第一章〜謁見の間〜
「此方が『謁見の間』と成ります…」 その後、私は何も分からないまま『宮廷魔法師』を名乗るメルフィムという老人に連れられ、『謁見の間』という、ゲームでしか行った事のないような場所へと案内された。 石造り密室から長い廊下を抜けると、正面から視界に収まりきらないほど巨大な扉がその姿を現した。 その前に佇む、二人の兵士が同時に両開きになっている扉についた片方ずつのドアノブに手を掛け奥へと開扉すると、先に広がる光景に思わず目を疑った。 「えーっ!?何、ここ……」 『謁見の間』は天井と床が大理石で出来ており、壁には清潔感のある白い煉瓦が敷き詰められている。床には、入り口から奥にある玉座までレッドカーペットが敷かれ、天井には煌々と輝く宝石のような物が散りばめられた巨大なシャンデリアが部屋全体を悠々と照らし出しているー 階段の向こう側には玉座が見え。そこには鎧を身に纏い、右眼には古傷、左脚の義足など、まるで戦士のような風貌をした王様が座っていた。 その王様は一瞥しただけで、王様であるという事が分かる程。大人数の兵士や大臣を傍らに控えて待っていた。 その様子はまるで、仰々しいという言葉を絵に描いたような感じとしか表現のしようがない程、現実味に欠けていた…… (ここは本当に日本じゃないんだ…) 私は奈良の大仏を始めて拝んた時のように、目に飛び込む全ての光景に圧倒されつつも、玉座の前にある段差の前まで歩みを進めた。 「陛下、新たな勇者が召喚された様です…」 「うむ…」 その王様は図太い声をしていて、一言だけでも確かな威厳が感じ取れた。王様は厳かな面持ちで、大臣に呼び出した経緯を説明するよう命じた。 その内容を要約すると、先代勇者が片脚を失った影響で魔王討伐が困難になった為、その代わりに私が召喚されたという事らしい。 (ーつまり、替え玉じゃん!?)
その想いが脳裏に過った瞬間、私の中で何かが切れた。 「何で全然関係ない私が、前の勇者の代わりなんかで戦わないといけないんですか!?…っていうか私、”女子高生”なんですけど!!」 私は意図せず、それまでのカオスな状況や何も分からなかった事による不安な気持ちを晴らすように続けたー 「魔王とか、意味わかんないしッ!…絶対、私に倒せる訳ないじゃんッ!!」 それを聞いた大臣と王様は明らかに表情を曇らせた。 そして大臣は、気不味そうに告げたー 「えー、そのっ……先代勇者というのは、目の前に御わせられる国王陛下その人なのですが…」 (へ…?) 私は周囲を見渡し、辺りがすっかり静まり返っている事に気がついた。 私は周囲の視線から顔を逸らし、気不味い空気を全身に感じ、身が縮むような想いでただー 『そうですか』とだけ返答した…。 その声が返答したというには余りにか細い声であった事を、私は生涯忘れられそうにない…… ー大臣は大きく咳払いをすると、ルーン王国や勇者召喚の歴史について話し始めた。 それによると、『ルーン王国』には『魔法石』と呼ばれる不思議な鉱石が数多く存在しー 『魔法石』はこの世界において、『魔法力』と呼ばれる”ありとあらゆる生物に宿っている力”を込めることが可能な唯一の物質であり。通常は『魔法師』のみがそれを扱い、【魔法】を行使するための『魔法力』を込めているらしい。 【魔法】−まほう− 身体に魔法力を宿した人間が、様々な形で体外に発することができる特殊な現象の総称。 【魔法】について考えを巡らせようとした途端、私の頭になんの脈略もなく色も感じない声が響いたー (何、これ…?) その事態に疑問を感じつつも、私は直前の出来事もあり。今、大臣の説明を中断するのは気不味いと考え聞けずにいた。 そうこうしている内に、大臣の説明は『勇者召喚』についての内容に移っていたー 『勇者召喚』は五十人からなる『魔法師』が、三日三晩の歳月をかけ『魔法陣』へ『魔法力』を注ぎ込むことで完成させる『合体魔法』であり。行使した『魔法師』は『魔法力』の極端な消耗により、一時的に老人のような風貌になってしまうとの事。 (なにそれ、怖ッ!?だからおじさんばっかりだったの……) 私はその事実に驚愕しつつも、何となく失礼になる気がしたので、表情には出さないように気をつけた。 勇者は『魔法陣』に注ぎ込まれた『魔法力』を媒体として召喚される際に、注ぎ込まれた『魔法力』がその身体に凝縮され…… 通常の『魔法師』よりも強力な【魔法】を行使できるようになり。また、膨大な『魔法力』を宿した身体自体も強靭になるらしい。 (うわぁー……そう言われると、おじさん臭くなったような気がしてきたかも…) 要は強い【魔法】が使え、尚且つ強靭な身体を持つ人間でなければ魔王には勝てない為、勇者を召喚することで造り出したという事になる。 ー人は同じような経験がない場合、それが迷惑をかける行いであったとしても、迷惑をかけているという自覚がなかったりする。 それは詰まり、「自覚がない=謝罪しない人」であることを意味しており、またその逆もしかりー そして今回、謁見の間では謝罪の言葉が告げられる事は最後までなかった。 その事実は、私に直接的な言葉として伝えられるよりも遥かに、前途多難であることを予感させていたー