第四十五話 驚きの提案
招待状を配り終わり、リリィを王宮に迎えに行った。そのついでに王宮に泊まるよう勧められたけど、宿をまだ引き払ってないからそれは遠慮した。王宮から帰るとなると大仰なお見送りをされがちだし。
ということで宿に戻り、部屋で夕食をとりながら今日の報告をしあう。
「私の方はエミリーの師匠のメディナ以外には直接渡せたし、全員来てくれるって」
「そう、よかったわね。前回の結婚式では参列されていない方もいたようだし、気になっていたのよ」
と言っても私の方はシンプルだ。メンバーもリリィが全員知っている人だけなので以上だけど。リリィは私の方も気にかけてくれていたようだ。
夕食のスープを飲んでから、リリィの方に話題を向ける。迎えに行く時間は打ち合わせていなかったので適当だったけど、本題は終わってたとして雑談でも途中で邪魔していたりしたら申し訳ない。
「リリィの方はどうだった? 早すぎて急かしても悪いなって思ったけど、大丈夫だった?」
「平気よ。だけどまあ、思ったより時間がかかったわね」
リリィが話をしていたお爺さんはやっぱりだいぶ偉い人みたいで、使用人のまとめ役の中でほぼ一番上にあたるので、代わりに話を通してもらおうとしたらしい。
でもその人から、直接誘ったほうが喜ぶからと諭されたらしい。リリィ的には断りにくくなるからと気遣ってのことだったけれど、子供の時から知っている相手だけにそれとなく優しく諭されたらしい。具体的な諭した内容は教えてもらえなかったけど、ちょっとした思い違いを正されたらしい。気になる。
「うーん、リリィが満足してるならそれでよかったなーとは思うし無理に内容を聞きたいわけじゃないけど、なんか、リリィのこと幼少期から知ってるの羨ましいなあとは思っちゃうなぁ」
「ふふ。何を言っているのよ。仮に私とあなたが幼少期に知り合う機会があったとして、それはあなたの幼少期でしょう」
まあそれはそう。物心ついてある程度礼儀を知っていて王族にお目通りできるのが、最低でも7歳くらいだろう。リリィは14歳。幼少期とは言えないだろう。普段年齢差をあまり意識しないけど、そう考えると意外と年上だなぁ。
「それはそうだけど。でも王城にあるリリィの昔の肖像画とかみせてもらったけど、すごく可愛かったし、実際に会えてたらなぁって考えるのは仕方なくない? あ、もちろん今もめちゃくちゃ可愛いけど、黙ってたら美人だから、黙ってても可愛い時を見たかったってことね」
「おかしなフォローをしなくていいわよ。それを言うなら、私の方があなたの幼少期を見たかったわ。現実に可能だったのだし。きっと、とっても可愛かったのでしょうね」
「うーん、まあ、すごく可愛がられてたけど」
結果的には仲間の半数以上にばれてはいたものの、言ってもぱっと見は騙せるくらいは男として見えていたわけで、客観的に可愛かったのかと言われたらどうだろう。家族には可愛いと言われていたけど。
自分で自分の幼少期の絵を見ても、可愛いかと言われたらわからないよね。まあ子供ってそもそも可愛いし、幼少期はそこまで性差もないだろうし、可愛いは可愛いか。
「それはそうと、私の招待客はそれなりの人数になりそうだから、言っていた馬車も多めに手配しているのだけど、あなたの方は?」
「ああ、私の方は大丈夫だよ。騎士組は普通に自分の馬にのるって言ってたし、エミリーは飛ぶし、教会組は距離もあるから自分のペースで来るって」
「そうなの。やはり皆さま、自由な心の人たちなのね」
なんかすごい前向きなとらえ方されてる。エミリーなんてそんなお行儀よく集団行動なんてやってられないわよ。とか言ってたし、騎士三人も宮勤めの人と一緒だと勤務中の気持ちになるから、って言ってたから、自由っていうより……まあいいか! 高評価なら訂正することもないよね。
夕食を終えてお風呂に入り、今日は早めに眠ることになった。昨日遅かったわりに普通に朝起きたしね。
「……まだ起きてる?」
なったんだけど、なんとなくまだ胸がわくわくしていて眠気がこない。そもそも昨日が普段より寝不足と言っても、五時間は寝てるし。野宿の時を思えば連続で五時間は十分すぎる時間だ。
結婚してから毎日ぐっすり寝ていることもあって、体感的には全然寝不足じゃない。
だけどそれは私の感覚だ。リリィが眠いなら寝てほしいけど、どうかな? と思って小さく声をかけてみたところ、リリィはちらっと目だけこちらに向けてくれた。
「起きているけれど……眠れないの?」
「いつもより早いから。リリィが眠いなら邪魔しないけど」
「いえ……じゃあ、眠るまでお話しましょうか。目は閉じたままで」
「うん。ありがと」
嬉しくなって習慣のようにベッドに入る時に握っているリリィの手を引き寄せ、体ごと近寄らせて頬にキスをする。
「もう。寝やすいようにしましょうって言っているのに」
「ごめんごめん。目を閉じるよ」
元の姿勢に戻して目を閉じる。そんな私にリリィはしょうがなさそうに、握ってる手を一度強くしてなだめてくれた。その手の温かさにくすぐったいような気持ちになる。
毎日手をつないで、毎晩こうしているのに、その度に温かい気持ちになる。リリィのことが本当に大好きなんだなぁって自分でもおかしくなる。
