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第十八章〜もう一人の勇者〜

(ついにこの日がやって来たー一体、どんな勇者が召喚されるのかな……?)                                       王様との三日目に渡った剣術の訓練が幕を下ろすと、『勇者召喚』の儀式も最終日に差し掛かり、新たな勇者が召喚される運びとなったー                                                                               私は朝起きて身支度をすると、案内役の兵士に連れられ、『召喚の間』という『魔法陣』のある部屋まで案内された。                               同行する事になった経緯については、『勇者召喚』を望んだ当事者である事と、新たに召喚される勇者がどんな人物であるか分からない為。                                                                            万が一逃亡を図ったり、急に暴れ出したりしないように説得する役として、『勇者召喚』へ立ち会うことに成ったらしい。                                                                                                    (ー王様…召喚された時、何したの?)                                                             勇者とは言っても、強さ自体は常人と大差ない筈なので、通常はそこまでの心配をする必要はない。 だが、『ルーン王国』の兵士は知っての通り。戦闘経験がなく。事務仕事で忙しいため、訓練なども行って居らず。召喚される人物によっては、何かあった時、止められない可能性がある。                                                     私は仮にも剣を扱えるようになった為、そんな兵士達から頼りにされていた……                                            (ー女子高生に頼るんだ!?兵士なのに…)                                                             ー『ルーン騎士団』が招集されないのは、鎧を纏った男達が周りを取り囲むことで、相手を刺激しないように配慮された結果だった。                                                                             私が召喚された時も、何か起きれば兵士達が『召喚の間』に飛び込んで止めに入るという算段になっていたのかもしれない。                                                                              兵士達が『宮廷魔法師』を押し退けて、暴れ狂うランニング姿の女子高生を止める……                                  (カオス過ぎるでしょー)                                                                 私はそんなあったかもしれない光景を脳裏に思い浮かべ、そっと消し去った。                                     『召喚の間』にいた老人達が、中々話し掛けてこなかったのは、私を猛獣か何かのように警戒し、観察しながら安全かどうかを話し合っていたからだろう…。                                                                 (うんっ、女子高生が召喚されても……普通、警戒しなくない?誠に遺憾に思います…)                                    ー『召喚の間』に到着すると、そこは全面石造りの展望台のような部屋で、床を埋め尽くすほど大人数の『宮廷魔法師』が杖を『魔法陣』へと掲げ、何らかの『呪文』を唱えていた。                                              私は『召喚の間』の中を、満員電車を移動するように人混みをかき分け中央付近まで進むと、白く光る『魔法陣』がその姿を現すー                                                                           「この『魔法陣』から、新たに勇者が召喚されるんだ……」                                               私はその場に流れる緊迫した空気に当てられ、背筋に緊張が疾走った。                                        (召喚される勇者はどんな人か分からない。嫌な感じの人だったら、どうしよう……)                                        ーそう思った途端、『魔法陣』がそれまでよりも強く光り輝き、その眩しさのあまり、私は『魔法陣』から目を逸らし両手で覆った。                                                                                                          そして段々と光は弱まり、ゆっくりと『魔法陣』を覗き込むと、そこに浮かび上がった人影に、私は思わず驚愕したー                                                    『魔法陣』の光から浮かび上がった人影は、何を隠そう、私の友達の姿だったのだから……                                  「ええ〜っ!?小百合ー!?」                                                                    ー話は放課後の教室まで遡るー                                                                    「また明日!」                                                                   湖橋里さんはいつもと同じように、帰りの挨拶をすると教室を後にした。                                                    「さようなら……」                                                                          私はその日も気恥ずかしさの余り、『また明日』という友達らしい挨拶を交わせずにいた。                                (湖橋里さんは友達なのかな…?)                                                                 ー私には「友達」という言葉が、どういう相手の事を指し示すものなのか分からない…。                                それは私自身が一般的に、普通とは言えない環境で育ったことが影響しているのかもしれない……                                   私は奈々瀬小百合という名前で、孤児院の前に捨てられていた所を拾い育てられた。                              その事実を知ったのは、私が物心ついてから、孤児院に他の子が連れてこられた時だった。                             私はその事に疑問を感じーある意味、親とも言える人に『どうして、知らない子の面倒を見るの?』と訊いた。                                      するとその人は一言、『ここが、身寄りのない子供達の面倒を見る施設だからよ』と私に告げた。                          まだ幼い私は、その言葉を耳にして子供ながらに衝撃を受けたー                                          もしも、孤児院が『身寄りのない子供達の面倒を見る施設』ではなかった場合。この人は私を拾う事も、育てる事もしなかったというのだろうか?                                                             私がそんな考えを抱いた理由は、その言葉を耳にするまで、孤児院の全員が家族のような存在だと思っていたからだった……                              赤の他人同士が、家族同様に生活を共にする家庭があるとして、果たして何を持って家族だと言うのだろう?                                    家族と他人の境は、一体どこにあるのか?