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あなたを幸せにすると誓います  作者: 川木
第二章 家族

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第二十八話 エレナの実家

 私の実家についたのだけど、想定外の歓迎をされてしまった。魔王を倒した後も玄関で待ち構えて抱き着いて迎えてくれた。あの時は普通に嬉しかったのだけど、普通の気持ちだったのに待ち構えられると普通に困惑する。

 そしてリリィに対して恭しく王族に対する最上級の礼でもって迎え、遠慮するリリィがひとまず自己紹介をしてすぐにそんなに畏まらなくていい、と言おうとするのを制してとにかく中へと案内された。

 広めの応接間に通されてお茶とお茶菓子だけ用意され、使用人は部屋を出て行った。これはうちでは当たり前のことだ。

 私が部屋では一人になりたがるのを理解してくれていた両親はそれが末っ子の奇行と思わせないように、この家の全ての個室において、使用人が中で待機することをやめたのだ。


 そうして到着して馬車を降りて10分もしないうちに、私とリリィは応接間に両親と四人きりになった。私の左側にリリィがいて、向かって左に父、右の私の前に母がいる。とても緊張している顔をしている。

 ちなみに私の弟は別室で待機しているようでまだ会っていない。まだ8歳で私が女であることも内緒にしているので仕方ない。


「改めまして、ようこそおいでくださいました。またご足労をおかけし大変申し訳ございません。マックレーン家当主として、リリアン様に申し上げなければなりませんことがあります。どうか、発言をお許しください」

「今の私はもう王族ではありません。そのように畏まる必要はありません。ですのでもちろん、ご自由にお話くださってかまいません」

「ありがとうございます。では」


 めちゃくちゃに恐縮しきりの父は隣で黙っていた母と一度目を合わせて頷きあってから、二人はいっせいにバッとテーブルに手をついて頭を下げた。


「たいっへんに申し訳ございませんでした! エレナの性別を偽って申告したこと、すべて私の不徳の致すところでございます! エレナ、および他の領地関係者にはなんら責のないことでございます。どうか、私の首だけでご容赦いただけますよう、平にお願い申し上げます!」

「足りなければ私も夫と運命を共にする覚悟でございます。どうか、領地や他の者には寛大な処置を賜りますようお願い申し上げます」


 めっちゃくちゃびっくりした。おかしい。事前にちゃんと手紙にそのことが知られたけどリリィはわかってくれたし今は仲良くやってると伝えている。お義父様との話はさすがにまだ伝えられていないけれど、悪いようにはならないようにするとは書いておいていた。


「……頭をあげてください」

「……」


 さすがに戸惑っただろうリリィがなんとか冷静さを取り戻してそう促したけど、父も母も動かない。え、これは私からなにか言うべきなのかな?


「頭をあげてください」


 と思ったけど、すぐにリリィが同じ言葉を繰り返した。それからゆっくり二人は顔をあげた。


「……」

「まず、父とも話しましたが、出生届にて一部誤った内容で届けられていたようですが、よくあることです。それによって処罰が発生することはございません。そのことはお約束いたします」

「ありがとうございます。マックレーン家一同、今後も変わらぬ王家への忠誠を誓います」


 うーん、なんというか、若干芝居がかっている気がするというか、わざと大げさなことをいって最悪な事態だけはない言質を取りに来ている感と言うか。両親のこういう処世術みたくなかったな。


「あの、とりあえず父上も母上も、普通にしゃべってもらっていいですか? あんまり畏まられてもリリィも話しにくいし、ね?」

「はい。お二人は私にとってお義父様とお義母様になるのですから、普通に話していただいて構いません」

「そうですか。では、敬語は使いますが、少し楽にさせていただきます」


 リリィも同意のことだとわかるように、最後はリリィに向かって首を傾げて見せると、リリィも微笑んで頷いてくれた。作り笑いだけど、それを見てようやく二人は顔色を戻してくれた。

