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33−2 提案

「自分で使いたい物を作っているだけなので、あまりそういったことには、興味がなくて」

「もったいない。この断裁機は料理人だけでなく、魔法を使えない料理をする者たちにも喜ばれますよ」


 ミンチ肉を作るのは確かに楽になるかもしれない。キャベツのみじん切りくらいは自分でできるだろうが。

 玲那がこのハンドチョッパーを作ったのは、ミキサーが必要だからだ。料理にも使えるが、本来は紙を作るためである。

 料理にも想定はしていたが、そこまで大事になるとは考えていない。


 しかし、そこに、魔法を使えない者たち、と出てくると、唸りそうになる。簡単に行える特別な力を持った人たちがいる限り、普通の人たちは別のことに時間が取られてしまうのだ。それをかなり省略できるならば、生産して使ってもらうのは良いことのようにも思える。

 登録して売る場所などはないので、作ってもどうするかということだが。


「登録すれば、都の料理人が許可を得に連絡してきますよ。王宮であれば、新しい便利な物を確認する者がいますからね」

「王宮で確認?」


 認可局は、登録すれば認可局すべてで情報が共有される。そのため、王宮も例外なく情報が届くので、良い商品があれば試作品を作ったりするそうだ。そのための使用許可が、認可局から届くと言う。


「ひえ。それはちょっと」

 異世界人、バレたくない。目立つ真似はできないというのに、そんなことで目立ちたくない。

 チャドとバイロンはそれでも食い付いてくる。なぜそこまで進めてくるのかわからないが、よほど気に入ってくれたようだ。


「登録料は、一千ドレですが、それだけの利益は、きっとありますよ!」

 お金が入るのは助かるが、異世界人と気付かれて牢屋に入れられる方が、確率が高い気がする。

 ブルリと震えて、その話は丁重にお断りした。ものすごく残念がられたが、ここはさっさと退散したい。


「またお越しください! なにかありましたら、ぜひ!!」


 玲那は逃げるように材木屋を飛び出した。これからまたなにか作ってもらった際に、あそこまでもてはやされたら、牢屋への道が近付く気がする。

「なんなら、処刑。ううっ。怖いようっ!」


 ハンドチョッパーの料金は、全額で三十五ドレだった。手織り機は特別加工してもらった木があったため、木材だけでも三十二ドレだったので、それくらいだろう。

 少しずつお金を使っている。権利分のお金が入るというのはありがたい話だが、登録というところが、どうしても警戒してしまう。


 朝、町に来る前に、ビッグスの母親のステラにコルセットを渡してきた。その時にステラが喜んでくれたのは良かったが、ビッグスにもコルセットを認可局に出さないのか聞かれたのだ。

 ビッグスの弟は職人で、認可局に登録費用を出せる店で働いているため、そこで認可を出してもらったらどうだと好意で言ってくれてはいたのだが、そこはお断りしておいた。

 それでも良い物ならば登録した方が良いと、再度言われたくらいである。まともな店ならば、それなりに利益がもらえるからだそうだ。


「お金がもらえたらいいけど、登録ってのが、無理だよ。無理。そうだ、エミリーさんたち、どうしてるかな」

 認可局で思い出した。彼女たちには一つ提案をしていたのだが、どうなっただろうか。

 帰りに樽などを買って帰ろうと思ったが、先にエミリーの家に行こうと、踵を返す。エミリーの家は、もっと城側だ。








「レナさん! いらっしゃい!」

 三階の部屋に行くと、出てきたのはエリックだ。笑顔で迎えてくれ、部屋に入るように促してくる。

 やけに顔色がいい。元気そうな姿が、良いことがあったのだと言っているようだった。


「姉さん、レナさんだよ」

 エミリーは真剣な顔で机に向かい、何かを縫っている。太目の針で皮を繋げているようだった。

 声が聞こえていないか、振り向くことはない。そこまで遠くないのに、気配にも気付かないようだ。


「ごめんなさい。今、集中していて、聞こえてないや。姉さんがああなると邪魔できないんで。僕からお礼を」

「それじゃ、うまくいきましたか」

「いきました! すごいですよ。あんな方法! でもまさか、あんな方法で予約をしに来てくれるとは、思いもしなくて」

 エリックは相当嬉しいのか、玲那の両手を握り、ぶんぶん振った。


「どうやってあんな方法思い付いたんですか!? 僕もまさか、成功するなんて思いもしなくて」

 それは玲那も同じだった。軽く考えていただけで、成功するとは言わないし、そういった方法は目立たないのかという提案をしただけである。


「結局、どうやったんですか?」

「言われた通りやったんです。人形のような形を作り、それにカバンを持たせて、なんでも作りますっていう看板をぶら下げただけ。それをあちこちの木や壁に立てました。特に、貴族地区の近くや、商人の多い住宅街に。今予約をいただいているのは、商人の方と、貴族の方です。お二人とも、単身遠出する方でした」


「カバン、盗まれたりしなかったですか?」

「盗まれなかったんです。置き場が良かったんでしょう。今まで作ったカバンは作れませんが、一点ものを作るならば、認可局に登録も必要ないです。そこはちゃんと調べてきましたからね! その代わり、急いで作らなきゃいけないんで、姉さんがあんな状態ですが」


 エミリーはまだこちらに気付いていない。邪魔してはなんなので、早めにお暇することにした。成功していれば、それで良かった。


「本当に、ありがとうございました。落ち着いたら必ずお礼に行きます」

「お気になさらず。これからもうまくいくといいですね」

「はい! ありがとうございます!!」


 エリックに外まで見送ってもらって、家を後にした。

 簡単な助言を物にするのだから、彼女たちの仕事が良かったのだろう。あんなに喜んでもらえて、こちらも嬉しい。


 玲那が提案したのは、広告を出すことだった。


 道に座り込んで売ることが黙認されるのならば、木や壁に広告を載せても文句は言われないと思ったのだ。そこに人がいなければ、蹴られることもない。

 かかしのようなものでいいので、人に見立てた何かを作り、そこにカバンを持たせる、立体広告だ。つまり、マネキン人形である。


 治安が悪い場所では、飾ったカバンが盗まれてしまうかと思ったが、貴族地区や商人の多い住宅街であればそこまで治安は悪くないようで、盗みは起きなかったようだ。

 いくつかマネキン人形を作り、カバンを持たせ、看板も飾ったのだろう。それに興味を持った人が、エミリーたちの部屋に訪れる。家に訪れるということは、ハードルが上がるので難しいかと思ったが、予想外に二人もお客が来たのだ。それは、エミリーたちの商品が、それに値する良い物だったということである。


「こっちって、店の前には看板あるけど、その他にないもんね」

 日本なんて、あちこちに看板があって、場所によっては目が痛いほどなのに。

 そうであれば、かなり目立つことだろう。そう思って提案したのが、成功してなによりだ。


「さて、買い物して、おうち帰って、紙作りを始めるぞ!」

 意気揚々と玲那は家に帰る。

 目立つことはしない。そんな誓いはこの日をもって終わったことを、その時の玲那は知る吉もなかった。

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