私には解らなかったー                                            少なくとも私自身は、孤児院に来たばかりの『知らない子』を家族だとは思えなかった……                           (じゃあ、私はどうなんだろう…?)                                                             ふとそう思った時、まだ幼かった私の脳裏には次々と様々な疑問が浮かんだー                     私は孤児院の人達にとって家族なんだろうか?孤児院に来たばかりの『知らない子』と同じ、”知らない子”なんじゃないか?                                                                               そのまま『知らない子』がどんどんと増えて、その子供達の内の一人になったら、私は大事にされるのだろうか?                   ーそんな不安を心に抱きつつも、まだ幼かった私には怖くて聞けずにいた。                         (大事にされる保証…?そんなものどこにもないじゃないか……)                                                                ー私はその日から他の子達と遊ぶのを止め、ひたすら本を読み漁った。                                                      理由は本を読んでいる子が褒められていたから……                                                       (『知らない子』よりも大事にされる為……)                                                                   孤児院の大人が言う事もしっかりと聞くようにした。                                                 (『知らない子』よりも気に入られる為……)                                                         そう過ごす内、年月は経ちー私は幼稚園へと通うことになったー                                             私は幼稚園でも孤児院と同様に、本を読み先生の言うことをよく聞いた。                                       ーそんなある日、休み時間に幼稚園の先生から『友達と遊びなさい』と突然告げられる。                                (友達とはなんだろう…?)                                                                     私は読み漁った本の知識から、言葉としては理解していた。                                                          【友達】 −ともだち−                                                                         勤務、学校あるいは志などを共にしていて、同等の相手として交わっている人。                                    それでも【友達】に関しては、これまでの私が知ったどんな事柄とも違っていたー                                     私には友達と言える存在が、一度として居なかった為にその作り方を知り得ず。更にいえば、なぜ必要なのかも理解できなかった。                                                                            (これまで居なくて困ったこともないのに……でも、先生がいうなら仕方ない…)                                     私はそう思い、幼稚園の先生へ友達の作り方を訊いてみた。                                                   「どうすれば、友達を作れるの…?」                                                                  すると先生は、『一緒に遊べばいいのよ』と告げ、私の手を引くと幼稚園にある運動場で鬼ごっこをしていた子達を呼び止めるとー                                                                           『この子も入れてあげてね』と口にし、何故かその子達と鬼ごっこをする事になった。                             私は正直、話した事すらもない子達と一緒に遊びたいと思わなかったが、先生が指示した事なので遊ぶことにした。                                    ー最初の鬼はジャンケンの結果、他の子になり。私は鬼から逃げた。暫くしてから鬼に見つかり逃げていると、近くに他の子が居て、鬼は他の子を見るとそっちを追いかけて行った。                                             鬼が変わる度に同じような事が数回あり。その内、発見されても誰一人追いかけて来なくなった。                        (どの子も本気で追いかけて来ない……)                                                           私は鬼ごっこを退屈と感じ、本がある場所へ戻ることにしたー                                              それからも幼稚園の先生は、私を他の子達と遊ばせようとした。私は嫌々ながらも遊んでは、すぐに戻るという行動を幾度も繰り返す内、先生はいつしか何も言ってこなくなった。                                                       ーそれから数年が経ち、幼稚園を卒業すると今度は小学校へと通うようになり。それまでと異なる事象が一つ増えた。                                  それは勉学で、私は本を読み先生の言うことをよく聞いていた為、最初のテストで学年一位の成績を収めた。                                         私はその結果として、教師から褒められ、クラスメイトからも賞賛された。大人からはともかく、同級生から賞賛を受けた事のなかった私は、勉強を続ければ友達も出来るかもしれないと思い勉学に励んだ。                                私は別段、友達というもの自体にあまり興味を持ってはいなかったが、居たことがなかったこともあり。密かに「識りたい」という好奇心を抱いていた。                                                                             ー勉学に励んだ結果として、私は小学生から中学生に至るまでの間、体育の実技以外は常に学年一位の成績を収めたが、中学校を卒業するまで友達が出来ることはなかった。                                              どれほど勉学に励んでも友達は出来ないー                                                              その事にようやく気づいた時、私は高校生になっていた。周りの女子生徒達は色恋の話ばかりするようになり、私はすっかりと話題に全くついて行けなくなってしまった。                                                                 そもそも私が興味を持っていたのは、他人ではなく友達という存在だった為。他人に興味のない私にとって、色恋の話は他人以上に興味の湧かない代物だった。                                                               そんな私にも、一人だけ気になっている生徒が居た。それは湖橋里カレンという金髪のセミロングボフヘアーに大きな青い瞳をしているクラスメイトで、その外見からハーフで女子陸上部に所属している事だけが私の知る唯一の情報だった。                                                                                 私が彼女に注目したのは、その目立つ外見と整った容姿をしているにも関わらず、浮いた話を一切聞いたことがない事が理由の一つだったが、それ以外にも気になる点がいくつか存在する。                                          