詩織の心
泣いている美里を抱きしめている時に思った。
⦅あの日……私も誰かに抱きしめられたかった。
あの人に……好きなのに別れを告げなくちゃいけなくなった…あの日。
誰も……傍に居なかった…。
私は独りだった。⦆
美里を抱きしめながら私の頬を涙が伝わって落ちた……。
⦅お父さん、友達からだったから……断れなかったのよね。
でも……連帯保証人になって……その友達は逃げた。
3,000万円も借金………借金まみれになって……
お父さん……小さな町工場……手放して……。
少ない従業員へ出来るだけのことしたいって言って……。
お金渡して……。
お兄ちゃんは結婚して子どもが居るから助けを求められなくて…。
私しか居なかった。
結婚するために貯めてた貯金、下ろして……。
たった300万円だったけど……。
あの人に何も言わずに……『別れて…。』言って……。
何度も繰り返し言った……。
後悔した。
遅かったけど……1年後には……あの人他の人を選んだから……。⦆
美里の髪を撫でた。
「失恋は辛いよね。」と言って撫でた。
⦅そう、私は失恋したんだ。
あの人に選ばれなかったんだ。
何度も『別れたくない。』って言ってくれたけど……。
別れた後に『やっぱり、もう一度!』って言ってくれたけど……。
その1年後には……もう他の人を選んでた。
だから、ね。 美里………。
私も失恋したんだよ。
美里と同じだよ。⦆
「美里……お酒、飲もうか?」
「お酒?」
「うん。……雪、降ってないけど…。
雪見酒!……なぁ~んちゃって…。」
「雪見じゃないよ……。」
「じゃあ、星が綺麗だから……星見酒?」
「うん。星見酒……飲みたい。」
「開けるね。冷蔵庫の中のお酒!」
「うん。」
「詩織……。」
「うん?」
「私、良かったと思える日………来るのかな?」
「来るよ! そのために告ったんだから、さ。」
「そだね。」
「うん。」
翌日のチェックアウトが11時で良かったと思った私達だった。




