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明日へ  作者: yukko
11/57

バイバイ

朝、美里はまだ寝ているようだ。

本当に寝ているのか、振りをしているのか…は分からない。

今のうちでないと翔太君に話せない。

美里を起こさないように、そっと部屋を出て、隣の部屋のドアをノックした。


「おはよう!」

「おはよう! 翔太君は?」

「翔太に用か?」

「あ……うん。ちょっとだけ……。」

「入る?……って駄目だよな。」

「うん? 気付いてくれてありがとう。」

「今から朝食に行くんだけど……一緒に行く?」

「ううん。別々で……。あのね、別行動しよう!って言いに来ただけなんだ。」

「そっか……分かった。でも、翔太には別の話もあるんだろ?」

「うん。」

「翔太ぁ~、詩織ちゃんが来てるぞ。」

「聞こえてるよ。

 詩織ちゃん、おはよう。」

「おはよう。ちょっとだけいいかな?」

「うん。 拓海…。」

「いってら。」


翔太君と二人で歩くと、翔太君への視線を何度か感じた。


「やっぱ、女の子が放っとかないね。」

「うん?」

「翔太君、女子の熱い視線、感じてるでしょ?」

「そっか?」

「ふ………無自覚かっ!」

「詩織ちゃん、このまま歩いて話すのかな?」

「うん。それでいいよ。」

「……美里ちゃんのこと?」

「うん。先ず……これから会うことがあっても変わらないであげてね。」

「うん。分かってる。そうするよ。」

「それから……あの子、モテるのよ。」

「うん。そうだろうね。」

「今回が初めて振られただけでね。今までそりゃあ……モテて来たのよ。」

「うん。そう思う。」

「モテるのよ。うちの美里はっ!

 ……今もね、実は居るのよ。」

「それ、拓海だろ。」

「違う! 会社の2歳下の子…。」

「そうなのか?」

「うん。いい子だと思うのよ。翔太君ほどじゃないけどイケメンだしね。

 性格がいい。」

「会ったことあるから言えるんだよね。」

「うん。前にね。何度か会ったのよ。その子に……短時間だったけどね。」

「へぇ~っ。」

「……という訳で、罪悪感を感じて欲しくないのよね。

 分かってくれるかな?」

「……ありがとう。」

「どういたしまして。

 ……あの……別れた彼女と上手くいったら拓海君を通して教えてね。」

「うん。伝えるから……。」

「上手くいくといいね。」

「ありがとう。……あのさ……。」

「何?」

「詩織ちゃん、なんで別れたの?」

「あ……知らないんだったけ?」

「聞いてないから、後学のために…。」

「簡単に言うと……嫌いになって無いし、好きだったけど、家庭の事情で…

 お金がね。多額に必要になったの。

 それで、私は結婚とかできないなぁ~って思って、別れて……って……。」

「家のため……。」

「うん。……だからね、はっきり理由を言えなかったんだ。」

「……そっか……。何年経った?」

「5年……。」

「戻りたい?」

「戻りたくっても戻れない……の。」

「どうして?」

「もう結婚して二児の父だよ。」

「…………そうだったんだ。」

「頑張ってよね。まだ彼女が結婚していないんだったら……

 可能性はあるんだから……。

 もう一度、『好きだ』って言えば? 気持ち、伝えれば?」

「うん。」

「美里は大丈夫だからさ。私も居るし……モテるからね。」

「……ありがとう。」

「じゃあ、戻るわ。

 ……もう会えないと思うから……元気でね。」

「ありがとう。詩織ちゃんも……。」

「ありがとう。じゃあ、バイバイ!」

「うん。」


後ろから翔太君の小さな声が聞こえた。

「バイバイ。」っていう声が………。

そして、部屋へ戻る前に拓海君の部屋を訪れた。


「どうした? 詩織ちゃん。」

「ごめんね。……あの…さ。」

「分かってるって……気にすんな。」

「……そっか……。」

「朝食後すぐにチャックアウトするから……。」

「うん。ありがとう。」

「あいつ……どうしてる?」

「一晩泣いたから、今は布団の中に居る。

 多分、眠れなかったと思う。」

「だろうな。

 ……詩織ちゃん、あいつのこと頼む。」

「拓海君に言われなくても……。」

「そだな。」

「拓海君、頼まれましたから、安心して帰ってね。」

「ありがとう。」

「じゃあ、バイバイ。」

「バイバイ。……元気で居ろよな。」

「おうよ!」

「おい! レディーなんだろ。」

「はい。分かりましたわ。

 では、ごめんあそばせ……これでどうよ。」

「プッ…それが……ありがとな。

 元気でっ!」

「拓海君こそ、元気でっ!」


拓海君の手を振っていると、翔太君が戻ってきた姿を目にした。

二人に幸あれ!と心の中で祈った。

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