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あなたを幸せにすると誓います  作者: 川木
その後の話

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リリィの着せ替え人形になる話

「エレナ、約束を果たしてもらう時が来たわよ。さあ、こっちへいらっしゃい」

「はーい」


 リリィはそう言ってにっこりと、とても楽しそうに微笑んだ。昨夜から宣言されてたので、今更逃げる気はないけれど、やはり気は乗らない。


 年明けの長期旅行も過ぎ、もうすぐ春になる。結婚してから一年。長かった気もするし、あっと言う間だった気もする。

 なんて感傷にひたっている場合ではなく、リリィと以前約束した、結婚式の衣装を私が好きに選んだ代わりに、リリィの好きな格好をする日がやってきた。


 リリィが楽しいなら、いやでも、ドレスって。女装やだなぁ。とは思ってしまう。女装ではないけども。まあでも、実際に着れば似合わなくて、リリィも思ってたのと違うとすぐに飽きてくれるだろう。

 リリィのあの美しいドレス姿をじっくり堪能させてもらったのだから、一日リリィの玩具になるくらいは甘んじて受け入れよう。


 と、私はしぶしぶなのを悟られないよう愛想笑いをしながら、リリィに促されるまま近寄った。横の机には大小さまざまな箱がおいてあり、普段は壁際の全身鏡が見やすい位置に置かれている。


「ふふ。素直ないい子ね。きっと似合うわよ」

「うん、まあ。リリィの言うとおりにするけど、ちょっと恐いなぁ。どんな服なの?」

「いくつか用意をしているのだけど、いきなりドレスはあなたも抵抗があるでしょうから、まずは控えめなワンピースにしたわ。これよ」

「ああ……リリィに似合いそうなワンピースだね」


 楽しそうに机の上に置かれている箱をひとつあけて、リリィはワンピースを取り出して自分の頭の横まで手を挙げて全体を見せてくれた。

 白を基調とした、裾に花と葉の刺繍のある爽やかで清楚なワンピースだった。フリルはなくリリィだったら部屋着にするくらいシンプルなものだけど、まあ確かに、そのくらいのものならまだ。

 お風呂上がりの寝間着なんかは男女差がない上下一体型のバスローブみたいなものもあるから、女装と言う感じはまだましではないだろうか。まずは、というのが不穏だけども。


「じゃあ、着替えてくるね」


 と思いながら、リリィをが持つワンピースに触れる。が、リリィが手を離してくれない。顔を見ると悪戯っぽい表情をしている。


「どうしたの? リリィ」

「男性の服ばかり着ていたから知らなかったのかもしれないけれど、女性用の衣服と言うのは、一人で着るのは難しいものなの。私が手伝うわ」

「えっ、い、いいよ。恥ずかしいし」

「何を言っているのよ。普段は私の服を勝手に脱がせているあなたに、拒否権があるとお思いで?」

「うっ」


 勝手にとか、そんなこと言って脱がせていい? とか口頭確認したら絶対怒るくせに。でも勝手と言う言い草はおいておいても、脱がせているのは事実。

 でも薄暗いし、ベッドの中だからそんなにはっきり見えているわけじゃない。真昼間の今となると全然話が変わってくる。


「あれはベッドの中だからはっきり見えてないし、話が全然違うって。私は元々、着替えを手伝ってもらうこともないしさ」

「あら……私は別に、今夜、もっとよく見せてあげても構わないわよ?」

「えぁっ」


 やや頬を染めて妖艶に微笑みながらとんでもないことを言われて、思わず変な声がでてしまう。

 それはまた話が変わってくるよね? だってそんなの、ずるいじゃん? 断れるわけないよね?


「……ひ、姫のお望みのままに」

「よろしい」


 ついちらちらリリィの顔から下に視線をやってしまいながらも了承する私に、リリィは満足げに頷いた。そうして嬉々として脱がされていく。

 リリィは躊躇いなく私の上を完全に裸にした。服を着替えるにしても下着はつけたままだと思っていたので驚いたけど、女性用の下着まで用意していたようで抵抗をやめた。


「こうして、ちゃんとしてあげると、ほら、女性らしいラインになったわ。可愛い」


 普通に胸を触られたけどこれ合ってるの? とは思うけど、私には何もわからないので仕方ない。されるがままリリィに服を着させられる。

 ワンピースは後ろでとめるタイプなので、確かにこれだと一人で着るのは難しそうだ。と思いながら自分がうつる鏡を見てみたけど、確かに首から下だけを見るとちゃんと女っぽい。

