現代パロ 先生と生徒編 逆転ver
「や、リリィちゃん、今日も可愛いね」
「何度も言ってますよね? そんな風に呼ばないでください。ここは学校ですよ? 節度を持ってください」
廊下を歩いていると教室から出てきた可愛い顔に声をかけると、冷たい声と冷たい目が返ってきた。リリィに続いて教室からでてきた、お友達がくししと私を見て笑う。
「やーい、エレナちゃんまたふられてやんの」
「いーの。うちの可愛いリリィちゃんがちょっかいかけれないようにしてるだけなんだから」
「姑息すぎて草」
私と祖父同士が兄弟である、親戚の女の子。リリィは私の担当する三年一組の生徒だ。リリィのことは小さい時から知っていて、可愛い可愛い大切な女の子だ。
なのでこうして教師の親戚がいて気にかけてますよ。とアピールして悪い虫が近づかないようにしているのだ。からかっているとか、睨んでくる顔も可愛いとか、まあ可愛いのは事実なんだけど、とにかく他意はない。
「じゃあね、二人とも。授業頑張ってね」
「エレナちゃんもねー」
「……」
リリィには無視をされてしまったけど、その癖最後に階段に向かって角を曲がる時にちらっと振り向いてくるところなんか、最高に可愛い。
そう思いながら、私は職員室に戻った。
〇
「たっだいまー」
「……おかえりなさい。エレナはいつも元気ね」
仕事が終わって家に帰る。まだまだ若手教師の私にはそれなりに仕事があるので、毎日定時帰りは難しい。なのでそれなりに疲れてはいるのだけど、帰ったらなんといっても可愛い可愛い恋人が待っているのだ。元気にもなろうと言うもの。
「リリィの顔を見て回復したよ。今日もありがとね」
「別にこのくらい、普通よ」
そう、リリィとは親戚なのも本当だけど、その実態は恋人なのだ。年末のリリィの誕生日に籍を入れようと約束をしている。
父の実家はちょっとばかり大きくて、年に一度年始には親戚一同が集まっている。リリィともそれで年に一度は会うし、同じ県内だから旅行したらそのお土産を渡しに行ったりして会う程度の仲だった。
基本的に親族の中でも同年代と集まることが多いし、リリィとは7つ年が離れているのだけど、普通にリリィがめちゃくちゃ可愛いのと、ちょっとばかり真面目でお堅いリリィは正論しか言わない一番直系の長女と言うことでちょっと浮いていたので、姉貴分としてそれなりに仲良くしていた。
リリィが高校生になるのを祝っていたところ、リリィから相談をしたいと言われたのだ。
「え? なになに? 何でも言って。お姉ちゃんが何でも相談に乗るよ」
「……いえ、やっぱりやめるわ。エレナさんに相談しても仕方ないし」
「えー、そう言わないで。相談に乗りたいよー。リリィと一番仲がいい親族だと思ってるの私だけ? 悲しいなぁ」
「それは……私も、そう思っているけれど。ああもう、わかりました。でも真面目な相談だから、笑ったら怒るわよ」
てな具合に頼りになる姉貴分の私にリリィが相談したのは、仲がいいと思っていたお友達から受験を前にすっきりしたいからと告白されてしまったらしい。そんな気はなかったしフったし、そのお友達もわかっていたのでわだかまりなく、それからも変わらぬ関係らしい。
で、リリィとしては本当によいお友達だと思っていたのに、どうしてそんなことになったのか。恋とはなんなのだろう。という相談内容だった。
私はリリィより七つも年上なので恋愛相談でも余裕、と言いたかったけれど、告白されて一度だけ付き合ったけれどなーんにもないまま普通に別れ、恋愛経験はなし。ということで苦肉の策で私が出した答えがこれだ。
「そう言うのは、言葉で言ってもわからないと思うよ。実際に体験してみないと。ということで、とりあえずお試しで私と付き合ってみる? 私ならリリィと付き合ったからって調子に乗って無理強いすることはないし、試すのにちょうどいいでしょ?」
