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明日へ  作者: yukko
18/57

久し振りに兄に会うことになった。

引っ越ししたことを伝えたら「引っ越し祝いをする。」と言ってきた。


「良かったよ。あのアパートは心配だった。」

「心配してくれてたんだ。」

「お前なぁ……これでも兄なんだ。妹のこと心配しない訳ないんだぞ。」

「そう?」

「疑ってやがる。」

「それで? 何の用?」

「……今まで済まなかった。

 実家のこと、お前にばかり……済まなかった。」

「今日のこと、お義姉さん知ってるの?」

「言ってきた。」

「ふぅ~~ん。」

「もう借金が終わったと、父さんから電話を貰った。

 もう安心してくれと………。」

「そう。」

「俺は何もしなかった。だから、少しだけでもお前に何かしたいと思った。」

「ふぅ~~ん。それで、引っ越し祝い?

 それって、誰でもすることじゃないの?

 私に何かしたいと言って、それが引っ越し祝いって………。」

「何を言われても仕方ないよ。」

「分かってるわよ。出来ない理由も何もかも……。

 子どもが居れば出来ないのは当たり前だもん。

 だけどね……少しくらいは言葉位はくれても良かったんじゃないの?」

「そうだな。」

「ほぼ連絡なしだったじゃないの。」

「うん。」

「お父さんとお母さんには連絡だけでも取ってたんでしょうね。」

「それは……少なかったけど……。」

「もう、いいわ。引っ越し祝いも要らない。」

「これだけは、詩織。貰ってくれ。」

「もう実家に仕送りしなくて良くなったから……家も少しマシな所に引っ越せた

 し……だから、もういいわ。」

「俺からなんだ。少ないけど俺の小遣いを貯めて……だから…。」

「……分かった。家計に響かないなら貰っておく。」

「うん。そうしてくれ。」

「ありがとう。」

「うん。………それから……。」

「まだ、何かあるの?」

「これ、うちのがお前にどうかな?って……。」

「何これ?」

「うちの……。」

「お義姉さんの何?」

「会社の人らしいんだ。結婚相手を探してて……。

 再婚らしいんだけどね。

 とってもいい人なんだそうだ。」

「………………。」

「アプリで探してたらしいんだけど、上手くいかなかったらしいんだ。」

「それで、私に…と!」

「うん。見るだけでも、な。」

「持って帰って!」

「詩織!」

「要らないわ!」

「詩織! うちのも心配してるんだ。」

「そう、ありがとうございます!って言っといて。」

「それなら……。」

「私は! 今も……好きなのよ。忘れられないの。

 だから、こんなこと止めてよ。」

「詩織……。」

「頼んでもいないことしないで!」

「……詩織……お前が別れた理由……実家の借金だろ。だから……。

 何も出来なかった兄として……お前の……。」

「要らないから!」

「父さんと母さんに花嫁衣裳見せてやって欲しいんだ。

 いつでもいいから……いつか…そんな日を…。

 俺も娘が居るから、娘の花嫁姿、見たいと思う日が来ると思うから…。」

「……そうかもしれないけど、私の気持ちは?

 無視しないで!」

「……そうだな……ごめん。悪かった。」

「もう、いいよ。こんなことしないでいてくれたら……。」

「これから先、何かあったら……俺に出来ることがあるかもしれないから……

 出来たら、頼って欲しい。」

「気持ちだけ受け取っておく。」

「気持ちだけって……。」

「無理だと思うから……。」

「詩織……。」

「私のことよりも子どもでしょ。

 お兄ちゃんにとって大事なのは子どもでしょ。

 妻子を大事にしてたら、お父さんもお母さんも安心する。

 私もその方がいいわ。」

「詩織。」

「お義姉さんに恨まれたくないし……。」

「詩織。」

「この引っ越し祝いは大丈夫なの? お義姉さん、知ってるの?」

「話した。」

「ほんとに?」

「疑うな!」

「じゃあ、有難く頂きます。」

「そうしてくれ。……詩織、役に立たない兄で申し訳ない。」

「もういいから!

 そうだ! 晩御飯はどうするの?」

「帰って食べるよ。そう言って来たから……。」

「分かった。」

「もう帰るよ。」

「うん。気を付けて……。」

「詩織……身体に気をつけろよ。」

「うん。お兄ちゃんも……。」

「詩織……幸せにな。」

「幸せだよ。健康だし、解雇にもなって無いし…。

 住む所があって、仕事できる身体があって、仕事をしてお給料を貰えて…。

 だから、生きていかれる。

 幸せなんだと思ってるよ。」

「そうか……。

 兄の我儘だと思って聞いてくれ。」

「何?」

「一人ではなく、誰かと共に歩む人生を……

 いつか、出来れば送って欲しい。」

「あはっ……そんな日、来ないと思うけど……。」

「俺の兄としての願いだよ。……祈りかな…?」

「言われると辛いから、もう二度と言わないで!」

「ごめん。……元気で居てくれ。」

「うん。ありがとう。

 ……今日は、ありがとうね。」

「お礼を言わないといけないのは俺の方だから……。」

「お義姉さんにもお礼言ってたと伝えて。」

「分かった。……じゃあな。」

「うん。元気でね。」


兄は手を振って帰って行った。

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