第十四章〜貴族〜
『ルーン騎士団』が武器を試し終えるまでの間、私は弓矢の練習に勤しむクロムエルを眺めていたー (そういえば…クロムエル君は両親に勧めれて『ルーン騎士団』に入ったんだったけ……) 「…クロムエル君は何でそんなに必死なの?」 声を掛けると、クロムエルは戸惑った様子でこちらを振り返った。 「クレイグさんから聞いたけど、『ルーン騎士団』には自分から入ったわけじゃないんでしょ…?」 クロムエルは目線を外し俯くと、ゆっくりと口を開いたー 「それは僕の家が、この国の農業を取り仕切っている領主だからです……」 「領主…?」 (アニメやゲームとかでは、貴族とか…偉い人がやってるイメージだけど……) 「僕の両親は、そのっ…貴族…なので……」 「えっ?それって、お坊っちゃんって事だよね…!?」 クロムエルは静かに首を縦に振った。 (うわぁ〜めっちゃ気安く話し掛けてた上に、君呼びしちゃったじゃん……) 「……両親からは『ルーン騎士団』に入団しても、家のことは話すなと言われましたが、勇者様は騎士団員という訳ではないのでー」 クロムエルによると、『ルーン王国』では国の存続において重要な役割を果たしている家に対して、爵位が与えられるらしく。クロムエルの家系は、農業によって食料不足の改善に貢献したことで爵位を与えられたらしい。 両親が『ルーン騎士団』にクロムエルを入団させたのは、一重に社交の場として適切な環境であった為との事。
「ー『ルーン騎士団』には貴族の方が多く在籍しているので、僕は貴族の息子として迷惑をかける訳には行かないんです!」 (よくわからない世界の話……あれっ?) 私はその話を耳にして、一つだけ気になる点に気付いたー 「ちょっと待って…今、騎士団には貴族の人が多いって言った!?」 「はい!例えば、代々鍛冶師をしているランド家のローランドさんも貴族の家系ですし……」 「『宮廷魔法師』の方はその殆どが貴族なので、『宮廷魔法師』の兄がいるというシュレインさんも貴族だと思います!」 クロムエルは純粋無垢な瞳で語った…。 (私の周り…貴族ばっかじゃん…!?) 「ー特に勇者様は、国の存続に必要不可欠な存在なので……召喚された時点で貴族ですよ!」 (私が……貴族…?) その事実を聞かされた瞬間ーまるで私はパジャマ姿で宇宙空間に放り出されたような感覚に陥った…… (ちょっと前まで、普通の女子高生だったのに…意味わかんない……) クロムエル曰くー城内への立ち入りが許可されるのは、貴族か招待された客人だけであり。通常は王家の血縁者か雇われている兵士以外、如何なる身分の人物であっても城への居住は許可が下りないとの事。 「ーそれを認められるのは勇者様くらいです。なので、ローランドさんが勇者様に掴みかかった時は生きた心地がしませんでした…」 「同じ貴族でも、爵位が違いますから……勇者様は公爵相当の重要人物なので…」 「コウ、シャク…?」 私は耳慣れない言葉に首を傾げたー 「公爵って、伯爵よりも偉いの…?」 クロムエルは合わせ鏡のように首を傾げた。 「勿論…ですよ?比べ物にもなりません…」 (エッ…!?アニメやゲームで悪役としてよく見る伯爵が比べ物にならないの!?) 突如として脳裏に、自分が伯爵に平手打ちするイメージが浮かび上がり、私は唖然としたー 「勇者様は『ルーン王国』の命運を背負っている方です!」 (私って…そんなの背負ってたんだ……) 「ローランドさんは男爵なので…もし、勇者様が掴みかかられた事を理由に勇者を引退するようなことになっていたら……」 「最悪の場合、ローランドさんは処刑されても可笑しくありませんでしたから…」 (そんなに…?) 「ークレイグ団長が仲裁に入ったのは、勇者様の為でもありますが…同時にローランドさんの為でもあった訳です!」 「それが本当なら、ローランドって…後先考えてなさ過ぎでしょ……」 私は呆れ返り、それ以上の言葉が出なかった…。 