というわけでお試しで付き合った。リリィのお試しだったんだけど、なんか、リリィのためにと私なりに精一杯恋人ごっこしてたら、たまにしか会わないと意識しなかったけど、ほんとにちゃんとした子だなぁとか、細々と気遣いができる子だよねぇとか、意外とすぐ照れちゃうんだなぁとか、綺麗な顔をしているけど可愛いところがいっぱいあるんだなぁとか、なんていうか、普通に好きになってしまった。
そんでなんかわかんないけど、リリィもいつの間にか私にじっと熱い視線を向けてくれるようになってたので、正式に付き合うことにした。
という経緯だ。年齢差が年齢差なので、できればみんなには内緒にしたかったのだけどリリィにそんな思考があるわけなく、普通におじい様たちに公表され、あれよあれよという間に婚約者になってしまった。
嫌ではないけどもちろん。でもちょっと恥ずかしいって言うか。まあ、学生のうちから結婚の許可がもらえたのもそのおかげだからいいんだけど。
そんなこんなで、リリィが高校生になった時から同棲している。私が教師をしている学校の生徒なので、表向きにはただの親戚で同居ということにしている。
さすがにね。高校教師が高校生とつきあってますって言うのはあまり外聞がよくないので。だから逆に早く籍を入れておくのも許可がでたし。
「またそんな、つれないこと言って」
私がそう軽口をたたきながら、玄関まで迎えに来てくれたリリィにむかって、玄関の段差があるので少しだけかがんで顔の位置をあわせて顔を寄せる。
するとリリィは黙って目を閉じるので、その唇に軽く触れるキスをする。唇を離して一秒。目を開けたリリィに至近距離のまま微笑む。
「こうやってキスで迎えてくれるくせに」
「私がしているのではなくて、エレナが勝手にしているのよ」
もう数えきれないくらいしてるのに、いまだに照れてさっさと先に中にはいっちゃうの、ほーんとに可愛い。
そんな感じに、私は毎日リリィとの同棲生活を満喫していた。
「あの、エレナ……一つ、質問してもいいかしら?」
そんなある日、お風呂上り。寝室でごろごろしてそろそろ寝ようかなと言う時間。リリィが何やら真剣な面持ちでそう声をかけてきた。
「え? なに? どうしたの? はっ、もしかして、学校でなにか問題とかあった?」
そろそろ冬が近づいてくる高校三年生の頃だ。リリィ本人は推薦で大学が決まっているとはいえ、友人関係も色々あるだろう。私は真剣な顔で言いづらそうにしているリリィの元に四つん這いでベッドを移動して近寄り、そっと肩をだいて寄り添う。
ちなみに寝室はベッドを少し開けて二つ並べている形で、普段はあんまりお互いのベッド間は移動しないようにしている。いくら家族公認の同棲とは言え、節度は必要だからね。
「いえ、そういうことではないの。学校生活に問題はないわ」
「そうなの? よかった。じゃあ私への個人的な質問ってこと? なになに? 何でも言って」
「え、ええ……あの、今度、私の誕生日に籍を入れると約束をしているじゃない? その……」
「ん? そうだけど、もしかして別の日がいいとか?」
単純にちょっとでも早い方がいいし、覚えやすいし、リリィも特に反対がないようだったけど、特定の思い入れのある日があるならそうしてもいい。来年の春に結婚式の予定は決まっているから、それまでにはしたいんだけど。
だからそう尋ねたんだけど、リリィはどこかもじもじしてうつむき気味に私から視線をそらしながら首を横に振った。
「いえ、そうではないの。ただ……籍をいれたら、私達の関係は、その、今と、変わるのかしら、と、思って」
「リリィ……」
自分で自分の手を握って言いづらそうにしながらそう尋ねたリリィに、私は申し訳なくなる。私はもうすぐ籍がいれられるの嬉しいなー、なんてうきうきしているばかりだった。
