露天風呂
二人で着いた旅先は、有馬温泉。
「ねぇ、どうして有馬温泉なの?」
「聞いてないわ。聞いといた方が良かった?」
「ううん、別にいいよ。……でも、なんでなんだろう?」
「何なんだろうなぁ~。
……あっ! お料理ね。」
「うんうん。」
「肉にしたから……変えたからね。」
「変えた?」
「うん、うちの両親、会席を頼んでたから…。
勝手に変えたけど、たぶんOKでしょ。」
「うんうん。OK!」
「肉好きだもんね。」
「うんうん。大好き~ ♡
神戸牛だよね!」
「その通りでございまするぅ。」
「やった~~~っ!」
着いた旅館の部屋は竹林を望む露天風呂付客室だった。
「うわぁ~~~っ!
露天風呂付きじゃん!」
「いいねっ!」
「二人で貸し切りだね。」
「うんうん。」
「ねぇ、おじさんとおばさんにお礼言いたいな。」
「じゃあ、電話するか。」
「うんうん。」
「おじいちゃんね、少し体調が良くないらしいんだ。
だから、おじいちゃんとこに行ってるのよ。
あ! 思い出した!」
「なになに?」
「有馬温泉は、おじいちゃんの新婚旅行先だっ!」
「おじいちゃんの?」
「うん。おじいちゃん、おばあちゃんを連れて行くためだったわ。」
「……ねぇ、それ何人で?」
「知らない。」
「単純に4人だよね。
おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさん……。」
「あれっ? でも、私2人分しか貰ってないよ。」
「あと2人分は? どこ行ったぁ~。」
「まぁ、いいじゃん。
兎に角二人でお肉食べて、ゆっくり露天風呂を楽しもうよ。」
「そだね。」
そして、美里は父親に電話を架ける。
「あ……お父さん……。」
(おう、着いたか?)
「うん。着いた。」
「おじさん! 詩織です。」
(詩織ちゃん! 美里と行ってくれたんだね。
ありがとう。)
「お礼を言うのは私ですよ。ありがとうございます。
露天風呂付きのお部屋、素敵です。」
(そう、喜んでくれて嬉しいよ。
竹林を見ながら入れるらしいから……露天風呂。)
「そうなんですよ。めっちゃ素敵です。
本当にありがとうございました。」
(喜んでくれてたら嬉しいよ。
無理やり行かせてしまったからね。)
「おじさん、無理やりじゃないですよ。
予定が無かったクリスマスを美里と二人で楽しめてるんですから!」
(そう? ありがとう。
美里と仲良くしてくれてありがとね。)
「こちらこそです。」
「お父さん、おじいちゃんは? どうなの?」
(ちょっと転んだけど、骨折はしてなかったから!)
「良かった~。」
(二人で楽しんでおいで。)
「うん。」
「はい。ありがとうございます。」
(じゃあね。詩織ちゃん。)
「はい。お土産楽しみにしてください。」
(ありがとう。)
「お土産期待しないでね。」
(期待したら駄目なのか?)
「まぁ、そこそこの品かな?」
(無事に帰って来なさい。それだけだ。)
「はい。」
(じゃあな。)
電話を終えてから美里の「あっ!」に驚いた。
「どうしたの?」
「聞くの忘れた!」
「何を?」
「あと2人分……。」
「あっ! ……もう、いいじゃん。」
「そだね。」
神戸牛に舌鼓を打った後、二人で露天風呂にゆっくり入った。