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あなたを幸せにすると誓います  作者: 川木
第二章 家族

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第三十話 タイミングっていつ?

 海を見て回り、ちょっと飲み物、という段階で予想外の二人で顔を寄せて一つのカップから飲むという天才的発想の商品に出会ってしまったので、宿の部屋に戻って飲むことになった。

 リリィは店員にはわからない程度に表情を取り繕っていたけど、私がリリィの様子を見てからお願いしたことから、リリィが恥ずかしがっているのを察してか私たちと別に宿に運んでくれた。丁寧な仕事だ。カップを返すときには多めにチップを払っておこう。


「さて、さすがに喉が渇いたし、飲もうか」


 部屋に戻り、海に面したバルコニー内にあるテーブル席に用意して席についたところで、そうリリィに声をかける。先ほど注文した時点で喉は乾いていたので、それなりに逸る気持ちがある。

 海が見えるように、並ぶ形に椅子を配置しているので、すぐ右隣りにリリィがいる。そっとカップを二人の間に引き寄せるようにしながらそう顔を覗き込む。


 さきほど外で見た引きつりながらも取り繕った顔ではなく、ストレートに感情表現をしてくれていて、唇を尖らせている。ちょっと子供っぽい顔を私には見せてくれるのが嬉しくも可愛くて、それでいてその突き出された唇にちょっぴりドキッとしてしまう。


「あの、ほんとに嫌なら別に飲み物頼もうか?」

「……別に、ここならいいけど。でも、恥ずかしいわ。宿の人にも、これを飲むと知られてしまったし」


 可愛いけど、でも本気で嫌がっているならさすがに無理強いはできないので聞いたところ、恥ずかしそうに視線をそらしながらリリィはそういつもより小さい声で言った。


「でも外では嫌でしょ?」

「当然よ。何を普通に受け入れようとしているのよ。びっくりしてしまったわ」

「膝枕はいいのに?」

「あれは別に、恋人だけの行為ではないじゃない」


 使用人がいても膝枕までなら平気なのにそんなに恥ずかしがらなくても、とも思っていたのだれど、どうやらリリィ的に膝枕は恥ずかしいことではないらしい。エリィにもしていたから、家族的行為でセーフってことなのかな?

 まあ確かに、私も最初された時は恋人じゃなくて家族として甘えている感覚だったけど。でも恋人ですると結構いちゃついて行為だと思うんだけど。まあ、余計なこと言ってしてくれなくなったら困るから黙っておこう。


「でもこれも、接触はないし」

「ふぅん? じゃあエレナ、あなたはこれを交互に飲むつもりなのかしら?」

「同時に飲むつもりだけど」

「ほら見なさい。そんなの、恋人しかしない距離じゃない」


 何故か得意げに指摘されてしまった。まあそうなのだけど。私としてもキスをしたいのでまずを顔を自然に寄せられるこの飲み物いいじゃん、という気持ちなので、その通りの気持ちなのだけど。

 でもまあ、それだけリリィにとって顔を近づけるのは意識しちゃうんだと思うと、私もドキドキしてきてしまう。やっぱりリリィにとっても、キスは特別だよね。きちんと思いを伝えあってからは初めての口づけになるんだし、ちゃんと二人にとって最高のタイミングでしないといけない。


「うん、そうだね。ちょっと、気遣いが足りなかったね。ごめんね」

「ん……まあ、別に、わかっていて注文したわけではないのだし、謝らなくてもいいのだけど……」


 ひとまず、リリィの反応を見るまではあのまましてしまうつもりだったのは私のミスと言うことで誤ると、リリィはそう言ってどこか気まずげに私をちらちら見ながら許してくれた。

 もじもじしちゃって、恥ずかしさをごまかすのもあってわかりやすく怒り顔になっていたんだろうと言うのがバレバレだ。可愛い。


「ありがとう。じゃあさ、もう準備もしてもらったし、今更飲まないのはもったいないでしょ? 気持ち切り替えて、一緒に飲んでくれるでしょ?」

「……もう、ほんとうに、かなわないわね」


 いつまでもそうしていても仕方ないので、軽くリリィの肩に触れながら促すと、私を見て頬を染めながらもゆっくり微笑んで頷いてくれた。

 それでは許可もとれたので、さっそく飲むことにしよう。目線でタイミングをあわせて、それぞれストローの先端を掴んで顔を寄せる。


「……」


 隣り合っているからか、肩がぶつかり合うし思った以上に近い。ちらりと横目で見るけれど、顔を向けるとキスできそうなくらいだ。


「……ん」


 やや早くなる鼓動をおさえながら同時に口をつけて、お茶を飲む。果物の風味があってほんのり甘酸っぱくて、爽やかな味だ

 目の前のどこまでも続く美しい海からは心地よい風が流れてきていて、涼しくて心地よい。それでいて、すぐ傍のリリィの体温も熱いくらいに感じていて、心地よいときめきとなってなんだかずっとこうしていたいくらいだ。


「美味しいね、リリィ」

「そうね。すっきりして……」


 首を傾げるようにしてリリィに笑いかけると、リリィは少しだけ頷いて応えながら私を向いて、その距離の近さにびっくりしたように声をとめた。


「……」


 動揺したようにその瞳が揺れる。こんな至近距離でじっくり見つめると、本当に、綺麗だ。見とれてしまう。だけど無言で見つめあうと、すぐにリリィは頬を赤くさせて、少し眉を寄せた。豊かな表情が乗ると、途端に少女らしい可愛さがあふれてくる。ああ、可愛い。

