第十二章〜魔法石の剣〜
「ー注文はそれで全部か…?」 私はガランドさんから発せられたー思ってもいない返答に困惑し、言葉を詰まらせた。 「えっ!?あぁ、はい…」 その顔は終始真顔で、表情からでは言葉の意図を察することは非常に困難だった…… (これは…怒ってるのかな?表情からじゃわからないよ〜) 「え~っと、それで支払いについてなんですがー」 「必要ない!」 ガランドさんは食い気味に即答すると、両膝で手を組み、目を合わせる事を拒むかのように俯き続けた。 「さっきも言った通り…俺は昔、騎士団にいたことがある…。騎士団の連中は知り合いか、その子供がほとんどだ……」 「それに、ローランドのバカ息子も使うんだろ?…迷惑かけてる上に金なんか取れるか…!」 (それでもタダなんて、すっごく太っ腹じゃん!?) 「ー理由はそれだけじゃないけどな……」 ガランドさんは神妙な顔つきで呟いた。 「理由ですか?」 「ああ。それは俺がまだ騎士団員だった頃の話になる……」 ガランドさん曰くー『ルーン騎士団』へ入団した経緯は、『その家に生まれたというだけで家業を継がされる事』に対する反抗心が一つの切っ掛けでありー その時代、最も活躍していたという理由により、『ルーン騎士団』への入団を決めたらしい。 ガランドさんが当時在籍していた『ルーン騎士団』は、実際に数多のモンスターを討伐していたが…… そんなある日の事、『ロックリザード』という文字通りの怪物が騎士団の前へと立ちはだかった。 『ロックリザード』は先代の鍛冶師であったハイランドの打った剣が、全く通用しない強敵でー『草薙の剣』とまで呼ばれた王の剣技を持ってしても容易く弾かれてしまった。 家を継ぐことを否定していた当時のガランドさんにとっても、父親の打った剣は一つの誇りのような物だったが…… その剣が、『ロックリザード』には「誰が扱っても通用しなかった」という事実に対して、ガランドさん心に絶望感と消えることのない情熱を灯した。 それにより、決意を新たにしたガランドさんは『親父達が代々継いできた鍛冶技術で『ロックリザード』にも通用する剣を造ってやる!!』という想いのもと、鍛冶師を志したー その為、鍛冶師になるきっかけを与えてくれた『ルーン騎士団』に恩義を感じているらしい。 「ーどうやら、その恩義に報いるのは今らしいな……騎士団が武器を発注するということは、再び『ロックリザード』を討伐しようとしているんだろう…?」 ガランドさんは真剣な眼差しでこちらを凝視したー (不味い…今更、盾を造ってもらう為に来たなんて言えないー!!) 「『ロックリザード』を倒すための武器を探しにきたので、まぁ…そういう事になりますね……」 「そうか。なら、丁度いいのがある…少し待ってろー」 そう告げると、ガランドさんは店のカウンターから何かを手にして戻ってきた。 それは鞘に収められた一振りの剣で、その剣身は電源の入っていないスマホの液晶画面かと見紛うほど、真っ黒な色をしていた…… (何、この……剣?) 私が剣について問い掛けると、ガラントさんは自慢げに語り始めた。 ーその剣は名を『魔法石の剣』と言い。鋼に『魔法石』を混ぜ合わせた合金鋼を剣身に使うことによってー 『魔法石』と同様に『魔法力』を込めることを可能にした。唯一無二の剣であり、『魔法力』を込めることで無限に斬れ味を増すことが出来るらしい。 (それにしても、中二みたいなネーミングだな〜) 「嬢ちゃんは勇者なんだろ?…なら当然、『魔法力』持ってるよな!」 ガラントさんは興奮した様子でソファーから立ち上がり、詰め寄ってきたー (そんな、ハンカチみたいに……) 「まあ、一応ある…みたいですけど?」 「なら、使えるな!実のところ、造ったはいいが使う奴がいなくてな……『魔法師』の連中は、剣など使わんー」 「理論上、無限の斬れ味を持つ『魔法石の剣』も、『魔法力』を込めなければただの鈍らだ!」 