 まあ、リリィが親だからと敬語を使っている以上、二人も敬語になるか。空気はまともになったし、このままおかしくならないよう、私が進行をつとめないと。


「とにかく、お久しぶりです。父上も母上も、元気そうでなによりです」

「ああ、エレナも。本当に、お前が元気にやっているか心配でならなかった」

「音沙汰がないから、どうなるかと」

「すぐに連絡しなくてすみませんでした。色々あったけどリリィとは仲良くしてるし、その、幸せにやってるよ。だから心配しないで」


 私がいつもの軽い調子で声をかけると、二人とも感激した様子で嬉しそうに応えてくれた。

 リリィと結婚して幸せ、と親に口で言うのは正直かなり恥ずかしいけど、心配をかけたのは事実だし、純粋に喜んでくれている姿を見ると私も嬉しい。だから私は恥ずかしさを誤魔化しながらもそう続けた。

 結婚の為家を出る時に、一応きちんと挨拶はしていた。育ててくれてありがとうとか、そう言う気恥ずかしいことも併せて、形式と共にきちんとしてきた。でも今回は違った恥ずかしさがある。


「そうか……よかった。こんなことを言う資格はないかもしれないが、エレナが幸せで私たちも嬉しいよ」

「ええ、本当に。あなたが結婚して幸せになる日がくるなんて、思っていなかったわ。仲良くやっているようでなによりよ。リリアン様、よくしていただいて本当にありがとうございます」

「エレナが幸せなのもリリアン様のおかげでしょう。まことにありがとうございます」

「いえ、私は何も。すべて、エレナ様ご本人の人徳によるものです」


 二人はちょっと涙ぐみながらもそう言って、リリィに向かってさっきよりはマシながらまだかたいままそうお礼を言った。

 二人がかたいからだろうけど、リリィもかたいなぁ。私のことを様付けしてるし、と思ってはっとする。

 あれ、もしかして私もお義父様の前ではリリィのことちゃんと呼ぶべきだったのでは? 今さらだけど次からそうしたほうが?


「むしろ、私こそ、謝らなければなりません。エレナ様に大変な思いを強いたのは王家の責任でもあります。その上で図々しいことは承知ですが、私も彼女も、今では思いあう身となりました。どうか私とエレナ様の結婚を祝福いただけますようお願いします」


 悩みながらリリィを見ると、リリィは私と目を合わせて一瞬微笑んでから、両親に向かってそう言って頭を下げた。

 リリィが頭をさげることはない。リリィはもちろん、そもそも王家はなにも悪くないのだから。


「……」


 だけど、その美しい姿に、すぐに反応ができなかった。

 私のことを思って、真剣に両親に結婚のお願いをするその言葉も、力強い声の響きも、まっすぐな瞳も、全部綺麗で、私の心を震わせて言葉がでなかった。

 そう言うことを言うんだろうってわかっていたのに、実際に目の前にするとどうしようもなく嬉しくて、胸がいっぱいになってしまう。


「は、ははははい! もちろんです! 心からの祝福をさせていただきます!」

「私もお二人の幸福を祈らせていただきます。今後とも、エレナをよろしくお願いいたします」


 ちょっと泣きそうになっていると、めちゃくちゃ動揺した父が大きな声でそう返事をして、驚きの余り私と同じように固まっていた父に肘うちした母がそう言って頭をさげた。

 リリィしか目にはいってなかったけど、とっさに肘うちをする予備動作の気配につい視線が行ってしまって正気にもどってしまった。


「ありがとうございます」

「私からもありがとう。リリィもありがとう。リリィが謝ることじゃないと思うけど、でも、そんな風に言ってもらえたことはとても嬉しいよ。心が震えて、言葉がでないくらい嬉しかったよ」

「……それはよかったわ」


 あ、リリィの敬語がはがれた。ごめん、つい素で。と言うかあんまり両親の前でリリィと話すの恥ずかしいし、とりあえず先日お義父様と話したことをささっと伝えて安心してもらおう。