 見つめあうと、ついつい私は表情がゆるんでしまうのだけど、リリィはそんな顔をするのが恥ずかしいと思っているのか、恥ずかしい時にしかめっ面になってしまう。それが分かっているので、可愛いしかない。


「リリィ……リリィと一緒に飲むと、より美味しいよ。一緒に飲んでくれてありがとう」

「そ……それは、私も、よ」


 私の言葉に、リリィは瞬きしてから目をそらして、だけど顔は私に向けたまま、そう素直な言葉を返してくれた。やっぱり二人きりで飲んで正解だった。こんな可愛いリリィの顔を他の人に見られるなんてとんでもない。


「……嬉しいよ」


 胸の奥からわきあがる、今すぐリリィともっと触れ合いたい、抱きしめたい、口づけたいという欲求。じっと見つめていると、吸い込まれそうな美貌。

 こんなに近くで顔を寄せて見つめあって、リリィも今は素直に見つめ返してくれている。もしかして、いい雰囲気では? キスしても許されるのでは? なんて気にもなってしまう。

 だけどさすがに急だろう。ついさっき、最高のタイミングでキスしようと決めたばかりだ。私は気合で自分の理性を奮い立たせ、相槌をうちながらまたストローに口をつける。


 はー、まだ冷たさが残っていて、頭が冷える美味しさだ。


「……」


 リリィも黙って、一緒に飲んでくれた。

 そうして夕食の時間になるまで、のんびりと楽しんだ。朝日と違って海に日が沈む姿は見えないけれど、夕方になると空が赤くなって、とても綺麗だった。









 それから数日、私はリリィと舟にのったり釣りをしたり、街を散策したり、浜辺でのんびりお昼寝をしたりした。

 浜辺では私は寝てしまったけど、リリィは外で寝るなんてと言うことで寝る気はなかったようで、私に膝枕をしてくれた。ものすごく気持ちよかった。

 一日だけあった雨の日も、普段と違う荒れた海を見るのも楽しかったし、宿屋がそう言う日に向けて契約しているらしい劇団を呼んで、ホールをつかって劇をしてくれたのでそれはそれで楽しかった。


 今日でついにこの旅行も最終日だ。明日の昼にはここを出る。名残惜しく思いながら昼食をとっていると、 わかりやすく揉み手をしながら体格のいい男性が近づいてきた。エレナを無料宿泊してくれている、この宿のオーナーだ。


「どうもどうも、エレン様。お楽しみいただけてますかな?」


 宿についた時も迎えてくれたけれど、どうやら明日は用事があるということで挨拶にきてくれたらしい。あれこれと観光の手続きもしてくれて船遊びもこのオーナーの手配だった。

 そのお礼と共に、この街がいかに楽しかったかを話したところ、おや? と首を傾げられた。


「海には入られなかったのですか?」

「はい。足を出すのは、女性としてはあまりよろしくないことですから」

「そう……でしたか。これは大変失礼な質問をしてしまい申し訳ございません。なにせこの辺りは暑いものですから、淑女の方もサンダルが珍しくないもので。中央貴族の流儀も知らず、お恥ずかしい限りです」

「いえいえ。そんなにお気になさらず。そう言った感覚には個人差がありますし、うちのリリィが少し恥ずかしがり屋なだけですから」


 オーナーは悪くないだろう。海辺を見ていた感じ、普通に平民じゃなさそうな人もくるぶしまでしっかりあって手袋まではめてはいたけど普通にサンダルで海に入っていたし、この辺りでは当たり前なのだし。というか、多分中央の淑女ちゃんもこの辺にきたら普通に遊んでいる人もいるんじゃないかな。リリィはお姫様だからその辺かたいんだろう。


 それはそうとして、うちのリリィとか言っちゃった! いやー、うちの連れが、みたいなのは旅で普通に言ってたから流れで言っちゃったけど、なんか、夫婦っぽくないかな? 照れるなぁ。

 まあ向こうは私のこともリリィの正体も知ってるし? すなわち夫婦って知ってるんだから問題ないんだけど。


「ふぅむ。そうでしたか。いやはや、しかし残念です。海に一度も入らずに帰られるなんて。是非、次回来られた際には、

ご再考いただけると嬉しいですな」


 私がちょっとどやってるうちに、オーナーはそう締めくくって挨拶をして去っていった。それと同時に食後のお茶が運ばれてきた。

 デザートを食べ終わるのを見計らって挨拶に来てくれたようだけど、いつの間にかお茶がなくなっていたらしい。それほど話し込んでいたつもりはないけど、リリィを待たせちゃったかな?


「リリィ、待たせてごめんね。この後はどうしようか」

「そうね……海に入りたいなら、入ってもいいわよ? 私も楽しんでいるあなたをみるだけでも楽しめるだろうし」

「えー、いや、いいって。大丈夫。それより手をつないで一緒に散歩する方が嬉しいかな」

「そう……?」


 リリィに気を遣わせてしまったらしい。うーん、気にしないでいいのに。そして気にしなくていいけど、一緒にはいろっかとはならないのね。ちょっと残念。手袋までしたら、ドレスより露出度少ないと思うんだけどなぁ。

 まあ、リリィと一緒に遊びたいんであって、一人で入っても仕方ないんだよね。鎧でなら海に落ちたこともあるしね。

 

 なんにせよ、海を存分に楽しめるのは今日が最後だ。また来てもいいけど、さすがに海は少し遠い。しっかり堪能しておきたい。


「それよりリリィは何したい? 今日も暑いし、かき氷は食べたいよね」


 最後の一日、堪能するぞ!


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鎧を着たまま海に落ちた…溺れなかったのは流石勇者様って所でしょうか。 照れたり拗ねたりするリリィさん可愛い!
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