繊細はリリィはマリッジブルー的なものにかかっているのだろう。私の方が年上なのに何も気づかなくて、リリィ一人で悩ませていたなんて不甲斐ない。
私はリリィの両手を包み込むように右手を重ね、リリィの肩を掴んだ左手を曲げてぎゅっと体をくっつける。
「気づかなくてごめんね。安心して。私達の関係は、なにも変わらないよ。籍をいれようといれまいと、私はリリィが大好きだし、ずっと死ぬまでリリィを幸せにするよ」
「ぁ……ぅ、そ、そう。その、ありがとう」
安心させるように体温を伝えて、顔を覗き込みながら極力優しい声でそう伝えると、リリィはぽっと頬を赤くして、いつになくもごもごとした含んだようにお礼を言ってくれた。
まだ何か言いたげに見えるけれど、無理に暴いても仕方ないだろう。リリィから言いたくなるよう、もっと努力しないと。
「いえいえ。どういたしましてと言うか、当然のことだからね。何かあったら、何でも言って。リリィの力になるから。私は何があっても、リリィの味方だからね」
「え、ええ……そうね。おかしなことを聞いてごめんなさい」
「ううん。おかしなことなんてないよ。不安なことがあるなら、今日は添い寝してあげようか?」
「け、結構よ」
「そっかー、残念」
どこか物憂げなリリィだけど、私の軽口には照れたようにしてどもりながら否定した。つい頼っちゃうときがあるほどしっかりして大人だけど、こういう初心なとこは可愛いんだよね。よーし。大人として、私がしっかりしなきゃね。
〇
そんな風に気合をいれて今まで以上にリリィの態度や言葉を細かく気にかけたけれど、リリィが特に大きな不安を抱えている感じは見えなかった。
あれで安心してくれたのかな、と思いながらもリリィの誕生日がやってきた。籍を入れると言っても、平日だ。なので夜間受付に提出することになる。
平日とは言っても金曜日なので、せめてディナーでもと提案したのだけど、それはリリィに却下されて土曜日に食事に行くことになった。
なのでいつも通りの夕食をとってから、リリィと一緒に役所に向かった。せっかくなので記念写真をとってから家に帰った。
「うーん、思ったよりあっさりだったけど、でも、これでようやくリリィと正式に夫婦だと思うと、やっぱりテンションが上がるね」
「そうね。なんだか、不思議な心地ね」
ついつい普段ならしないけどリリィと手をつないだまま帰ってきたし、リリィもそれを拒まなかった。リリィも同じように浮かれてくれているように見える。
「リリィ、ちょっとそっち行ってもいい? お話がしたいな」
「ぇ、か……構わないわ」
家についてもどこかふわふわした気持ちで、普段ならそろそろ寝る時間に寝室に入っても全然眠くならないので、私は話をして落ち着こうとリリィに許可をもらって近寄った。
リリィはなにやら落ち着かなさそうにしている。私と同じ気持ちでいてくれるんだろう。珍しい姿ににやけてしまいそうだ。
ベッドの端に腰かけていたリリィの隣に並んで座って、太ももの上においているリリィの手をそっと左手で握る。照れくさそうに俯いているリリィに、私はその頬にキスをして、ますます俯いてしまう可愛い様子に愛おしくて胸が熱くなる。
「リリィ、改めて、結婚してくれてありがとう。大好きだよ。幸せになろうね」
「ええ……そうね。私も……エレナが好きよ。あの時、あなたに相談をしてよかったわ。恋をする相手があなたで、本当によかった」
「リリィ……」
私の言葉にリリィはゆっくり顔をあげてはにかむような笑顔を向けてくれる。そしてどこか噛みしめるようにしてそんな嬉しすぎることを言ってくれた。
普段の態度からリリィの好意を疑うことはないし、時には言葉は少ないけどちゃんと好意を示してくれる。だけど恥ずかしがり屋でこんな風に自分から直接言葉にしてくれることはあまりないからか、そのまっすぐな言葉にくすぐったいような喜びが湧いてくる。
