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あなたを幸せにすると誓います  作者: 川木
第一章 結婚

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第二十一話 リリィ視点 愛しい人

 エレナの描く絵は十分に上手だけど、それ以上に温かみがあって、素直によい絵だと感じた。

 今まで肖像画は何枚も描かれてきた。個人と王族が全員集まったもので、最低でも毎年二枚は描かれる。専属の絵師のものでどれもほどほどに美化されて王族らしく描かれた見事なものだった。

 だけどエレナが描いてくれたものは肖像画と言うよりは風景画のような、顔がはっきりわかると言うよりはその時の空気感を描きだそうとするようなものだった。エレナの目にはこう映っているのだ。それがはっきり伝わってくる。


 特に二枚目のエレナの頭を撫でている私と言ったら、肖像画につきものだった威厳や固い空気も近寄りがたさも何もなくて、どこまでも優しそうな雰囲気を持っていた。

 エレナの前では、私はこんな風に振舞える。それが許されるし、求められているのだ。こんな私で、ずっといたい。そう素直に思う、そんな素敵な絵だった。


 そんな素敵な絵をもって、エレナは私に告白をした。


「ありがとう。この絵、私の気持ちをこめたから。大好きだよ、リリィ。受け取ってもらえる?」

「……ええ」


 最初はその言葉も、この間と同じく親愛のものだと思っていた。だけどその上で、告白みたいな言葉に私の心臓はどきどきとせわしなくなってしまっていた。

 だけど続けられた言葉にさすがに耐えられなくなった。勘違いだとはわかっているけど、その上でこんな言葉を日常的にこれからもかけられたら、いつか本気にしてしまうかもしれない。


 だから注意をした私に、だけどエレナは不思議そうに首を傾げた。それからにっこりと笑顔で言うのだ。


「じゃあ、もう一度はっきり言うね。リリィがとても素敵な人だから、恋に落ちました。本当の夫婦になれるよう努力するから、私だけを見ていてほしい」


 息が止まったかと思った。だって、そんなこと、ありえないことだと思っていた。

 すぐには頭がまわらない。エレナが私に恋愛感情を持っているなんて、そんな情緒があったことにも驚くし、そもそもあまりに都合のいい展開すぎる。夢ではないか。ここで調子に乗って私も、なんて言ってしまったら、目が覚めてから辛いのではないか。

 だけど夢だとして、なにも言わないなんてそんな可哀そうなことはできない。エレナにはまっすぐに向き合いたい。とにかく落ち着かないと。そう思って大きく呼吸をする私に、エレナはどこか儚げな笑みを浮かべて続ける。


「リリィからしたら、私は子供でそう言う対象ではないかもしれないけど気持ちは知っておいてほしくて。リリィに何かしてほしいってことではないから、安心して」


 その言葉に、私はこれが現実だと確信した。だってそうだろう。都合のいい夢なら、こんなにもエレナが自分のことがわかっていないわけない。

 本当に、何もわかっていないにもほどがある。普通に考えたって、魔王を倒した勇者様と言うだけでも魅力的だろう。誰より頼りになると言うことなのだから。だと言うのに、恋愛対象にすらならないなんて自己評価が低すぎる。


 だからちゃんと、丁寧に答えた。


「子供っぽくて可愛いところも、頼りになって格好いいところも、まぶしいくらい自由なところも、全部素敵よ。あなたと夫婦になって、好きにならないわけがないわ」


 きっと、エレナと一緒にいて好きにならない人なんていない。まして夫婦として一緒に過ごして、恋に落ちないはずがない。少なくとも私は、何度エレナとの出会いをやり直しても、同じように好きになってしまうだろう。

 そう丁寧に説明すると、エレナは真っ赤になった。さっき自分から告白した時は軽く照れているくらいだったのに、耳まで赤くて、私の好意にこんなにも動揺をあらわにしているのだ。

 なんて可愛いのだろう。いつも甘える時すら落ち着いているのに、こんな風になるなんて、ますます好きになってしまう。


 そう思いながら、エレナと恋人になった。正直に言うとこんなことは妄想すらしていなかった。すでに夫婦なのに恋人になるなんて。結婚する前にひそかに望んでいた妄想より、さらに砂糖をふりかけたような現実。

