義姉の気持ち
私に起きたことを話す番になった。
私は順序だてて話すことが出来るか不安だった。
「話すね。最初は………」
それは兄嫁からの見合いの話だった。
「詩織、会って話したい。」
「何?」
「会ってから話すよ。」
「分かった。お兄ちゃん、日時と場所は?」
「お前の家に行くよ。」
「分かったわ。待ってるね。で、日時は?」
「明日の19時、帰宅してるか?」
「20時にして! 残業があったら困るから……。」
「分かった。」
「待てるね。」
「うん。」
兄は時間通りに来た。
「久し振りだな。実家……といっても、前の家が本当の実家だけどな。」
「仕方ないじゃん。」
「そうだな。」
「仏壇に手を合わせて来るわ。」
「うん。私も帰りましたって……。」
兄と妹が二人で並んで手を合わせた。
終わって振り返った兄が言った。
「見合いの話を持ってきた。」
「えぇ―――っ! またぁ~。」
「まぁ、見ろよ。」
「お義姉さんからなの? また……。」
「うん。そうなんだ。お前のこと、心配してるんだ。」
「何の心配なの?」
「何って……いつまでも一人だと寂しいだろ?」
「………………。」
「それに、年取った時も誰かいると安心だからな。
俺も心配してるんだぞ。」
「年を取ってからの心配?」
「そうだ! お前が一人で居ると心配なんだ。
誰もお前のこと看られないからな。
俺も…うちのも…無理だ。
子どもに至っては絶対に無理だから………。」
「心配なのは私の介護なのね。」
「かい……それだけじゃないぞ。」
「私の介護を自分の子ども達にはさせないためなのね。」
「だから! それだけじゃない!」
「お義姉さんの心配はそれだけよね。」
「詩織……お前、言っていいことじゃないぞ!」
「そうね。ごめんなさい。
でも、安心して! お兄ちゃんの子ども達に面倒見て貰う気無いから!」
「詩織! それだけじゃないって言ってるだろ!」
「安心してよ。私は私自身の老後のことを考えているから……。
独りでも大丈夫なように計画してるから………。」
「詩織……そんな寂しいこと言うなよ……。」
「仕方ないじゃん。それが私の人生なんだから……。」
「なぁ、会ってみるだけでも……どうだ?」
「断りにくいから嫌だ!」
「詩織………。」
「お兄ちゃん、お義姉さんに言って!
安心してください!って、老後の計画はしています。
お子さんたちの世話にはなりません!って伝えてよ。」
「詩織……。いつまで想いを寄せてるんだ?」
「なんのこと?」
「彼だろ? 真瀬って奴……。」
「お兄ちゃん、もう終わったのよ。」
「お前は終わって無いんだろ? お前……
家のために諦めて……だから、独りで居て欲しくない。
なぁ、一度だけ会ってみないか?」
「嫌! 諦めて!」
「………詩織……。」
「もう話が終わったんなら帰ってよね。」
「………詩織……。いつか……お前の花嫁姿、俺は見たい。
そう思っている。それは純粋に思ってるんだ。」
「分かったから、帰ってよ。お願いだから………。」
「………帰るよ。………詩織、元気でな。」
「お兄ちゃんも………。」
「幸せを掴んでくれ!」
「さようなら。」
「また、来るから……。」
「お線香を上げに来て!」
「うん。じゃあな……。」
「うん。」
いい加減にして欲しかった。
義姉の心配りが嫌だった。
素直にはなれなかった。
義姉が見合いについての全てを設定してしまっていると知ったのは当日だった。