 けど、その上に乗っている顔が問題だ。いつもの私の顔なので、ちぐはぐにしか見えない。


「あの、リリィ。目が曇るほど私のことが好きなのは嬉しいけど、さすがに可愛いは無理があるでしょ。違和感すごいよ」

「それはあなたが自分の顔を男性服で見慣れているからで、エレンと言う存在を知らなければ普通に可愛いエレナちゃんになっているわよ。とはいえ、まだこれで完成ではないわ」

「え、なに?」


 服を着終わったのに未完成ってどういうこと? と首を傾げる私の手を引いて、リリィは私をいつものソファではなく椅子に座らせた。


「今から、あなたに魔法をかけてあげるわ。大人しくしておくのよ」

「あ、はい」


 手になにやら持ったリリィがにっこり微笑んでそう言うので、私は相槌を打つしかできなかった。どうやら化粧をされるらしいと察したものの、それぞれ何をするものなのかわからない。口紅くらいしか知らないし。

 化粧なんて、そこまで本格的に女装するとは思ってなかったけど、ここまで来たら中途半端な方が恥ずかしいだろう。なにより、リリィが楽しんでいるのだから邪魔はできない。

 私は言われるがままに視線を動かしたりしながら、時にくしゃみを我慢しながらリリィの化粧を受けた。


「というか、リリィって人の顔に化粧なんてできるんだね。自分でするのと人にするのって調子がかわりそうだけど、器用だね」

「ふふ、おかしなことを言うわね。自分の顔に自分で化粧なんてできるわけないでしょう。貴族女性は専属の化粧師がいるものよ」

「えっ、そうだったの? いや、侍女にしてもらってるのかなと思ってはいたけど、専任の人なんだ」

「そうよ」


 そうだったんだ。リリィ専任の侍女がたくさんいるのはわかっていたけど、化粧専門の役割分担とかあったんだ。リリィはしてもらってるとは思っていたけど、私の顔に化粧をし始めるから、意外だけど自分でしてるのかと。それはそれとして。


「それじゃあ、なんで私に化粧できるの?」

「もちろん、学んだからに決まっているでしょう? エレナの顔に合うお化粧を教えてもらっているから、安心して頂戴」

「はぁ」

「はい、次は口を閉じて。唇をこう、合わせて」


 んぱ、とリリィが見本として自分の唇を中にひっこめるようにしてむにむにと動かした。そうやって口紅を唇全体になじませているんだなぁと学ぶと同時に、見慣れない可愛い動きになんかちょっと、意識してしまう。

 新鮮なリリィの姿に見とれつつも言われるまま着せ替え人形の気分で受けると、ようやく終わったのか私の顔を、近づいたり距離をとったりしてまじまじと見てからうんと頷いた。


「できたわ。ふふ。我ながら、とても可愛さを引き立てられたと思うわ」


 そう言ってリリィは私の手を引いて立たせ、先ほども見た全身鏡の前に私を移動させた。私の横から覗き込むようにして一緒に鏡を見ている。


「……」


 びっくりした。ぱっと見た印象が全然違う。何がどう違うってうまく言えないけど、私じゃないみたいだ。というか、自分で言うのも恥ずかしいけど結構可愛い女の子に見える。


「うふふ。可愛いでしょう? エレナの涼し気な目元も、感情をよくあらわす大きめの口も、すごく素敵で私は好きだけど、可愛いより格好いい印象になるから、そこを変えたのよ」

「ほうほう。なるほど」


 言われてよく見ると、目元にそって入っているラインが目じりの先から下に向かって少し伸びていて、そこまで二重のラインみたいで垂れ目っぽく見える。口紅は端の方まで塗らず、縦にはちょっとはみ出ている。それによって口の形が口紅の形になっているみたいに見える。案外普通に話すだけだと口の端まで開かないから、違和感がないものだ。


「仕上げに、はい。これで街を歩けば、きっと誰もが振り返るでしょうね」


 じっくりと鏡を見るナルシストみたいな私に、リリィは楽しそうに笑いながら私の髪を一筋とって、小さな花飾りのついたヘアピンを付けた。髪型は変わっていないのに、それが付いただけで一気に女子の髪型になった気がする。