 法律的なことにはリリィが詳しいので、合間合間にフォローしてもらいつつ、父上と母上に説明をした。

 そうしてポットの中のお茶がなくなる頃には必要なことは話せたので、落ち着くためにも一度解散となった。

 というか普通に客室に案内された。そもそも一度客室にはいって落ち着いてから、何時からお茶しようねみたいなのか普通のはずなので順番が逆にはなるのだけど。さすがに今回は大事な話だからね。


「リリィ、ありがとう。詳しく説明してくれて助かったよ」


 客室のリビングにあるソファの隣で、軽く体を伸ばしたり体を動かしながらそう言うと、ソファに座ったリリィは苦笑しながら頷いてくれる。


「そのくらいなんてことないわ。それより、体を動かしたいなら出て来ても大丈夫よ。私はここで休んでいるから」


 久しぶりの実家だから自由にしてもいい。と優しく言ってくれるリリィだけど、リリィを一人にするなんてとんでもない。

 私はそのまま続けようと思っていた運動をやめて、リリィの隣に腰かける。もちろんいつものように、ぴったり足がくっつくようにして。


「そんなことするわけないでしょ。逆だったら心細くて、リリィから離れたくないくらいなのに」

「よく言うわ。夕食の席でも私をそっちのけで盛り上がっていたじゃない。私よりよっぽど兄弟らしかったわよ」


 ソファの背もたれに右腕をのせてリリィの後ろにまで手をかけて、リリィを向きながらちょっとだけ甘い気持ちで言ったのに、あっさりと呆れたように言われてしまった。

 いやいや。確かにね? まあ実際に話してみると弟君のデヴィもいい子で私の旅の活躍話を聞きたがってくれて、話は弾んでいたけど。


「あれはいい子だったから。それに王と王妃相手だったらもっと緊張してたよ」

「あら、お義父様ではなくて?」

「いや、まあ、本人にはそう言うけど、この家でそう言う風に言うとちょっと紛らわしいでしょ」


 自分の父親のことは父上と呼ぶので、自分の中では呼び分けできているとはいえ、紛らわしいには変わりない。


「ふふ、わかっているわよ。私が呼び分けるのを不思議がっていたけれど、これで気持ちがわかったでしょう?」

「あー、そう言えば。なるほど」


 叔父と父だと関係が変わっているから、それが心的距離にもかかわるのかと思って受け止めていたから不思議に思ったけど、確かに、今のと同じだと言われたらそうか。なるほど。

 まあいいか。話かえよ。こういう話も楽しいけど、私としてはさっきの感激はまだ胸に新しいくらいなので、ちょっといちゃいちゃしたい気分だし。


「それはそうと、さっき、両親に言ってくれたの、ありがと。嬉しかったよ」

「……あなただって、言ってくれていたのだから当然でしょう? と言うか、その場でも言っていたじゃない。そんなに何度もお礼を言う必要はないわ。私はただ、自分の気持ちを伝えただけじゃない」


 私の雑な振りに、リリィは一瞬面食らったように瞬きしてから、気恥ずかしそうにしながらもそう私を見つめ返しながら答えてくれた。

 相変わらずどこか突き放すような物言いで、それでいて内容は普通にまっすぐに嬉しいことを言ってくれる。両親を安心させる為とかじゃなくて、ただのリリィの気持ちとか、私を喜ばせようとしているのかな、というくらいぐっときた。


 はー、めちゃくちゃ可愛い。好きすぎる。抱きしめたい。


 でも実家だし嫌がりそうなので我慢して、私はそっとさっき背もたれにかけた右手をリリィの右肩にかけて、左手でリリィの手をとって気持ちさっきより密着してから思いを伝える。


「リリィ、ありがとう。大好き」

「だから……もう、おかしな人ね」


 笑顔から戻らない私のだらしない顔に、リリィはほんの少しだけ唇を尖らせてから、くすりと笑って私の手を握り返してくれた。


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