4人の時間
美里に翔太君に告白するように言おうと思った。
小さな声で耳元で……。
その時、翔太君が戻って来た。
「翔太、お帰り。遅かったな……大か?」
「あ……あんた!」
「小だよ。」
「子どもっぽい、わね。
下ネタ好きな子ども!」
「悪い! ごめん。詩織ちゃん……。」
「私には?」
「えっ? お前に?」
「そうよ。レディーは詩織だけじゃないわ。」
「そうだよな。ごめんね。美里ちゃん。」
「……翔太君は…悪くないから!」
「あぁ、そうですか! 悪いのは俺だけね。」
「そうよ。謝って!」
「悪うございました。」
「ねぇ、美里……ちょっとだけ庭園に面した廊下を歩かない?
あっ! お二人さんも、どうかな?」
「いいねぇ! それっ! nice idea!」
「ご一緒させて頂きますぞ。レディーのお誘いを断れませんからね。」
「じゃあ、皆で!」
「寒くないかな?」
「上着を取ってこようよ。」
「そうね。」
「じゃあ、部屋の前で待ってるぞ。」
「うん。」
4人とも部屋に戻り、上着を着た。
部屋を出る前に美里に言った。
「美里、告ろうよ。
もう最後のチャンスかもしれないから……。」
「……無理だって分かってるのに?」
「分かってても、だよ。」
「なんで!」
「……前を向くため!」
「前………。」
「拗らせてても同じ時間、拗らせるのを止めても同じ時間。
だったら、もう止めて前を向いて時間を過ごしたほうがいい、と思う。」
「……簡単に言うよね。」
「そうだね……。でも、きっかけがあるから……いいよ。
私も拗らせたまんまだけど、きっかけがない……。」
「詩織……。」
「この旅行をきっかけにしようかな……想いを…振り切る……。」
「詩織……あの人、もう結婚したんだよね。」
「うん。……もう二児の父……。」
「忘れられないまま……拗らせたまま…。」
「そうなのであ~る。
このままでも同じ時間だけど、もう終わりにしないといけないなぁ~って…
思ったんだ………。」
「きっかけ……。」
「そう、きっかけ……あるだけ羨ましいよ。」
「……ねぇ、何気に失礼じゃない……?」
「何が?」
「だって、振られる前提じゃないの!」
「あは……そだね。」
「……勇気……出すわ……。」
「うん。頑張って!」
部屋を出たらイケメンとフツメン(拓海君、失礼しましたぁ!)が並んで待ってくれていた。
「お待たせっ!」
「おう!」
「そんなに待ってないからね。」
「やっぱ、モテるイケメンは違うわね。」
「そっか!」
「あんたじゃない!」
「それ、失礼だぞ。美里。
でも……何気に失礼なのは詩織ちゃん……だな。」
「ごめんなさい。
ねぇ、男性二人でフロントに行った時、間違えられなかった?」
「うん? 何に?」
「お二人がパートナー!って……。」
「まさかぁ~。イケメン二人ならあるけど……。
一人は拓ちゃんなのに?」
「それも、失礼だな…。」
そう話しながら意図的に拓海君と並んで歩くようにした。
すると、小さな声で拓海君が言った。
「ありがとう。」と………。
庭園に面した廊下は一面鏡張りで、鏡を通していないように美しい庭園が見える。
美しい庭園を翔太君と美里が並んで歩いている。
その後姿を見ながら、私は拓海君と歩いている。
拓海君の寂し気な横顔が胸を刺した。