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明日へ  作者: yukko
34/57

交通事故

スッキリ目覚められなかった朝。

どの位眠られたのかさえ分からないまま職場に向かった。

職場で唯一女子の同期が居る。

昼休みに話してしまった。


「ごめんね。知ってたんだ。お子さんのこと……。」

「そう……。」

「二人を一度に亡くしたのよ。」

「えっ?」

「全て知ってることを話すわね。」

「………私が聞いていいの?」

「同期は皆知ってることよ。」

「そうだったの……。」

「詩織だけには話さないでおこうって決めたの。」

「気を遣わせてしまって…。」

「ほらぁ~、それ、止めてよね。

 詩織が周囲に気を使いすぎなんだって!」

「…そうなの?」

「そうなのよ!

 …………話すね。」

「うん。」

「お子さんの事故だけど、交通事故なのよね。」

「交通事故……。」

「そう……詩織のお父さんと一緒………。

 その日、社宅の前の道で……奥さんが言ったのよ。

 『うちの上の子はしっかりしてるから、任せて!』って……。

 3歳の男の子を自分の上の子に任せて!って言ったのよね。

 その3歳の子のお母さんは断ろうとしたのだけど……断り切れなかったの。」

「なんで?」

「気が弱い人でね。強く出られたら断れなかったのよ。

 それに、あの奥さん、女王様みたいに君臨してたのよ。

 社宅では有名だった。

 私も同じ社宅だったから…見てるのよ。」

「まさか……。」

「まぁ、女王様だったことは直接関係しないけどね。

 その日、断れなかったから……事故に遭ったのよ。」

「その子も被害者なの?」

「うん。上の子が下の子と、その子を両手に……

 手を繋いで渡ったのよね。

 横断歩道じゃない所を……傍に横断歩道があるのだけど…

 そこじゃない所を渡ったの。

 そして、タクシーが……3人とも轢かれたの。」

「……轢かれた……。」

「ごめん。お父さんの時のこと思い出すよね。」

「大丈夫! 大丈夫だから……。」

「話を続けてもいい?」

「うん。」

「親の目の前で轢かれて、助かったのは3歳の男の子だけだったの。

 それから、奥さんが酷いことを言ったのよ。

 『あの子を連れていなかったら、私の子は横断歩道じゃない所を渡らなかっ

 た。』、『あの子のせいで、うちの子は死んだ。』

 それを、3歳の子の母の前で言ったのよ。

 だから、誰も可哀想だとは言わなかったの。

 お子さんは可哀想だけど、奥さんのことは可哀想だとは言わなかったの。」

「…………直ぐに亡くなったの? 2人とも……。」

「一番先に車に轢かれた下の子は即死だったの。

 上の子は脳死状態で……脳死判定を受けたそうなの。

 脳死だったから、説明を受けたけど臓器提供を即拒否したらしいの。

 当たり前よね。

 自分の子が脳死って言われて、『します!』って即答できないわ。

 親なら………。」

「それは、難しいよね。」

「3歳の子のお母さんは精神的に追い詰められてしまって……

 社宅を出たのよ。」

「……そうなの……。お辛かったでしょうね。」

「うん。生き残った子の親も辛かったのよ。」

「……辛すぎたのよ。きっと……。」

「うん。そうだよね。」

「だから、3歳の子のせいにしたんだわ。」

「え?」

「辛すぎて、自分のせいだって責め苛んで……辛すぎて……

 誰かのせいにしないと心が壊れてしまう……。」

「そりゃあ、そうかもしんないけど!

 それでも言っていいことと悪いことあるよね。」

「……うん。あるわ。」

「あの奥さんは言ったら悪いことを言ったのよ。」

「そうね。」

「今、大変みたい。」

「そうよね。」

「妻が……変だから……。」

「奥さん、精神疾患なの?」

「そう聞いたわ。実家に帰ったままだって聞いた。」

「追い詰められてしまわないといいんだけど………。」

「ご両親が1日見てくれているから大丈夫だと思うわ。」

「そうよね。ご両親が居てくださる。」

「……詩織……大丈夫? 事故の話……私、配慮が足りなかったわ。

 ごめんなさい。」

「大丈夫よ。大丈夫だから……気にしないでね。

 第一、私から知りたがったことだから…。」

「真瀬君、心機一転なのよ。」

「そうだね。」

「退職は心機一転!のためなのよ。」

「……ねぇ、もし会うことがあれば私の分も『頑張って!』って言ってよね。」

「分?」

「うん。千尋の気持ちに私の『頑張って!』をちょっとだけ入れて、ね。」

「分かった。」


別れ際……。


「千尋、お子さん無事に成人して欲しいわ。」

「ありがとう。私も真瀬君の身に起こったこと、他人事じゃないと思ってる。」

「千尋も身体を大切にしてね。」

「ありがとう。詩織こそ……。」


独り帰り道で思った。

知らなかった。

彼は私と違って幸せなのだと思っていた。

でも、誰もが常に幸せではないのだと思った。


⦅頑張って! 頑張ってね。⦆


何度も心の中で呟いた。

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