拓海の心
ラウンジバーで二人になった拓海君と美里、二人がどんな話をしていたのかを聞いたのは、ずっと後のことだった。
「美里……。」
「何よ!」
「お前、俺に礼の一つくらい言ってもバチ当たんないんじゃない?」
「なんのこと?」
「翔太を連れてきたやったぜ!」
「………そ……それは……ありがと。」
「えっ? 聞こえなかったなぁ……。」
「ありがと! 言ったよ。」
「可愛くないなぁ……。」
「あんたに可愛いと思われたくないからいいの!」
「……なぁ……美里。」
「何よ。」
「もう、告っちゃえば?」
「えっ?」
「もう何年だよ……。」
「でも、翔太君……21歳の子と…付き合って…るんでしょ。」
「今も付き合ってるかどうかを、お前自身が聞けよな。
詩織ちゃんを使わずに!」
「…!」
「詩織ちゃん、今、聞いてくれてるんだろ? 翔太に……。」
「……詩織…いいって…言ってくれたもん。」
「なぁ、自分の耳で聞いた方がいいと思うぜ。
翔太が戻ってきたら、俺は詩織ちゃんを誘って席を立つから…な。
その時に勇気を出して聞けよ。
そして、自分の気持ちを頑張って伝えろ!」
「……簡単に言ってくれる…よね。」
「告るって勇気が要るのは分かってるって……。
でもな、もうこれ以上拗らせるなよ。」
「………無理だもん。」
「告ってみないと分からない!だろ?」
「……でも……。」
「いつも俺に対する態度のようにすればいいじゃん。」
「違うもん。拓ちゃんと翔太君は違うもん。」
⦅拓ちゃん……懐かしいな……何年ぶりだ?⦆
「兎に角、頑張れよ。
美里、詩織ちゃんを使わずにな。
いっつも詩織ちゃんを使ってるだろ。
もう、それも止めなよ。」
「……………。」
「まぁ、どうするかは美里が決めることだけどな。」
「……………。」
「おっ! 詩織ちゃんの方が早かったね。」
「ただいまぁ~。」
「お帰りぃ~。」
ゆっくりカクテルを一口飲むと……。
「おっ……優雅だね!」
「そお? 私、貴婦人みたい?」
「う!………そう……だね…。」
「美里……翔太君、別れてたよ。21歳の子と…。」
「ほんと?」
小さな声で翔太君が別れていることを話すと美里はパァーっと顔を輝かせた。
それを見た拓海君の顔が寂しげだったのを見たのは、たぶん……私一人……。
翔太君は別れた元カノが今も好きで、その翔太君を元カノと付き合っている時から好きなのが美里で……。
その美里をずっと好きなのが拓海君。
この直線関係(?)をずっと見て来たのが私。
3人とも拗らせている。