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あなたを幸せにすると誓います  作者: 川木
第三章 約束

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第四十七話 これからと、過去のこと2

「と言っても、私も幼かったから、どれも聞いた話をまとめたものになるのだけど」


 そう前置きをしてからリリィは話してくれた。どこから話そうか、と悩んでいたので、何も知らない人に話すようにわかりやすく順序だてて言ってくれるようお願いした。


「私は根拠のない噂くらいしか聞いたことないし、リリィのお母さんの名前も知らないしね」

「そう……そうね。最初から。まずは私の母ね。母の名前はマーガレット。現国王の姉で、乳母が言うにはお転婆で有名な気の強い人だったらしいわ」

「え、そうなんだ」


 悲劇的な噂が流れていたので、てっきり繊細な人かと思っていた。リリィの母親なのだし、線の細い人なのだろうと。そんな私の反応に、リリィはくすりと笑ってつないだままの手を揺らすようにして私の太ももと軽く撫でた。


「ええ。家族仲がよくて両親にも弟にも愛されて大事にされていて、民の前にも積極的に顔をだして広く顔が知られていて、慕ってくれる人も多くて、明るくて太陽みたいな人だったと聞いたわ。……こんな風に言うと、なんだか、自慢している風になってしまうわね」

「きっと、教えてくれた人はリリィに自慢していたんだよ。こんなに素晴らしい人に自分は仕えていて、そんな素晴らしい人が、リリィのお母さんなんだよって教えたかったんじゃないかな」


 言ってからふと気恥ずかしそうに目を伏せたリリィに、私は肩を合わせて顔を覗き込んだ。誰かから伝え聞いた親の姿が素晴らしいものなら、それはもう誇れるものだ。自分が直接知らないのだとして、自慢したっていい。


「……ふふ。そうね。ありがと。そんなお母さまが恋をした相手が、北にある隣国、クラーク国の第三王子だったの。名前はイアン。父は使者としてうちの国に来ていたの」

「第三王子だったんだね。その人のことはほとんど噂にもなってないから知らなかった」


 隣国に嫁いだ、というのからなんとなく王族だろうとは予測がついていたけど、どういう立場でどういう人だったかはほとんどなかった。

 私の慰めにリリィは気を取り直して説明を続けてくれたけど、私の言葉に眉尻を落としてしまった。


「……うちの母が慕われていた分、父はあまりいい印象をもたれていないのでしょうね」

「ああ、まあ、それは仕方ないよ。だれだって、恋敵は憎く見えるものだしね。大切なお姫様が他国に行ってしまったら、どんなにいい人だとして、悪く言われるものだよ」

「ふふっ。そうね。その物言いは、納得いくものだわ。この二人の婚姻は、あまり祝福されたものではなかったの。当時の王である祖父母が反対していたの」

「反対する理由は何だったのか聞いても?」

「大丈夫よ。父の人柄なんかの問題じゃないもの。隣国の第三王子、と言えばそう悪い条件ではなく聞こえるかもしれないわ。実際に、婿入りなら問題はなかったかもしれないわね。だけど父がクラーク国に献身する意思があったから、母が嫁入りすることに反対されたの」

「なるほど」


 まあ可愛い娘を他国にやるとなると、そりゃあ反対はするよね。と納得する私に、リリィは何故か笑みを深くして、繋いでない手を伸ばして私の頬に触れてきた。


「私、あなたのそう言うところが好きよ」


 物凄く唐突に告白された。文脈が読めないけれど、とりあえずキスをしておく。


「私も好きだよ」

「ふふふ。父との婚姻が反対されたのは、あの国の王侯貴族が実質的な一夫多妻制で、側室から生まれた父の王位継承権が低く、あまりいい扱いはされていない人だったからよ」

「そうだったんだ……」


 甘い雰囲気になったのかと思ったのに、リリィは笑いながら手をおろしてあっさりと会話を続けてしまう。しかも内容が内容だけに、もう一度キスをする雰囲気でもなくなってしまった。


 にしてもクラーク国そうなのか。知らなかった。国交があるとはいえ、私が習った限りあまり大きな扱いをしている国じゃないから、詳しく知らないんだよね。

 陸続きだけどほぼ船での国交だし、頻繁に行き来ができるわけでもない。その上で微妙な立場となれば、うーん、思いあう二人には可哀そうだけど、確かに心配だし反対もするかも。


「ええ。それで親子喧嘩になって、半ば喧嘩別れのように嫁いでいくことになったの。そうして嫁いだ先で、私が生まれたの。だけど私が三歳になる前に、父は亡くなったの。それからすぐに私と母は一緒に帰国したの」

「急に時間が飛んだね」

「あまり楽しい話ではないからでしょうね。一緒についてくれていた使用人も母も、あちらでのことは詳しく教えてくれなかったわ。だけど、そうね。少なくとも母にとって父との結婚は、悪いものじゃなかったわ。母は私のことも父のことも、最後まで愛していたの。だからそんな顔をしないで」


 あっさりと話をしているけれど、これはリリィの話だ。だからどうしても、その時のリリィのことを思ってしまう。つい、そんな気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。

 リリィはそう言って笑いながら、私の頬にまた触れて、つまんで引っ張って無理やり笑みの形にしてきた。


「リリィ、こういう時、リリィからキスしてくれてもいいと思うんだけど」

「いやよ。そんなことをしたら、あなたはわざと悲しい顔をしてしまうでしょう?」

「そんなことは……ないけど。じゃあ、とりあえずキスしてもいい?」

「駄目よ」

「えっ、駄目なの?」


 そんなに女々しいつもりはないけど、確かにリリィからキスしてくれるとなると、誘惑に勝てるか自信がなくなってしまう。なのでそれはいったん置いておいて気持ちを切り替える為にもキスをしたかったのに、何故か悪戯っぽく笑って断られてしまった。

 私たちの関係で、さっきまで普通にしていた流れで断られることあるんだ。と自分から聞いておいてびっくりしてしまう私に、リリィはくすりと笑って私の頬から手を離して、鼻先をちょんとつついた。


「当然でしょう? とりあえずでキスをされて、私が喜ぶと思っているの?」


 うっ、可愛い! 可愛すぎる。適当にキスするなって言うのも可愛いけど、喜ぶと思ってるのって、ちゃんとしたキスなら毎回喜んでくれてるってこと!? 仕草といい言葉の端々まで可愛いなぁもう!


