第十六章〜イメージと実践〜
(敵の前まで瞬時に移動…) 二日目は教えられた二つの剣技を体に覚え込ませる為のイメージ修行から幕を開けた。 王様曰くー剣技は一つ一つの動作を頭に描き、それを何度も反復する事から始めなければ、決して上達しないとの事。 私は云われた通りに、剣技の動作を一つずつ脳裏に思い浮かべ、少しづつ剣を動かしている内、ふと疑念が浮かんだー (こんな事するより、一回でも多く挑戦した方が早そうだけど……) 「ー国王陛下、習うより慣れろという言葉もあるくらいですし…実際に使ってみた方が良いのではないでしょうか?」 王様は額に手を当て、ため息を漏らすとこちらに向かって問い掛けたー 「勇者カレン、貴公は技という物が何故…存在すると思っている…?」 (急な哲学!?どうしよう…勇者なら、こういう時どう答える…?) 技が存在する根本的な理由について…… (敵を倒すため?…格好良いから?そういう事じゃなくない!?) 私が何らかの答えを示さない内に、王様は自らの言葉で語った。 「俺は積み上げて来た鍛錬の全てを込める為の器だと考えている…」 (ー器?) 「……何故なら、技とはその者が積んできた鍛錬の結晶…。一連の動作には立ち回りの基本が表れ、その威力には鍛え上げた力が宿る!」 (鍛錬の結晶…!?) 王様は内に秘めたー技に対する深い造詣を雄弁に語ると、拳を強く握り締めたー その様子を鑑みて、私は技に対する情熱の圧倒的な差を感じ取り、思わず言葉を失った…… 「ー詰まる所、技は鍛錬によって身に付けた全ての要素で成り立っている。ただ使っている内に身に付くというほど、単純な物ではない…」 王様は真剣な眼差しでこちらを見つめると、肩に手を置き片膝をついた。 「…勇者カレンよ、技を極めるという事は、単なる鍛錬とは違う!自分自身を極めると同義…」 「自分自身を、極める…?」 (意味わかんないんですけど…!?) 「そうだ……とはいえ、当然一朝一夕には行かない。全てを極めた自身をイメージし、その動きに自身を近付けるように意識する事から始めるのだ……」 ーイメージ修行が再開され、私は王様からの助言通り。最強になった自分自身を思い浮かべようと努力した。 そうすると、何故か妙に現実的な考え方をする小さな自分が頭に思い浮かび、『そんな風になれる訳がない』とイメージを阻害され、どうしても上手くいかないー その為、今度は私が知り得る限り最も強い剣で戦うキャラクターを思い浮かべる事にした。 そうして、某人類最強の兵士を脳裏に思い浮かべると、驚くほど容易く技を使うイメージを構築することが出来た。 ーイメージ修行により、半日が費やされた頃に王様相手の実践修行へと移行したが二つある剣技のどちらともイメージ通りには行かない。 【破壊が紡ぐ魔法石】は跳躍後の回転を意識する余り、王様の木剣に剣が当てられずに失敗…。 【薄明な魔法石の煌めき】の場合、王様の攻撃を剣で逸らす筈が、イメージが先走った結果。攻撃を逸らす前にバックステップして失敗…… (これじゃーただ攻撃を回避しただけじゃん…!?) 立て続けの失敗によって、私は無意識に忘れ去ろうとしていた事実に改めて気付かされる事になったー (そうだ…私は、攻撃を避けながら同時に【魔法】の詠唱も出来ないくらい要領が悪いんだった……) その失敗を目の当たりにし、王様でさえ額に手を当て失望を露わにしていた。 失敗の原因は私自信の要領の悪さも要因の一つだが、もう一つ技を使うイメージにも失敗の要因となる問題点が存在しているー その問題点とは、主に【薄明な魔法石の煌めき】の比喩表現と構築したイメージの兼ね合いが悪いという点に起因する。 某人類最強の兵士が『魔法石』のように煌く姿には強烈なインパクトがありー注意していても、そのイメージに引っ張られ体が動いてしまう。 前提として、私のイメージする某人類最強の兵士は、敵の攻撃を待つような消極的な性格ではない為。必然的に、敵の攻撃に合わせて動く【薄明な魔法石の煌めき】との相性が悪くなってしまう。 イメージ修行により、既にイメージは完全に固まってしまい。今から別のキャラクターを思い浮かべたとしても、某人類最強の兵士によるイメージを払拭できるとは思えなかった。 (きっとまた、頭に過ってしまう……) どのようにすれば、イメージを変えずに剣技を使えるのかと、王様を待たせたまま考えた結果…。 最もイメージの強い点は、攻撃を行う瞬間である為。バックステップまでの動作はイメージせずに動き、攻撃する瞬間からイメージすれば良いという結論に行き着いた。 ー部活動の一環で行った『スピードトレーニング』によって鍛えた洞察力と、『一番好きだったゲーム』でモンスターの攻撃を避け続けていた経験がここで活きた。 イメージを要する事なく、王様からの攻撃を逸らし避けられる為。バックステップまでの動作をイメージをする必要がない…。 「必要がない」というより、実際にイメージしない方がバックステップまでの動作は上手くいきーイメージしない分、体も最初よりスムーズに動かせている。私は疑問を感じ、実践修行を中断して語りかけた。 「国王陛下、どうやら回避にはイメージが必要ないみたいです!」 「貴公もようやく気付いたようだな。人間には防衛本能という物が存在する…」 「ー転倒の際、咄嗟に手を地面についたり、目に異物が入らぬよう…反射的に瞼を閉じるなどがそれに当たる…」 「それにより、無意識に危険を判別し、身を守る行動を反射的に取れる為。身を守る行動にイメージの必要はない…」 王様は木剣を下げ、真剣な眼差しでこちらを凝視した。 「敢えて伝えずにいたのは、そのような事に自分自身で判断できるように成ってもらう為だー」 「常に自分の頭で考え、正しい選択をする……勇者とは、そういう存在でなくてはならない…!」 (誰にでも出来ることではない。だからこそ、勇者召喚は間違っている。勇者になれる”実力者”ではなく…勇者として”相応しい者”が選ばれてしまうのだからー) 「……常に自分で考えて、正しい選択をする…?多分それ、違うと思いますよ…」 「私が知っている勇者達は、何が正しいかなんて…考える前に動いてますし。自分一人で何かを決める勇者なんて、一人も居ませんでした。大抵は仲間と相談して一緒に決めます…」 (仲間と相談……だが、それは理想論でしかー) 「それに、正しい選択…?を出来る人が居たとしても、正しいからそうする。みたいな考えじゃ、世界なんて救えないと思います!最終的には助けたいかどうかです!!」 (おっ!今のめっちゃ、勇者っぽいじゃん……) (正しさよりも、助けたいかどうかとは…流石は「勇者に相応しい少女」……) 王様は暫く黙り込むと、『全く持ってその通りだ…』と賛同の言葉を口にした。 ー実践修行が再び幕を開け、幾度もイメージと実践を繰り返す内。イメージしながら体を動かす事にも慣れ、段々と自然な動きが出来るようになっていった。 それでも、その日ー王様へ私の剣が届くことは一度としてなかった……