短い髪型にしているのは、彼女が陸上部だからだと推察しー                            この事から分かることは、彼女が髪の毛をゴムで結ぶのを嫌っているか、もしくはズボラな性格をしていて部活の度に髪の毛を結ぶより切る方が楽と考える人であり。                                                           尚且つ、部活の為に髪を切るくらい部活に対して真剣な人か、自分の容姿に無沈着な人のどちらかになる。                                     もし彼女が部活に対して真剣な人なら、そのくらい部活が好きという事になるが、部活をしている彼女の姿はとても楽しそうには見えなかった。                                                                 ー仮にズボラな性格だとしても、ズボラな人がわざわざ体躯会計の部活に入るとは考えづらい。                         その上、女性の私から見ても容姿の整っている彼女が自身の容姿に無沈着というのも違和感がある。                       どう考えても、どこかしら矛盾が生じてしまう……                                                      (凄く気になるから聞いてみたい!)                                                                 そう思っても、急に話し掛け質問するだけの度胸と行動力が私にあったなら、当の昔に友達も作れている…。                     そんな事を休み時間の教室で本を読みながら考えていると、湖橋里さんの方から話し掛けられ、何の本を読んでいるのかと訊かれた。                                                                           教室ではよくある出来事ではありつつも、私自身はクラスメイトから自分自身の事について聞かれた経験は一度もなく。話し掛けられることがあっても、大抵は何かの用事がある生徒、もしくは教師だけであった為、私は話し掛けられる事への対応には慣れていなかったー                                                                  私は想定外の事態に対して内心アワアワとしながら、その事を悟られないよう平静を装いながら彼女の質問に答えた。                              その時、愛読していた本は『些細な事から分かる人の心理や性格』という心理学に関することが書かれた物でー                                元々は友達を作るために図書館から借りて来た本で、湖橋里さんに興味を持った一つの要因になった本でもある。                                  (そうだ!どうせなら、この本を出しに質問しよう……いきなり質問するよりは、可笑しくないはず……)                     私は湖橋里さんへ本の内容について説明した後、その本に記載されている『人が何かをする際は、その事柄が生活において必要不可欠なものでない場合。当人の趣味嗜好(しゅみしこう)』によるものである可能性が高くなる』という文言を読み聞かせ、それとなく陸上部に入部した理由を尋ねた。                                            ー彼女は困った様子で、『本の説明はよく分からなかった』と告げた後、部活に入った経緯について教えてくれた。                                    それによると、湖橋里さんは元々走ること自体に興味があった訳ではなく。中学生時代に家でゲームばかりしていると、母親から『ゲームばかりしないで、部活にでも入って運動しなさい!』と促され、運動のために部活を始めたらしい。                                                                                  陸上部を選んだ理由については、どの運動部に入部しても体力作りを理由に走ることになると考え、陸上部なら走るだけで済みそうだと思い至り入部する事にしたとの事…。                                                 (湖橋里さんはズボラな人なんだ…少し意外……)                                                        部活を始めた経緯に関しても、人は必ずしも趣味嗜好で行動している訳ではないと理解り納得した。                       ー次に私は、色恋の話を他の生徒としない理由について質問した。                                         (やっぱり、ハーフなのが関係してるのかな?日本人には興味が湧かないとか…?)                                   彼女は俯くと小声で一言こう口にしたー                                                      『私は皆んなと同じじゃないから……』                                                        私は彼女が口にした”同じ”という言葉の意味がよく分からなかった。                                          何故なら、湖橋里さんの言葉は私にとって()()()()の事だったのだから……                                誰一人として同じ人間なんていない。孤児院の他の子や幼稚園の子達、小、中、高校でも、違っていて当たり前…。                                 湖橋里さんへ言葉の意味を訊く前に、教室にチャイムが鳴り響き彼女は自分の席まで戻っていった。                       ーそれからも私は日課のように、疑問が湧く度に彼女へ質問を投げ掛けた。                                   陸上部をいつまで続けるつもりなのか?他に興味を持った部活はないのか?湖橋里さんは大抵の場合、席に座ったまま退屈そうにしている為、いつでも尋ねることができた。                                                    湖橋里さん曰くー他の部活には特に興味がなく。陸上部でも最近は、熱血な顧問が嫌で続けるかどうか迷っていたが、何故かそれを理由に退部したくないらしく。顧問が変わるまでの間は続けるつもりとの事。                                         彼女の語る話は私にとって、まるで別世界の出来事のように面白く感じ、いつからか質問は湖橋里さんと話すための単なる口実になっていた。                                                           そうする内、彼女の方からも話し掛けてくれるようになり、好きなアニメやゲームの話題から陸上部の顧問に対する愚痴など、多種多様な会話を交わしたが友達らしい挨拶だけは交わせずにいた。                                      ーそして、()()()がやって来た。                                                                    それはある日の放課後……                                                                       『また明日!』                                                                              湖橋里さんはいつもの様にそう挨拶すると部活をする為、校舎のグラウンドまで駆けていった。                        『さようなら……』                                                               (湖橋里さんにはいつでも会える……)                                                            そんな楽観的な考えが、私にとって小っ恥ずかしい『また明日』という言葉を脳裏へと押し留めていた。                                    その事を後悔するとも知らないままー                                                                その日以降、湖橋里さんが学校へと姿を現すことは二度となかったのだから……                                                     

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