 ……やっぱり、現実ではなくて夢な気がしてきた。


 そんな風にドキドキしすぎて頭がおかしくなりそうになっていると、エレナは冷静に私を座らせてくれた。

 私も落ち着かないと。年上なのだし、あまりにうろたえてばかりでは情けない。と務めて冷静になろうとする私を邪魔するようにエレナは私の肩に頭をのせてきた。

 それでますますドキドキしてしまったけれど、その後もしばらく会話をしていると少しずつ落ち着いてきた。


 エレナの旅の話は少し聞いたけど、そう言えば家族については聞いていなかった。自分から話さないからあまり話したくないのかもしれないし、私も家族について話をするのは気が進まないからこちらから尋ねることはなかった。

 だけどどうやら気まずいだけで家族仲は悪くないらしい。私も似たようなものなので少し安心した。


 エレナが納得しているならそれでいい。とはいえ、そうなると私としてはご両親にご挨拶しなければならない。と言う義務感が湧いてくる。

 以前は政略結婚だし全員が納得済みのことで、親同士の話はついているなら、わざわざ挨拶なんてしても気を遣わせるだけだ。向こうからの接触がないのにこちらから積極的にかかわってもうっとうしいだけだろう、と思っていた。

 だけど今となっては話が変わる。


 他ならぬ愛しいエレナと恋人になり、本当の意味での夫婦として彼女を幸せにしたいのだ。なら、ご両親の了解を得て安心してもらって、祝福をしてほしい。それが年上であり、可愛いエレナをもらった私の通すべき礼儀だろう。


「エレナの家には私も同時に手紙を書くから、出すときは教えてちょうだい」

「わかったよ……。リリィは真面目だなぁ」

「そんなことはないと思うけれど。そう言えば、お父様にも話は通しておいたほうがいいでしょうね」

「え? そ、そうなの? 今更?」

「今更と言うか、今までは形だけの夫婦だったもの。いつかあなたの気が変わった時、それに合わせて進退を選べるように現状維持がベターだったのよ」


 あの人に相談してしまえば、何かしらの決断を求められただろう。別れをすすめられる可能性も高かった。でもひとまずエレナには時間が必要だと思った。それは正しかったと今も思う。

 だけどエレナが私を好きになり、正式に恋人となったのなら話は別だ。生涯を共にするのが事実になる。願望でもなんでもなく、ただの予定になったのだ。

 なら、いずれでてくるであろう後継者の問題や外聞に対しても事前に対策を立てておく必要がある。それこそ、王の得意とするところだ。


 ということを説明すると、エレナはうーんと少し悩むように首を傾げ、だけど口元をにやつかせている。どういう感情からの表情だろう。


「なに? その顔は。嫌ならそれに従うけれど、理由を聞きたいわ」

「いや、ふふ。いやぁ、嫌ってことはないよ。ただ、怒られるかもしれないから億劫だなって言うのと、あと、リリィが私と普通に死ぬまで夫婦でいてくれる想定でいるのが、嬉しくて。リリィ、結構重いタイプなんだね」

「え……そ、そんなこと。普通でしょう。恋人になるなら結婚が前提であってしかるべきだし、結婚をするなら、生涯を共にするのが当然じゃない。まして私たちはすでに婚姻関係にあるのだし」


 重いタイプ、なんて不名誉な悪口を笑顔で言われてしまった。にやけながらなのでエレナはそれを喜んでいるのだろうけど、だけど心外だ。むしろ恋人になるのに、一時的なものであると言う認識でいる方がおかしいのだ。

 顔をしかめて怒って見せる私に、それでもエレナは微笑みを絶やさずニコニコしている。少しくらい焦ってみせたらどうなのか。こういういつでも落ち着いているところが本当に年下らしくない。


「……なによ。エレナは、私と恋人にはなっても、そこまでではないのかしら?」

「ううん。そんなことない。ずっと一緒がいいよ。ただ、言い方がちょっと、当たり前に言うから、嬉しかっただけ」

「そ、そんなの……当然のことよ」


 堂々とそう言う、年下らしくない。そんなところが、頼もしくて何を言っても受け止めてくれそうな安心感がある。それでいて、私の言葉が嬉しいとか、言い方がストレートすぎるところだけは子供みたいで、可愛い。

 ああ、本当に、この人が好きだ。年上とか年下とか、そう言うのがすべてどうでもよくて、私のくだらないプライドも全部吹き飛ばして、ただただ、愛おしい。


 そう思って、また恥ずかしくなってしまう。エレナがここまで明け透けに言ってくれて、それが嬉しいのに、素直な言葉がでてこない。


「ごめん、からかうみたいになっちゃったね。でも、本当に違うよ。うん。王様にもちゃんと言おう。ちゃんと、リリィがほしいってお願いするよ。落ち着いたら結婚式ももう一度しよう」