そう思ってから、思い出す。手をつないで眠るようになったのは、初めての旅行先でのことだ。初めてのキスも旅行先だし、案外私ってきっかけがないとなかなか踏み出せないタイプらしい。
「……最初の結婚式の時のこと、覚えてる?」
「ええ、もちろん」
「あの時のリリィ、本当に綺麗だったよ」
「……そう。ありがとう。あなたも素敵だったわよ」
すごく、すごく綺麗な人だと思った。だからこそ、より申し訳なかった。こんなに綺麗な人を私と結婚させてしまうなんてって。
朝一番にめちゃくちゃ大仰でお堅い式をあげ、すぐにパレードとして王宮敷地内の式場を出て王都にお披露目しつつ、お昼前には王都を出て出入口でお披露目用のやつから普通の馬車に乗り換え、そのまま領地へ移動。
スピード重視の1人乗りのやつにわかれて乗り、なんとか日が沈む前に領地へ到着し、馬車の窓を開けて領民に軽く挨拶しながら領主邸へ初訪問。主要な使用人の挨拶や街や建物の説明をうけつつ夕食を終え、自室に案内されて各自お風呂を済ませ、そうしてようやく寝室で二人きりで顔を会わせることができた。
早く言わなければと思いながら、いま思い返してもリリィと二人で話せる機会は本当になかった。とは言え、そのもっと前の段階では王様と二人で話してたのだからそこで言えよと言う話ではあるのだけど。
そんな精神状態だったし、タイムスケジュールもかつかつで慌ただしくて、いま思い出そうとしても記憶が曖昧なところがあるくらいばたばたしていた。
領民たちは私たちが来ると知っていて結構な人数が待ってくれていたから、あの時点で一応顔見せはしたとはいえ、王都に比べて馬車の違いはもちろん太陽が沈みかけていて顔はあまり見えなかっただろう。
この間のお祭りの時にきちんと挨拶したとはいえ、改めて結婚お披露目をして綺麗なリリィが見れるのは、領民にも喜んでもらえるだろう。
最初は思い付きだったけど、なんだかどんどんこの結婚式の意味が大きくなってきた気がする。でも、その方がいいか。
「あの時の結婚式を否定するわけじゃないけど、儀礼的と言うか、儀式的と言うか、伝統とかそう言う感じだったから、今回の結婚式はとことんゆっくり楽しめるものにしようね」
あれはあれで必要だったんだろうけど、やりたいとかじゃなくて本当に立場として権威として必要だからしたものだ。楽しい嬉しいなんてものではなかった。だからこそ、次はもっと違うものにしたい。
静かで荘厳で、真剣な顔で一挙手一投足に気を付けて行う儀式みたいな、そう言うのじゃなくて、もっと気楽で失敗なんて概念がそもそもないような、それこそ突然握手会を始めても許されるような、緩いやつを。
「そうね。以前の式に不満はなかったけれど、エミリーのをみてしまうと、ああ言うのもしてみたくなるわね」
「うんうん」
「そう言えば、私のドレスはあなたが決めてくれたということだけど……エレナのももう手配できているのかしら?」
「え? まあ、私のは前と一緒のでいいかなって。もちろんリリィのドレスとも合うようになっているから」
女性用のドレスと違って、男性服はそれほどバリエーションがあるわけでもない。 というのは建前だ。
実はリリィのドレスを複数用意している。普通は変えたりしないけど、結婚式用のドレスって色んなバリエーションがあってどれもリリィに似合いそうだったので、どうせなので色んなリリィが見たいし。さすがに多すぎると着替えるのも大変だろうから、厳選して三着を用意している。
で、それに合わせて私の分も色違いと微妙なデザイン違いを用意している。とはいえ、それを言ってしまうとせっかくのリリィ公認のサプライズが台無しになってしまう。なんとか誤魔化されてくれないかな?
「ふぅん……悪くはないけれど、そうね。私のドレスとの兼ね合いもあるでしょうから、結婚式はそれでいいわ。だけど、あなたが私の服を選んだように、私もあなたを好きに着飾らせてみたいわ」
リリィはできるだけ平静を装った私の答えに、ふぅん、とどこか曖昧な相槌を打ってから、いいことを思いついたとでも言いたげに楽し気な声でそう言った。目を閉じているのがもったいない可愛らしい声だ。
誤魔化されてくれたというか、のってくれた。よかったよかった。そして言われてみれば、私ばっかりリリィのドレスを選べるのは不公平だ。結婚式という特大の場で私の自由にしてくれたのだから、リリィに希望があるならいくらでも付き合おう。
「もちろん、結婚式を譲ってもらったようなものだし、リリィが望むならどんな格好でもするよ」
「ふふ。嬉しいわ。気にしなくていいわ。公の場ではないということは、あなたの格好に制限がないということだもの」
「うん? まあ、そうだね。何でもいいよ」
「言ったわね。じゃあ、どんなドレスを着てもらおうかしら」
「えっ!??」
さっきは我慢できたけど、思わぬリリィの言葉には目を開けてリリィを振り向いてしまった。それを察したリリィが私を見る。
ドレスなんて、人生で一度も着たことがないし、着たいとも思ったことがない。正直私が着たら女装、ではないんだけど、でもやっぱり実質女装では?
「……まあ、はい。姫のお望みのままに」
とは思うのだけど、くすくすと楽しそうに微笑むリリィの様子に、私はそうおどけて答えるしかなかった。リリィが楽しいなら、いいか。
でもなんだか、ドレスは私のサプライズ計画のはずが逆に驚かされてしまっているなぁ。