ああ、本当に幸せだ。リリィの相談を無理にでも聞きだして、お試しで付き合おうなんて言ったあの時の私、本当にグッジョブとしか言いようがない。
「リリィ、愛してるよ」
「ええ。……私も、愛してるわ」
顔を寄せると、リリィは頬を染めながらどこかうっとりしたような色っぽい表情で目を閉じる。その表情に思わずドキドキしてしまう。結婚したとはいえ、リリィはまだ高校生。まだ、まだ早い。
私は鼓動を抑えながらそっと、いつもと同じ触れるだけのキスをする。今キスをしている相手は、もうただの恋人じゃなくて、結婚した私の奥さんだ。そう自覚するとただのキスでも頭がぽーっとするほど舞い上がってしまう。
「……エレナ」
「うん……リリィ」
リリィも同じ気持ちなのか、どこかぼんやりとしながら私の名前を呼ぶ。ただ見つめあいながらお互いの名前を呼ぶ。それだけで心が満たされるような幸福感。はぁ、ため息がでるほど幸せだなぁ。
「……名残惜しいけど、そろそろ寝ようか」
だけど、ずっとこうしてはいられない。いやもちろん、ずっとこうしていたい。でも、ちょっと理性が揺らいでしまいそうなので。
私はリリィに触れた手を自分から離せないまま、気持ちを切り替える為にまずは言葉をそうかける。
「え……」
「え?」
リリィは私の言葉に、何故かショックを受けたかのように私の顔を覗き込んでくる。あ、もしかして、結婚したばかりなのにもう離れるなんて愛情が低いと思われちゃった!?
「ち、違うよ? 本当はもっとずっとリリィといちゃいちゃしたいし、一晩中くっついていたいくらいだよ? でも、リリィのこと愛してるから。その、結婚もしたし、あんまりくっついてると添い寝以上のことをしたくなっちゃうって言うか」
「……結婚したんだもの。その、そう言う関係に……自然と変わるものではないかしら」
「えっ……」
え? もしかして、してもいいって言ってる? ていうか関係って、あれ、もしかしてちょっと前にリリィが結婚して関係変わるかって聞いてたのって、そう言う、えっちなことするようになるかどうか聞いてたってこと!?
「いや、いやまだ高校生だし……え、ほんとにいいの? 後悔しない?」
「……別に、まだ私が子供に見えるなら、無理にとは言わないけれど」
一応私も教師だし、結婚してるとはいえ生徒を相手にっていうのはまずいよね。成人したと言っても高校生って世間的には子供扱いだし。
と、私なりに理性を働かせていたのだ。だけどもちろん、子供に見えているから手を出してこなかったわけじゃない。
こんな風にされて、リリィの言葉に、表情に、心揺さぶられてしまうに決まっている。私はぎゅっとリリィの肩に触れて抱きしめる。
「……あのさ、リリィ。いや、こんなこというの、あんまりよくないかもしれないけど。ほんとにただの子供に見えてたら恋人にもならないよ。ずっと前から、私にとってリリィは子供じゃないよ。わかってるでしょ?」
「……わからないわ」
あれ、私としては割といい雰囲気での口説き文句のつもりだったんだけど、普通に否定されてしまった。
反応に困る私に、リリィは真っ赤な顔でちょっと睨むように私をじっと見ながら、ゆっくり口を開く。
「わからないから、ちゃんと、教えてちょうだい」
「……うん」
私は一晩かけて、子供じゃなくて一人の女性として愛してることを、リリィにしっかり教えてあげた。
こうして、私とリリィの幸せな新婚生活が始まるのだった。
これで完結になります。
読んでくださりありがとうございます。
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最後までお付き合いくださり本当にありがとうございました。




