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明日へ  作者: yukko
17/57

拓海

拓海君と並んで歩いているのが不思議だった。

いつも美里が居たのだ。

美里が居ない時に拓海君と会うことなどなかった。


「詩織ちゃん、ありがとね。」

「美里には私から言おうか?」

「美里……どうしてる?」

「……どうして…る……って……。」

⦅言うべきなんだよね……。⦆

「あの………。」

「美里に彼氏……出来たか?」

⦅あぁ……なんとなく気付いてるのか、な?⦆

「…………。」

⦅めっちゃ勇気居る…。⦆

「詩織ちゃん?」

「…あのね……美里、会社の人と付き合いだした…。」

「……そ…っか……。明るくなってた?」

「うん。」

「幸せなんだな。」

「うん。」

「もう、決めたのか?」

「結婚?」

「うん。」

「……そうみたい……。」

「……そ…っか………。幸せなんだな…。」

「うん。

 ………拓海君……大丈夫?」

「…ごめん。悪い。気に掛けさせてしまって……。」

「そんな……当たり前だよ。」

「…てか……俺の気持ち、いつから知ってたんだ?」

「いつから? 分かんない……けど、長いと思う。」

「美里は? 俺の気持ち、知ってるのか?」

「美里は気付いてない! 安心して。」

「そっか……。良かった。」

「あくまでも近所の幼馴染のお兄ちゃんで居たかったのね。」

「それしか……俺のポジションは無いからな。」

「これを機に、周りを見てね。

 すると、今まで見えなかった人も物も見えてくると思おうから……。」

「そうだな…。」

「まぁ、見えても私みたく、何も無い人間もいますが……。」

「そうなのか?」

「うん。全く………まったく! モテない。」

「そんなことないだろ。」

「あるあるですねん。」

「何故に関西弁!」

「なんとなく?」

「拓海君! 男だから泣いちゃ駄目とか思わないでね。

 泣くなら私の胸を貸してあげるからね。」

「要らない。そんなにペッタンコの胸では泣けない!」

「失礼な! その言葉! セクハラじゃあ~!」

「……詩織ちゃん……俺の我儘、聞いてくれる?」

「聞くよ。今日だけは…!」

「さっきの店で何も飲んでないんだ。アルコール不足だぜ。」

「分かった。付き合う!」

「居酒屋でもいいかな?」

「いいよ!」


それから、拓海君と二人で居酒屋に行き食べて飲んだ。

拓海君は変に明るくって、それが怖かった。

別れ際に聞かれた。


「詩織ちゃんは、忘れられた?」

「忘れられないままだよ。好きだったから……。」

「好きなまま別れたんだよな。」

「うん。」

「戻れないのか?」

「翔太君と違って、彼はもう二児の父。」

「そっか……。」

「私ね、一生できる仕事に巡り合いたいんだ。」

「そっか……。」

「別れる原因だった実家の借金も目途が立ったと父が言ってたし…

 もう仕送りしなくていいから、引っ越したのよ。

 おんぼろアパートから…。」

「おんぼろアパート?」

「うん。セキュリティ対策全く駄目なアパート。」

「引っ越せて良かったよ。」

「うん。」

「それに、今まで何も無くて本当に良かったよ。」

「ありがと。」

「俺も詩織ちゃんを見習って仕事頑張る。」

「それもいいんじゃないかな?」

「そうだな。

 ……今日はありがとう。」

「いいえ、どういたしまして!

 美里へは私が話すからね。翔太君のこと……。」

「おう。頼む。

 ……ごめんな。俺、今は平気な顔できなさそうだから…。」

「気にしないで! 

 ゆっくり…心を……何て言ったらいいのか分かんないけど…。」

「ありがとう。

 ……で、家まで送るよ。」

「いいよ。」

「否、送らせて! 俺のためでもあるから…。」

「じゃあ、遠慮なく…。」

「そうして!」


拓海君に美里さえまだ来ていない家まで送って貰った。

玄関で別れた後、拓海君の寂し気な後姿が目に焼き付いた。

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