「はー、リリィ、可愛すぎる」

「突然何を言っているのよ。私の言いたいこと、わかっているのかしら?」


 心からの言葉だったのだけど、リリィは笑いながらさらに私の鼻を押してくる。これ以上リリィの可愛さがあがったら会話どころではなくなってしまう。


「うん。適当にお願いしてごめんなさい。じゃあ、リリィが大好きでとってもキスがしたくなったから、キスをしてもいいでしょうか?」

「ふふ。いいわよ」

「ありがと」


 リリィの指先をとって下げさせ、真面目にお願いして許可をとる。楽し気にどこか得意げに了解してくれたリリィは私が顔を寄せるとすっと顎をあげて目を閉じてくれた。

 力いっぱい抱きしめてしまいたいくらい可愛いけど、我慢してそっと唇を合わせるだけで我慢する。本当はもっともっと、リリィを感じたいという欲求がある。だけど、それはもう少しだけあとだ。


「リリィ、ありがと。大好きだよ」

「ふふ。私も、好きよ」

「うん。えっと、それで、リリィとお母さんが帰ってきたって話だったね」


 このままキスを続けたいところだけど、話に戻らないと我慢できなくなってしまうかもしれないので、一旦話を戻す。


「ええ。帰ってきた母は、ずいぶん憔悴していたそうよ。もっとも、夫を亡くして帰国して元気いっぱいな方がおかしいでしょうけど」

「まあ、そうだね。私だって、リリィを失うことなんて考えられないし」

「ええ……本当に、その通りだわ。だけど、クラーク国に悪印象を持つには十分なものでしょうね」

「あー……まあ、そうなるよね」


  実際にクラーク国が何をしたのか、悪いことがあったのか、何もわからない。何もおかしなことはなくて、ただただ不運が重なっただけかもしれない。だけど大事なお姫様が嫁いで、いい話を聞かないまま幼い子供を連れて元気をなくして帰国した。それだけで十分だ。


「それから母は体を壊してしまって、私が七つになる前に亡くなってしまったの。両親について私が知っているのは、その程度よ。きっとあなたも噂でこの程度のことは知っていたんじゃないかしら」

「まあ、だいたい聞いたことあるよ」

「でしょうね。だけど、私の口から事実としてでたことが重要なの」

「わかってるよ。誰にも言わないから、安心して」


 びっくりするような新事実は、実は元々お転婆だったというくらいだろう。もっとひどい噂もあった。だけどあくまで噂でしかない。だからクラーク国との国際関係には発展せず、ごく当たり前に国交が続いている。だけどもし、今のものだけでも事実だと公になってしまえば、何もなかったみたいにはできないだろう。

 それだけじゃなく、きっと私じゃ想像もできないような、色んな理由があるんだろう。国同士が絡むことだ。今言ったことだってすべてがそれだけの意味とも限らない。

 だけど私が知りたかったことは十分知れた。私はただ、リリィと両親の関係が問題なかったのか、リリィが北をどう思っているのか。それが知りたかっただけだ。


「教えてくれてありがとう。リリィが愛されて育ったことがわかって嬉しいよ」

「……ええ、そうね。母も、父も、愛してくれていたわ」

「いつか、クラーク国にも行こうね」

「気持ちは嬉しいけれど、私が行けば問題になるわ」

「大丈夫大丈夫。リリアン姫が行けば確かに問題かもしれないけど、お忍びでこっそり行く分には大丈夫だよ。お父さんが生まれた故郷なんだから、一回くらい見に行こうよ」


 リリィが何かを思い出すように、少しばかり悲し気な微笑みで頷いたから、私はことさら明るくそう言った。リリィがやりたいなら、全部叶えよう。それが私のやりたいことでもあるんだから。


「もう……あなたが言うと、なんでもないことみたいね」

「私もリリィが生まれた国に興味があるしね。リリィにとって嫌な思い出があって行きたくないなら、もちろん行かなくていいけど」

「そんなことは……ないわ。わかったわ。じゃあ、いつか、行きましょうか」


 私の言葉にリリィはふっと目を細めてどこかを見てから、私に向かって小首を傾げるようにしてふわりと微笑んだ。私はそっとリリィに身を寄せて、頬に口づける。


「うん。リリィのご両親は残念ながら早世されてしまったけど、ご両親の分まで私たちはずっと一緒に、長生きしようね」


 そしてそのままの距離でそっと、耳打ちするようにお願いした。そんな私に、リリィは笑いながら目を閉じて応えてくれた。


 そうして結局、この日中には年明けの旅路の詳細は決まらなかったけど、いつかの旅行の約束はできたからいいよね。


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伝聞でしか知らない肉親の話 ともすれば暗くなりがちな内容の隙間に イチャイチャ さすが闇を切りひらく光の勇者w 外交問題もひらりとかわす軽やかなエレナ 妻リリィも惚れなおしちゃうよね
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