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あなたを幸せにすると誓います  作者: 川木
第二章 家族

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第三十三話 家に帰って

 リリィとキスをした。ふわふわするくらい幸せになってしまった。そしてリリィの気持ちもはっきりしたので、家に帰る馬車の中で二人きりで暇を持て余していたのもあって、ついつい毎日キスをしてしまった。

 帰りにも自分の実家にまた寄るのがとてつもなく億劫だったけれど、仕方ないので顔をだすと誕生日を祝ってくれた。


 まだ少し早いので祝ってくれると思っていなかった。現金なもので、お祝いされると寄ってよかったと思ってしまう。お土産と交換するように誕生日プレゼントをもらい、翌日に実家を後にした。

 あとついでに嫁いだ姉まで来てくれていて、なんだかとても恥ずかしかった。結婚を改めて祝福してくれたのは嬉しいけど、昔からお姉ちゃんっこだったもんね、とか言わないでほしい。小さい子供が家族に懐くのは普通だろうが。別に年上が好きだからリリィが好きなわけじゃないし。


 これで今生の別れではないけど、正式に挨拶も済ませたのだしそうそう会うことはないだろう。しっかり挨拶をして別れた。と言っても、家族とはすでに旅立ちの時にも結婚の時にも今生の別れのような挨拶をしてきているので、すこしばかりあっさりした挨拶になってしまった。だってあんなに涙ながらに別れてあっさり再会するのってちょっと恥ずかしいから。


「……エレナ」

「ん、なぁに?」

「なぁに、じゃないわよ」


 馬車に乗り、長かった旅行もこれでひと段落だ。領内でのプチ旅行もしばらく休憩してからになるだろう。さすがに馬車に詰め込まれている時間が多くて、体がなまってきている気がする。

 と帰ってからのことを考えながらリリィに返事をすると、なにやら不機嫌そうな声音をだされた。


 私は首を傾げて膝に横座りになる形でのせているリリィの顔を覗き込む。リリィは眉を寄せて唇をとがらせている。可愛い。顔をよせてキスをしようとすると、リリィは私の唇に人差し指をあててきた。


「んん? どうしたの?」

「どうしたの、でもないわよ。何をしようとしているの」

「え?」


 馬車の中で散々キスをしてきたのに、どうして注意されるのかわからない。ときょとんとしてしまう私に、リリィはむぅっとわかりやすく怒り顔を強調させて、私の唇を人差し指でぷにぷにしながら口を開く。


「あのね……私だって二人きりの時まで、厳しいことを言いたくないわ。だけど、どうして馬車に乗るなり私を膝にのせているのよ。あなたのご家族に見られてしまったじゃない。恥ずかしくて、顔から火が出るかと思ったわ」

「え? 出発するまで待ったんだけど、見られてた?」

「見えなくなるまで見送ってくださっていたわよ」


 リリィは私の唇から指を離し、呆れたように私をジト目で見ながらぴしっと指を前にたてながらそう教えてくれた。


 なるほど。それで急に不機嫌になってしまったらしい。今日の朝だって目覚めてすぐにキスをした時は受け入れてくれたのに、おかしいと思った。普通に私のせいだった。

 と冷静に考えているけど、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。あんまりしっかり走り出すと動くのは危ないから、手を振って出発して数メートルすすんでスピードが出ていないうちに急いでリリィを引き寄せて膝に座らせたのだけど、まさかまだ見ていたとは。

 リリィにべた惚れなのはもう知られているとはいえ、さすがに恥ずかしい。自分の頬に手を当てると、少し熱いので多分赤くなっている。


「……ごめんなさい。調子に乗ってました」

「はぁ、いいわ。反省しているようだし、許してあげるわ。でも今後は気を付けて」


 真面目に反省して謝罪すると、リリィはため息をつきながらそう言って手をおろしてくれた。

 リリィが怒りをおさめてくれたのは嬉しいけど、恥ずかしさがなかなかおさまらないので、誤魔化すようにリリィの腰に回している手に力を込めて軽く引きよせ、頬にキスをする。


「……本当に反省してるのかしら?」

「えぇ? してるよ。さすがに身内に見られたのは恥ずかしいし、それにリリィの可愛い顔を人に見られるのも、よくないもんね。本当に、今後は気を付けるよ。二人っきりの時以外は自重するよ」

「その割に、顔が近いみたいだけど?」


 リリィは片目を閉じて私の頬へのキスを受けてくれたのに、どこか不満そうにジト目を崩さず、今度は唇にキスをしようと鼻先を近づける私の頬に手を当てて制止してくる。

 でもそんな些細な抵抗は、むしろ催促にすら見えてしまう。


「今は二人っきりだよ?}

「あのねぇ、窓の外から見えるかもしれないという話よ」


 まあ、馬車の中だと思って油断して、窓の外の親の視線をスルーしてしまっていたのだから、言いたいことはわかるけど。でもさすがに今は他にいない。他の馬車とすれ違えば見える可能性もゼロではないけど、そもそももう膝に座らせた時点で次の休憩地点まではこのままだし、手遅れだ。


「大丈夫。誰もいないよ」


 そう言いながらそっとリリィの手を握って私の頬から離させて、そのまま唇を合わせる。


 恋人になってもう何度も口づけをしたけど、その度にしびれるほどの陶酔感があふれて、幸福感で胸いっぱいになって、とにかくひたすら気持ちいい。単純に接触する心地よさ以上に、リリィとキスをしている事実が脳みそをとろけさせる。