「はー。化粧ってすごいね。本当に魔法みたいだ」


 さっきのリリィのセリフはずいぶん少女らしい可愛らしいものだと思ったけど、こうして実際にその違いを実感すると、あながち間違いではないだろう。


「もちろん、あなたの元がいいからよく魔法が効いているのよ」

「はいはい、ありがと」


 最初は女装なんて、と思っていたけど、こうしてリリィの施術を受けた今は案外いい気分だ。私も普通に女子として育てられたら、こんな感じの姿をしていたのだろうか。あったかもしれない姿。無様な格好ならともかく、こうして見て違和感のない姿なら、リリィの前でくらいなら女装も悪くない。


「ふふふ。それじゃあ、次の服ね」

「え、はい」


 そう言ってリリィは、まんざらでもなくなった私に対して、今度は肩を出した少し派手なドレスを出した。今着ているシンプルなワンピースよりかなり女子女子していて、私は思わず頬を引きつらせながらも、頷くしかなかった。


「ちょ、ちょっとリリィ、いくらなんでもこの格好はありえなくない? 痴女か、そうじゃなかったらそう言う職業の人だよ」


 リリィがワンピースの次に出したのはぱっと見、肩を出したドレス、と見せかけて実際に着たところとんでもなかった。肩がないだけではなく、背中側が縦に大きなひし形が並ぶように穴が開いていて、下着部分をぎりぎり隠す以外背中が丸見えだったのだ。いや、なんならぎりお尻までいっている気さえする。前だって深い切れ込みで胸の谷間、は元々ないんだけど、リリィだったら確実に谷間が見えているところまで出ている。


「ふふ。それは言いすぎよ。その上にレースのストールを羽織ってだけど実際に夜会に出席した人のいる、先人のいるデザインなのだから」

「うっそでしょ!?」


 レースのストールってほぼ見えてるじゃん。夜会だから昼間よりは暗いとはいえ、むしろ余計に駄目でしょ。思わず自分の格好を見返してしまう。スカート丈だけはきちんと足首まで隠しているのがむしろ腹立たしい。この国の貴族女性の常識として足を出すのが一番はしたないというのは知っているけども。

 だからって別に胸をだしていいわけじゃないし、背中だってこんなにだしたら肌色多すぎて普通に目のやり場に困るでしょ!?


「本当よ。と言っても若い人が着るには少しはしたないから、子供が成人したくらいの年代の淑女でなければ、あまり大っぴらに着ることはできないけれど」

「じゃあ駄目じゃん」

「個人的に楽しむくらいなら、目くじらを立てる人もいないわよ。私達は夫婦なのだし」


 それはその通りなんだけども。夫婦で二人きりなんだから、全裸になったところで別に問題はないんだけども。でもそれとこれとは別でしょ。普通に恥ずかしい。

 なんかめっちゃキラキラして夜会仕様っぽいのも着飾ってる感強くて、広がるスカートの重さも、部屋を暖めているとはいえ涼しい空気を感じてしまう頼りなさといい、ドレスを着ている感を意識しすぎてしまう。


「ふふ。このドレスは確かに露出が多いけれど、あなたの女性的魅力を引き出しながらも、凛としたところが強調されていて、知らない人にはとても格好いい女性に見えるわよ。素敵よ」

「うひゃっ、へ、変なところ触らないでよ」

「まあ、可愛らしい声ね。その格好でそんな声を出されると、ギャップがあって非常に愛らしいわね」


 鏡を見てもこれはさすがに痴女じゃん……となる私に、リリィは楽し気に笑いながら私の背中をなぞるように触れてくる。そんな触れるかどうかくらいの感じで触ってくると思わなくて、くすぐったくて思わず変な声が出てしまった。

 だけどそうして抗議してもリリィはどこ吹く風。背中から腰に手をまわすように撫でながら、聞いてるだけで照れそうなことを言ってくる。


「そ、そろそろ次の服に着替えようか」

「あら、ふふふふ。あなたもようやく乗り気になってくれたようね」


 ノリノリなんじゃなくてこの服を脱ぎたいだけ、とわかってないわけないのに、リリィはそう言ってご機嫌で私に次の服を用意した。



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― 新着の感想 ―
準備しっかり時間をかけたんでしょうね 楽しそうに支度するリリィさんが思い浮かびます そしてちらほらでてくる単語に夫婦感が!w 順風満帆ですね♪ このまま夜は攻めのリリィさんだろうか 可愛いエレナ独…
えぁっ、うひゃっ、女装 リリィさんの新たな一面のおかげでエレナさんも自分の可愛さに気付けた…のかな 今回はひたすら楽しいお話でした!
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