ソファーへ座り込むと、ガランドさんは沈黙の後ー再び口を開いた。 「ーだが勇者なら、『魔法力』があり剣も使う…。それも魔王を倒すためにだ……」 「魔王を倒した剣の生産者ともなれば、鍛冶師にとってこれ以上の名誉はない!無論タダだ。使ってくれ!!」 半ば強引に手渡されー私は『魔法石の剣』を手に入れた。 「はぁ~…分かりました……」 (適当に話を合わせただけで、凄そうな剣がもらえた…。何か、複雑〜!) 私の個人的なイメージでは、勇者が使う武器などは神から授かったり、選ばれし者がどこかに刺さった剣を引き抜いたりして手に入れる物であり…… アニメやゲームでは大抵の場合、勇者にしか使えなかったりする。 (この『魔法石の剣』とか言う剣は、『魔法力』があれば誰でも使えるらしい……) その事実に対して、私は失望を露わにした。元来、勇者のように”何かを特別視する考え”自体には苦手意識を感じていたが、それでも特別な武器には興味を持っていた。 それ程、「自分専用のチート武器」は全ゲーマーにとって憧れの存在と言えるー (なのに…私の武器これ〜!?カウンターからヒョイだよ!ヒョイッ!!…そんな事ある?) (斬れ味が増すっていう特性もなんか地味目だし……何とか、特別な武器だと思える方法を考えないとモチベが保てないじゃん!) ーその後、ガラントさんが鍛冶屋の工房で盾以外の武器の製造を進めていると、ローランドが目を覚まし工房へ姿を現した。 「お〜イテテッ、俺は…何で寝てたんだ?」 私はすかさず、ローランドの土手っ腹にパンチをお見舞いした。 「ブフォッ!?おいッ!何で殴るんだよ?」 「……ふんっ!」 私はローランドを無視し、そのまま背を向けた。 「ちょっ、おい!意味わかんねぇーよ!?ちゃんと説明しろッ!!」 それから暫くしてーローランドに気絶していた間の出来事について説明した。 ローランドは説明を聞くなり、直ぐ様ーガランドさんの傍まで近寄ると、何やら講義を始めた…… 「ーなんで剣以外の武器なんて造ってるんだよ!親父には鍛冶師としての誇りがないのか!?」 「ずっと剣一本で勝負してきたじゃないか…?今更…別の武器なんて、造る必要ないだろッ!」 (え〜っ!?それ、ローランドが言うの…?) ローランドの放った苦言に対して、ガランドさんは作業を続けたまま、毅然とした態度で反論した。 「剣で勝負しないとは言っていない…。それに鍛冶師だからこそ、今よりも強い武器を造れる可能性がある限り…何でも試す貪欲さを持つべきだ!」 「お前も鍛冶師の息子ならー」 ガランドさんの言葉を遮るように、ローランドは近くの作業台を叩いた。 「親父はいつもそれだッ!鍛冶師の息子、鍛冶師の息子って…も〜うんざりなんだよッ!!」 (うわー超怖いじゃん!来なきゃよかった……) ガランドさんは意にも返さず作業を続けていた。「ーそれに、親父は自分自身の手でモンスターを倒したくないのか?武器造って…誰かに倒してもらえば、それで満足なのかよッ!?」 「俺はそんな考え…絶対に認めない!それに分かってるだろ…親父と違って、俺は不器用だから……鍛冶師になんて成っても、親父みたいには出来ないんだって!!」 ローランドはそう言い残して、鍛冶屋から勢いよく飛び出して行ってしまった。 「ローランドー!?」 ガランドさんが鍛冶屋の前で呼び掛けた時には、ローランドの姿は影も形も見えなくなっていたー (走り込みの成果が変なところで出てる…!?) 「あの、バカ息子……」 ガランドさんは目頭を手で押さえながら俯くと、深いため息を漏らした。 「はぁー、すまない。昔っからああなんだ…熱くなると周りが見えず、それでいて頑固で……」 (ガランドさんもそんな感じだけど……) 「親子というのは嫌なところばかり似るもので、本当に困っています……」 私はガランドさんの心を読んだかのような発言に動揺し、思わず目を泳がせた。 「あっ!ああ、そー…ですね……」 (自覚、あったんだ〜)