「……強引ね」


 唇を離しても顔を寄せたまま余韻に浸っていると、リリィはそう非難するような言葉を、目じりを赤くしてややゆるませながら口にする。

 そんな真逆な態度が内包された複雑なリリィの反応が、とても可愛くてたまらない。


「そうだよ、私だって少しは学ぶんだから」

「……そう」


 リリィとキスをした時に学んだのだ。思えばあの時は少し遠慮しすぎていた。なんだかんだあれからキスはさっきの以外ほぼ拒否していないのだ。なので口ではなんだかんだ言いながらも、私がいい雰囲気と判断した時点でリリィもその気になってるようなので、リリィには多少強引な方がいいのだ。


「うん。リリィは言葉にだして確認すると照れ臭くなって照れ隠しに怒ってしまうから、言葉に出して否定されない限りは強引にいった方がいいって、嫌がってないってちゃんとわかってるよ」

「……だから、そう言うのを言わないでほしいのだけど」


 リリィのことがわかってきたことが嬉しくて、得意になってそう説明すると、リリィは今のキスより頬を赤くして目をそらしてしまった。私の胸元の服を掴んで顔を隠す様に背中を丸めてしまう。

 姿勢を悪くするのはかなり恥ずかしがっている。確かに特に聞かれてもないのに話したのはデリカシーがなかったかもしれない。申し訳ない。とは思うものの、やっぱり恥ずかしがるリリィはとても可愛いので、ついついにやけてしまう。


「ごめんごめん。照れてるリリィ、可愛いよ」

「学んだと言いつつ、わざと恥ずかしがらせようとしているという自白かしら?」

「そうじゃないけど、うーん」


 確かに、恥ずかしくなってこうなっちゃうのがわかったから、口に出して確認しないようにと学習したのだ。とアピールしてから全部言っちゃってるのは、わざとなのかも? 私は自分で気づかないうちにリリィが恥ずかしがるのを期待して? いやでも、言わないとリリィを分かってると伝えられないし、伝えたうえでだからこれから気を付けるねと言う意味のつもりだったのだけど。


「……ふん、そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちよ」

「ん? どうしたの?」


 どう言おうかと悩んでいるうちに、照れが引いたらしいリリィが赤みをとって顔をあげ、どこか得意げになんだか妙に悪役ぶったことを言い出した。

 リリィは顔の造詣が整っているので、悪い顔も意外と様になるというか、これはこれでいいなぁ。

 照れ顔は少女らしい可愛らしさがあって好きなのだけど、今の顔は大人っぽい、というのも違うか。凛々しいというか、氷のようなどこか触れにくい距離を感じる美しさがある。


「別に、なんでもありませんわ」


 私の問いかけに、意味ありげなことを言うだけ言って満足したのか、リリィはそう言って首をふった。

 時間に余裕はあるのだしここで追及してもいいのだけど、なにやらサプライズを考えてくれているっぽい。リリィのすることなのだから、悪いことにはならないだろうし、ここは楽しみに待つことにしよう。


「そっか。じゃあ話変えるけど、家についたらしばらく休憩するでしょ? せっかくだから海を描こうかと思うんだけど、リリィも描いてもいいかな」

「いいけれど……念のために言っておくけれど、私の水着姿を描いたら破棄させてもらうわよ」

「わかってるって。さすがにそんなことしないよ」


 露出度は変わらないとはいっても、あの姿を見ちゃうとさすがにね。他の人に見られたくないし。あの姿は私の頭の中にだけあれば十分だ。


「リリィが嫌がることなんてしないよ」

「この流れでよく言えるわね」

「うーん」


 確かに、リリィをわざと恥ずかしがらせている疑惑をかけられているところだし、そう言われたら困るのだけど。そもそも話題変更の為に話し出したのでまだ全然具体的な構図とか考えてないし。


「じゃあどんな情景がいいかな。リリィも一緒に考えてよ」

「そうね。……あなたが絵を描いている間は、私も手が空くから刺繍をしてもいいし、そのテーマも、一緒に考えてくれるかしら?」

「もちろん。リリィの刺繍、楽しみだな」


 そんな話をしながらのんびり家に帰った。


 久しぶりの自分の領地につくと、帰ってきたなと言う気分になって、なんだか不思議だった。自分の実家に行くときよりよっぽど、今の方がほっとしている。

 最初はなれないお城のような家に戸惑っていたけれど、使用人にも温かく迎えてもらって、もうすっかりここが自分の家なのだと実感した。


「ところで、帰ってからのお楽しみって言うのはなんだったの?」

「そんなことは言っていないのだけど……でもいいわ。明日は予定を開けておくのよ」


 昼過ぎに家にたどり着く、落ち着いて腰をおろした三時のティータイムにてそう尋ねると、リリィはちょっと変な顔をしてから、またどこか得意げになってそう言った。

 言われたら今に見ていろ、的なことしか言われてないっけ? なんか勝手に家に帰ったらサプライズが待ってると思い込んでた。でも明日何かあるらしいので、話の流れを読み間違えたわけじゃなさそうだ。

 なんにせよ、リリィが楽しそうで何よりだ。私はわくわくしながらも、馬車移動で疲れた気持ちを夕方まで張り切って運動して発散させて、翌日に備えた。



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― 新着の感想 ―
お膝だっこ…想像するだけで至福です サプライズは何かなー、楽しみ!
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