「な、なに言ってるのよ。式なんて、何度もできるわけないでしょう」

「だってあの時は緊張していたし、リリィの花嫁姿も綺麗だなぁとは思っていたけど、ちゃんと目に焼き付けてないし」


 そんな私に、エレナはさらに動揺とさせようとしているのかと疑いたくなるような提案をしてくる。もう一度結婚式って、そんなことできるわけない。 

 そう思うのに、続けてとろけそうな笑顔で言われた内容に、胸がときめいて言葉が詰まってしまう。


 そんな風に言うエレナだって、あの時は素敵だった。とても格好良くて、この人の花嫁になるのだと言う事実に緊張してしまって、とにかく式を無事に進行させることしか考えられなくて、エレナとまともな会話もできなかった。

 今なら、どんな風になるだろう。素敵よ、と素直に褒められるだろうか。ああ、そんな風に言われたら、非常識でありえないことなのに、私だってそうしたくなってしまう。


「それに、今のこの気持ちで、本心からリリィに永遠を、リリィを幸せにしますって、神様に誓いたいんだ」

「っ……それは、気持ちはわかるけれど」

「大丈夫大丈夫。なにも大勢を呼んで大げさにしなくていいんだから」


 そう言ってエレナは、対外的には絵にかいてもらうと言う名目で絵描きを呼んで、式場とドレスを着る口実にして、絵描きを下がらせてから二人で式を挙げればいい。立会人がほしいなら、こっそり知り合いを呼んでもいいし。なんて、簡単なことみたいに。

 だけどそう言われると、できる気がしてしまう。なにより、私もそうしたいと思ってしまっている。


 私は結婚式で、ちゃんと本気で誓ったつもりだ。その夜にだって、いつだって本気だった。

 だけど、恋を知った今、全然気持ちが違うように思う。エレナが望む限りはというものだった。今は違う。今は、エレナが望まないと言っても離れたくない。その気持ちを引き留める為に、なんだってするだろう。

 この気持ちで、思いあう恋人同士で、結婚式を挙げてきちんと誓いをたてる。それはなんとも、魅力的な提案だった。


「……そんなことをして、後から間違いだったと言っても遅いのよ?」

「そんな言い方しないで。私が悪かったから」


 だけど、さっきは恋人になった瞬間から将来を考える私を重いと言ったくせに。なんて拗ねた気持ちも出てきて、エレナがそこまでの思い出はないのではないかなんて不安もでてきて、そんな可愛くない言い方をしてしまう。

 もっとまっすぐ、エレナのように素直に不安を口にして聞くことだってできるはずなのに。


「不安なら、何度でも誓うよ」


 そう言って、エレナは私の手を握った。さっき告白された時と同じように。あの時の熱を思い出して、勝手に私の体温は上昇してしまう。

 まっすぐに私を見つめて、エレナは言う。


「リリィ、愛してる。リリィを幸せにすると誓うよ。だから、私と結婚してください」


 だから、結婚はもうしているのに。もう一回式を挙げるにしたって、結婚してくださいは言い直さなくていいのに。


「……はい」


 そんな無粋なことも頭を巡ったけど、私の口からはただ、肯定だけがこぼれた。

 ああ、本当に、こんなにも人を好きになることができるのだ。不思議なくらいだ。ときめきで体が散らばってしまいそうで、それでいて目の前の光景も、触れられる手の感覚も、何もかもが鮮明だ。


「私も、エレナが好きよ。あなたを幸せにすると誓うから、私と結婚してくれるかしら?」

「もちろん。ありがとう、リリィ。私と出会ってくれて」

「馬鹿ね……。それは私のセリフよ」


 私のわかりきっていた答えに、ふっとエレナが安堵するように微笑んでそんなことを言う。エレナが望めば、どんな望みもかなうだろうに。そんな彼女が望むのは私なのだ。

 これ以上の幸福があるだろうか。きっと、エレナと一緒にいる為に、私は生まれてきたのだ。



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頭沸騰中?wのリリィさん 愛しいが溢れちゃっていますね♪ 楽しい計画にデレデレしながらも 王様を巻き込んで問題解消を目論む計算が素敵 さらにイチャイチャする二人を観ることになる 屋敷の方たちに乾杯〜
ああ、いい 素敵です リリィさんのドキドキや幸福感も伝わってきてジーンとしました! 格好よかったり子供っぽかったりするエレナさんも、お姉さんなのに素直に表現できなかったりするリリィさんも、大好きです!…
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