翔太夫婦
子どもが居なくても翔太君夫婦は仲が良い。
それは、あの離れた時間もプラスになっているのだろう、と思う。
お互いに好きだったのに別れてしまった二人だから……。
別れた後も想い合っていた二人だから……。
「そうなんだ……。」
「ええ……。」
「もう止めろよな。」
「いいじゃないですか……私も聞きたいです。」
「独り身の私のためにも! 是非! 後学のために!」
「拓海だけじゃなく……もぉ~。」
「出張先に行くなんてぇ~、翔太君、情熱的!」
「僕も情熱的で…美里さんを愛してました。今も愛してます。」
「やだぁ―――っ、恥ずかしいわぁ~。」
「おい! そこイチャつくな! 話が進まん!」
「それにしても……
あの日、ここをチェックアウトして直ぐに会いに行くなんて……。」
「ほんと、それよ。」
「有馬温泉での一泊で心を決められたんだ。
特に、詩織ちゃん! 君の言葉が決定打だった。」
「へ? 私?」
「そうだよ。」
「ありがとうございました。詩織さん。」
「え~~っと、覚えていないんですけどぉ?」
「覚えて無くても詩織ちゃんの元カレとの別れの話がきっかけなんだよ。」
「……そうなんだ。」
「それでっ、出張先で直ぐに会えたの?」
「彼女が泊ってるホテルのロビーで待ってた。」
「同じ会社だから出張先も分かったの?」
「うん。泊まるホテルも分かる。
会社が予約取るからね。いつも決まってるホテルなんだ。」
「ビックリしました。だって、居るはずがない彼が居るんですもの……。」
「そりゃそうだ。
でっ! それから、どうした?」
「『プロポーズしに来た。』って言った。」
「おいっ、会って行き成りか?」
「おう……。ビックリしてたけどな。」
「当たり前だ!」
「でも、羨ましいな……。
追いかけて来てくれて……そして行き成りのプロポーズ ♡ 」
「僕のプロポーズは駄目だった?」
「ううん! そんなこと無いわ!」
「はい。そこっ! 教育的指導! 話の腰を折らないように!」
「済みません。」
「ちょっとぉ、拓ちゃん、いいじゃん。」
「美里、今は翔太君のプロポーズを聞いてんの。ちょっと黙ってて、ね。」
「分かった。」
「おい! 俺の言うこと聞かないくせに詩織ちゃんの言うことなら聞くのかよ。」
「当然のことよ。」
「拓海君、話の腰!」
「ごめん。」
「怒られてんの。」
「……それで? それから、どうしたの?
『プロポーズしに来た。』って言ってから……。」
「俺は二人で話したいって言って、二人でホテルを出て歩いたんだ。」
「うんうん。それで?」
「夜空の星が綺麗だったわ。」
「うんうん。それで?」
「河原を歩いてたんだ。」
「うんうん。それで?」
「俺は気持ちを伝えた。
『ずっと好きで忘れられなかった。今も愛してる。
もし、君の気持ちも俺の方を向いてくれてるなら……
もう一度、付き合って欲しい。結婚を前提に!』
そう言ったんだ。」
「うわぁ~~~っ。羨ましい! そんな言葉、貰ったこと無いわ。」
「詩織もあるでしょう?」
「ないない。だって、プロポーズして貰ったこと無いから……。」
「あの彼からも……。」
「そんな素敵な言葉は一度も無かったわ。」
「プロポーズはされたんでしょう?」
「同期の結婚が決まった時に、『俺も考えてる。』ってだけね。
よくよく考えると、相手は私とは決まって無いわよね。」
「……詩織……。」
「詩織ちゃん、その言葉の相手は君だよ。」
「そう、詩織ちゃんだけだ。……その時は……。」
「もう私の話はお終い! でっ……それだけ? 翔太君の言葉。」
「夜空の星が綺麗だったんだ。」
「うん。それは奥様から聞いたわ。」
「『この夜空の星よりも俺にとっては君が輝いてる。
君が輝けるように俺は努力する。
仕事を好きなだけして欲しい。』とか言ったと思う。」
「げっ! キザ! キザな野郎だぜ!」
「キザね。私も思うわ。」
「そうだろ! 詩織ちゃん!」
「それで、奥様は心が決まったんですか?」
「ええ、私は仕事を辞めたくなかったし、続ける以上は少しでも仕事に影響は無し
にしたかったの。」
「キャリアを諦めたくなかったんですね。」
「ええ! 前に別れた理由は彼が求める結婚が一般的な男性に女性が従うような結
婚だと思い込んでたのね。でも、違ったの。
第一、お互いに良く話し合わなかったと思うのよね。
私は決めつけてたし、彼は気持ちを私に押し付けるようなことしなかった。
それは、話し合わなかったってことなのよ。」
「では、結婚されて……。」
「もう、幸せよ!
世間では子どもを産むこと……求められるけど……
彼は違うの。
子どもを授かれてたらイクメンになってくれたと思う。
ただ、子宝に恵まれなかったわ。」
「翔太は?」
「俺? 当然、幸せだよ! 好きな女性と共に歩めるのだから……。」
「ご馳走様でした! もう満腹だわ。」
「私もご馳走様でした!……だけどぉ……拓ちゃんとこのことも知りたいな。」
「そうだ! 俺も知りたい!」
「じゃあ、次は拓海君ね。」
「それ! 却下!」
「どしてよお~?」
「恥ずかしいから、止めて貰えると嬉しいです。」
「奥様、翔太君ちのこと聞いておいて…恥ずかしいからは……ないぜ!」
「詩織さん……。」
「次は拓海君とこに決まりましたぁ~。」
次の話は拓海君のプロポーズに決まった。