「……ローランドさんも、流石に分かってはいたとは思ったんですが…」 頭の中の伯爵がローランドへと姿を変え、往復ビンタを食らう…… (う〜ん。ローランドは分かってなさそう…) 「僕の家も伯爵家なので、勇者様には失礼がないように気を付けています…」 頭の中のローランドがクロムエルへと変わりそうになり、私は慌てざまに首を振り、早急にイメージを抹消した。 「何か…ごめんね……」 私が徐ろに謝罪の言葉を述べると、クロムエルは不思議そうに首を傾げた。 「何の話ですか…?」 クロムエルの透き通るように純真な瞳がこちらをじっと見つめている。 (ウッ…!?心の奥底まで見透かされそう……) 「クロムエル君には……分からなくていいんだよ…」 (ークロムエル君には、権力に目のくらんだ大人にはなって欲しくない!!) 「大丈夫…平手打ちなんて、絶対にさせないからッ!」 「……平手打ち!?」 ー最終的に全騎士団員が武器を試し終え、殆どの騎士はプライドもあってか、結果的に剣以外の武器を今後も使い続けようとはしなかった。 昼休憩を挟み、一週間続いた走り込み《マラソンモドキ》もとうとう最終日を迎えた…… 『ルーン騎士団』の全団員が三周以上のノルマを達成し、私自身も五周まで走破できるようになっていた。 「よし!マラソン選手超え〜!!」 (…それでも、まだ王様の背中は見えてこない……) 毎日のように行われた走り込みにおいて、王様は常に先頭を行きー誰一人付いて来なくなるまで走り続けていた。 つまり、現時点で一周十キロもある城壁の外周を六周以上も走っていることになる…… 「本当に、人間なのかな〜?あの人…」 (勇者召喚されても、持久力は上がらない筈なのに……現役のマラソンランナー並みじゃん…) 「最後に一回くらい勝ちたかったけど、もう無理そう……」 私の意識は限界を迎え、徐々に霞がかり前のめりに倒れ込んだ。 薄れ行く意識の中、何者かの人影が目に映るー 「やっと限界が来たようだな…もう少しで俺も限界だった。勇者カレン…さす、がー」 耳に響く声らしきものも徐々に遠のいて行った。 ーその後、意識を取り戻した私は『ルーン騎士団』と共に倒れ込んだ状態で『治療魔法』を掛けられていた。 走り込みの後は毎回、その参加人数と同人数の『魔法師』によって、【独りへ捧ぐ癒し】という『治療魔法』により、「動けるようにする治療」を受けている。 【独りへ捧ぐ癒し】とは、一人の対象に対しての治療に使用される一般的な『治療魔法』であり。『魔法師』であれば、誰でも使用することが出来るほど『魔法力』の消費が少ない。 『魔法師』がそれぞれ一人の騎士団員を治療する事にも理由がありー『魔法師』にとって『魔法力』はとても貴重で、一度に沢山消費すると『魔法売り』の仕事が出来なくなる…。 そうすると『魔法師』やそれ以外の国民の生活が立ち行かなくなる上に、【独りへ捧ぐ癒し】による治療は『ルーン王国』の為、『魔法師』が無償で行っていたー その為、『魔法売り』の仕事に影響を出さない事や、『魔法力』の消費に個人差が出ないように配慮した結果として導き出された方法だった。 私の想定以上に【魔法】の存在は便利な一方、そこには同時に現実的な側面があった。 【独りへ捧ぐ癒し】によって、一週間の走り込みは可能となり。限界まで走る続けた事による筋肉痛などの問題も解消され、私は一週間でマラソンランナー並みの持久力を身に付けることが出来た…。 (”出来た”というよりは、”出来てしまった”という方が私と『ルーン騎士団』の心情に近い訳だけど……) そしてあることに気付いたー もしも、走り込みが剣を持った状態で走らなければならなかった場合。恐らく今の半分も持たない…… (剣術の訓練で素振りをしたから分かる…) 王様の『剣の道は持久力から』という言葉は、「常に剣を持ちながら動き続けられる持久力を身につける必要がある」という意味であった事を、私は走り込みを通して痛感した。




