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明日へ  作者: yukko
39/57

美里夫婦

年下君が話し始めた。


「僕は最初、ただの美人な先輩だと思って気にも掛けて無かったんです。

 それが、ある日、恋に落ちました。」

「はいはい。知ってます。」

「聞こうよ。俺は知らないから……。」

「続けます。いいですよね。詩織さん。」

「もぉ……好きにどうぞ~。」

「僕は結構、モテるんです。

 だから、女性から声を掛けられて付き合う繰り返しだったんです。

 結構、しつこくて……『女って……。』って思ってました。

 それは入社してからも変わらなかったんです。

 宴会の時にしつこい子が居て、酔ってたからか分からないですけどね。

 僕がトイレに行って、出ると、そこに居たんですよね。その子が……。

 僕、腹が立って言ってしまったんです。

 『お前なんかドブスを相手にするわけないだろ! バカか?』ってね。

 その時、大声で泣きだしてしまって……その子が……。

 めっちゃ困ったんです。

 本音で言うと『困ったな。』と『知るかよ!』だったんですけどね。

 立ち去れなかったんですね。

 その時に美里先輩が来てくれたんですね。

 たまたま、だったみたいなんですけど……。

 そして、言ってくれたんです。その子を抱き上げながら……

 『ちょっと飲み過ぎたのよね。もう帰ろうか? 送るから……。』って!

 そして、僕には『大丈夫だから心配しないでね。任せて!』って!

 もう僕、その時の美里さんの顔が忘れられなくなったんです。」

「もう知ってます。」

「俺は初めて聞いた!」

「モテるって大変なのよね。ねぇ、あなた…。」

「そうだ! 翔太の奴も入れ食いだ。常に……。」

「おい、俺はこの話には無関係だ! 

 ずっと君しか見えて無いからね。」

「あなた……。」

「そこで、ハートを飛ばさない!」

「次は? 早く話し終えてよ!」

「そう急がせないで下さい。詩織さん。」

「はいはい。」

「それから、詩織さんのご指導の下。」

「ちょっと待ったぁ―――っ。

 何が私の指導の下なのよ!」

「教えてくださったじゃありませんか。

 僕は今でも感謝しています。

 僕から女性にアプローチかけたこと無いので……

 本当に助かったんですよ。」

「イケメン君は違うね。アプローチかけられるしか経験ないってさ。」

「イジケナイ! 拓ちゃん。」

「詩織さんが教えてくれたんです。

 『はっきり言いなさいよ。

  〔僕は美里さんが大好きです。付き合ってください。お願いします!〕

  そう言えば分かるから……美里でも……。』って……。

 僕は伝えてきたつもりだったんですが、ちょっと鈍感なので……妻は……。」

「ちょっと待って……私、鈍感って……。」

「うん。ちょっとだけね。異性の想いに対してだけ鈍感だよ。」

「そんな……。」

「でも、それも含めて愛してるよ。」

「あなたぁ~。」

「もう駄目……お腹いっぱい過ぎて苦しい……。」

「もうちょっと我慢してくれよ。年下君のプロポーズ、聞いてないからさ。」

「承知しました。」

「でっ? それからどうした。」

「詩織さんのご指導通りに伝えたんです。

 会社の帰りでした。

 一緒に歩いていて言ったんです。

 雨が降ってました。

 傘を閉じて駅舎に入ろうとした妻に……

 『僕は美里さんが大好きです。付き合ってください。お願いします!』

 そう言ったんです。」

「うん? 私の言葉そのまま?」

「はい! そう言ったら、頬を染めて『ありがとう。よろしくね。』

 そう応えてくれたんです。」

「嬉しかったの。私もちょっと気になってたのね。知らぬ間に……。」

「それで、プロポーズの言葉は?」

「それは、付き合って2日後でした。」

「早っ!」

「『愛しています。僕と結婚してください。』と言いました。

 頷いてくれました。

 それからは直ぐに全てを決めたくて…大急ぎで進めました。」

「直球だな。」

「一番、分かりやすくて素敵な言葉ですよ。」

「直球じゃないと美里には分からなかったかもしんないから、ね。」

「そだな………。」

「何と言っても………。」

「鈍感ですから!」

「鈍感だな!」

「鈍感だから…。」

「鈍感!だけハモらないで!」

「アハハ!……詩織ちゃんは? どんな日々だった?」

「私? 話すことなどないわよ。」

「あるんじゃないか?」

「あるわよ。詩織って言ってくれないもん。

 あの彼との別れも……私、知らなかった。

 別れたって言葉だけだったもん。

 いつも我慢してばっか……だから、何かあったとしても言ってくれないもん。

 友達なのに……寂しいよ。」

「……ごめんね。美里……泣かないで……。」

「大丈夫です。僕が居ます。」

「あったこと……話すわ。

 でも……みんなと違うから……幸せな話は皆無よ。

 それでも……いいの?」

「ほら……苦しいのに誰にも話さなかった……。」

「解決できないし、俺達が何か出来るわけでもない。

 でも、話して……その一瞬でも、ほんの少しでも楽になれるんじゃないか?

 だから、何も出来ないけど……話して欲しい。無理のない範囲で…。」

「拓海君……。」

「聞くだけしか出来ないけど……このメンバーから話が外に出ることはないよ。

 その点だけは保障出来るからね。

 俺も、一瞬でも詩織ちゃんには楽になって欲しいと思う。」

「翔太君……。」

「詩織………。」

「美里………皆……ありがと。

 良い話は一つもないけど聞いてくれる?

 私の5年間……。」

「うん。」

「ありがとう。話すね。」


私は私に起きたことを話す番になった。

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