるとは思えないー                                                      私は深い絶望を感じ、冷たい涙が次々と心から溢れ出した。                                                   (もう湖橋里さんには逢えないんだ…!どんな形でもいいから……もう一度、逢いたいよ!!)                          そして涙が枯れた時、世界はそれまでとまるで違ったものに映った。目に入る景色はモノクロ写真のように、何もかもが色褪て感じられる。                                                                  ーそれでも私の日々はこれまでと同じように続いていく、湖橋里さんの存在しない日常がー                          いつもの教室で話をする時間に、私は本を読んだ。その瞬間、これまでの自分が如何に孤独であったかを知る。本当は判っている。元に戻っただけだとー                                                               (それなら何故、本を読むことがこんなにも退屈で苦痛に感じるんだろう…?)                                         湖橋里さんが失踪したにも関わらず、辺りを見渡すとクラスメイト達がいつもと変わらず楽しそうにする姿が見に入る。                                                                                その光景はまるで世界が彼女を忘れてしまったかの様だったー                                                         (……気持ち悪い、吐き気がする……)                                                                                                学校(ここ)はまるで、孤独で紡がれた牢獄のようだー                                                            見渡せば何十人もいる中で、私だけが本当の意味で独りぼっち。帰りを待っている家族も、友達も居ない。                                                         それと同時に私は理解した。孤独を感じた時、傍に居て欲しいと思う相手が友達なんだと……                           (そっか、湖橋里さんは友達だったんだ……)                                                         私が友達を言葉ではなく、どういう存在であるかを理解した時、その場に友達の姿はなかった。                        そこに残されたものは、空っぽの椅子と空っぽになった机だけ…。                                          それを見た私は、何の為に学校に来ているのか分からなくなった。                                                 何故、孤独しかない空間へー友達が存在しないという現実を直視しに来なければいけないのか?                              ーその日から、私は不登校になった。初めての友達が失踪したという事実から目を逸らしたかった…。                                    それから数日が経過し、私の暮らすアパートに担任の教師がやって来た。                                            ひんやりと冷たい玄関のドアノブを捻り、チェーンロックが掛かったままの扉をほんの少しこじ開ける。                            玄関の外側にいる担任は扉越しにこう語ったー                                                           『友達が失踪したことはショックかもしれないが、君が学校を休んでも何の解決にもならない……』                           『学校には他にも年の近い子が何人もいるし、クラスメイトも君をことを心配している。友達ならまた作ればいい……』                                 (ー友達をまた作ればいいなんて……)                                                                 つまり、この教師は友達を取り替え可能な玩具か何かだと思っているんだろうか?                                   そんな考え方には嫌悪しか感じないー                                                              私が不登校になった経緯は、友達の居ない教室を目にしたくないからだった。                                           そんな事すらも理解らない担任に、私の気持ちが理解できるはずがない……                                      (教師は勝手だ……世間体の事しか考えていないー)                                                      失踪した友達を心配する生徒に何故、『友達を作ればいい』などと言えるのか?                             誰にも私の気持ちなんて分からないんだー                                                               『帰ってください……』                                                                         私は扉越しにそう告げ、玄関の扉を閉じて鍵を掛けると電気の付いていない薄暗い部屋に戻った。                     (湖橋里さんに逢いたい……)                                                                       部屋の隅へと座り込み、私は徐ろに彼女が失踪した日の事を思い返す…。                                           何故、湖橋里さんだったのか?彼女を一番必要としているのは私の筈だというのに……                                    私は激しい焦燥感と憎悪を心の内に抱いたー                                                                 もうこの世界に私の居場所は何処にもない。                                                              彼女の居る所が私の居場所だったからー                                                           もしも何処かに、まだ彼女が居るのなら、それが何処でだろうと構わない。何かをする必要があるというなら、何であろうとやってみせる。                                                                       (……だから、連れて行って欲しい。彼女の元へ……)                                                     そう思うと同時に、私の足元から光が差したー                                                           それはかつて、湖橋里さんを消し去った物と同じ白色の光だった…。                                              そして気づいた時には、私の目の前に失踪した筈の彼女の姿があったー                                         『小百合ー!?』                                                                                      湖橋里さんが私の名前を呼ぶ声が耳へと木霊する。それはとても懐かしい響きだった。                                       ーこれは幻覚?それとも幻聴だろうか?そうだとしても構わない……                                                   (少し雰囲気が変わってはいても、私をそう呼んでくれるのは彼女だけなんだから…)                              「湖橋里さんっー!!」                                                                      気が付けば無意識的に彼女の名前を呼んでいた。口にすると涙が溢れそうになる為、無意識下で口にしなくなっていた。その名前をー                                                                                         立ち上がり彼女の元へ駆け出そうとすると、栄養不足により痩せ細った体が悲鳴を上げ、彼女の手前で倒れ込んだ。                                    湖橋里さんはそれを見て咄嗟に、倒れ込む私を体全体で優しく受け止めた。                                               私はそのまま彼女を強く抱き締めると、かつてないほど沢山の涙と歓喜が心の底から湧き上がる……                           (ー嗚呼…これは幻じゃない。本当にまた、湖橋里さんに逢えたんだ……)                                            

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