バイバイ
朝、美里はまだ寝ているようだ。
本当に寝ているのか、振りをしているのか…は分からない。
今のうちでないと翔太君に話せない。
美里を起こさないように、そっと部屋を出て、隣の部屋のドアをノックした。
「おはよう!」
「おはよう! 翔太君は?」
「翔太に用か?」
「あ……うん。ちょっとだけ……。」
「入る?……って駄目だよな。」
「うん? 気付いてくれてありがとう。」
「今から朝食に行くんだけど……一緒に行く?」
「ううん。別々で……。あのね、別行動しよう!って言いに来ただけなんだ。」
「そっか……分かった。でも、翔太には別の話もあるんだろ?」
「うん。」
「翔太ぁ~、詩織ちゃんが来てるぞ。」
「聞こえてるよ。
詩織ちゃん、おはよう。」
「おはよう。ちょっとだけいいかな?」
「うん。 拓海…。」
「いってら。」
翔太君と二人で歩くと、翔太君への視線を何度か感じた。
「やっぱ、女の子が放っとかないね。」
「うん?」
「翔太君、女子の熱い視線、感じてるでしょ?」
「そっか?」
「ふ………無自覚かっ!」
「詩織ちゃん、このまま歩いて話すのかな?」
「うん。それでいいよ。」
「……美里ちゃんのこと?」
「うん。先ず……これから会うことがあっても変わらないであげてね。」
「うん。分かってる。そうするよ。」
「それから……あの子、モテるのよ。」
「うん。そうだろうね。」
「今回が初めて振られただけでね。今までそりゃあ……モテて来たのよ。」
「うん。そう思う。」
「モテるのよ。うちの美里はっ!
……今もね、実は居るのよ。」
「それ、拓海だろ。」
「違う! 会社の2歳下の子…。」
「そうなのか?」
「うん。いい子だと思うのよ。翔太君ほどじゃないけどイケメンだしね。
性格がいい。」
「会ったことあるから言えるんだよね。」
「うん。前にね。何度か会ったのよ。その子に……短時間だったけどね。」
「へぇ~っ。」
「……という訳で、罪悪感を感じて欲しくないのよね。
分かってくれるかな?」
「……ありがとう。」
「どういたしまして。
……あの……別れた彼女と上手くいったら拓海君を通して教えてね。」
「うん。伝えるから……。」
「上手くいくといいね。」
「ありがとう。……あのさ……。」
「何?」
「詩織ちゃん、なんで別れたの?」
「あ……知らないんだったけ?」
「聞いてないから、後学のために…。」
「簡単に言うと……嫌いになって無いし、好きだったけど、家庭の事情で…
お金がね。多額に必要になったの。
それで、私は結婚とかできないなぁ~って思って、別れて……って……。」
「家のため……。」
「うん。……だからね、はっきり理由を言えなかったんだ。」
「……そっか……。何年経った?」
「5年……。」
「戻りたい?」
「戻りたくっても戻れない……の。」
「どうして?」
「もう結婚して二児の父だよ。」
「…………そうだったんだ。」
「頑張ってよね。まだ彼女が結婚していないんだったら……
可能性はあるんだから……。
もう一度、『好きだ』って言えば? 気持ち、伝えれば?」
「うん。」
「美里は大丈夫だからさ。私も居るし……モテるからね。」
「……ありがとう。」
「じゃあ、戻るわ。
……もう会えないと思うから……元気でね。」
「ありがとう。詩織ちゃんも……。」
「ありがとう。じゃあ、バイバイ!」
「うん。」
後ろから翔太君の小さな声が聞こえた。
「バイバイ。」っていう声が………。
そして、部屋へ戻る前に拓海君の部屋を訪れた。
「どうした? 詩織ちゃん。」
「ごめんね。……あの…さ。」
「分かってるって……気にすんな。」
「……そっか……。」
「朝食後すぐにチャックアウトするから……。」
「うん。ありがとう。」
「あいつ……どうしてる?」
「一晩泣いたから、今は布団の中に居る。
多分、眠れなかったと思う。」
「だろうな。
……詩織ちゃん、あいつのこと頼む。」
「拓海君に言われなくても……。」
「そだな。」
「拓海君、頼まれましたから、安心して帰ってね。」
「ありがとう。」
「じゃあ、バイバイ。」
「バイバイ。……元気で居ろよな。」
「おうよ!」
「おい! レディーなんだろ。」
「はい。分かりましたわ。
では、ごめんあそばせ……これでどうよ。」
「プッ…それが……ありがとな。
元気でっ!」
「拓海君こそ、元気でっ!」
拓海君の手を振っていると、翔太君が戻ってきた姿を目にした。
二人に幸あれ!と心の中で祈った。




