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16−2 お礼

 夢が広がりすぎて、収拾がつかない。夢すぎて現実味もない。だが、大きな桶でも良いので、風呂用が欲しい。半身浴くらいできる、大きな桶が売っているだろうか。それを買って、ここまで持ってこられるだろうか。

 夢を見ながら独り言を続けていると、やっと最後の繊維に辿り着いた。


「糸の太さ、どうしよ。かぎ編みしたいから太くてもいいんだけど、肌に付けるなら、もっと細くないとな」

 目標は下着である。下着。これは織って作りたい。針は、リトリトの針がある。金属ではないので、糸を入れる穴も開けられるだろう。ナイフで切り身を入れればいい。


「太めの髪の毛だな。剛毛。でも、これだけ細ければ十分。よし、次は、繋ぐぞー!」

 これから糸を紡ぐ処理が待っている。これさえ終われば、糸にかなり近付く。

 ただし、道は遠い。一本一本紡いで、繋げるのだから。昔の人、偉すぎる!


 二本を指にとって、長さを合わせ、捻り繋げる。肌触りは悪くない。一本、一本、地道に繋げる。地道に、地道に。

 静かな家の中で、糸を紡ぐという、微かな音しかしない、終わりの見えない作業をしていると、自然と音が耳に入ってくる。


 木々が風に揺れる音。鳥が鳴く声。森の茂みをカサカサと動く音。鳥が動いているのか、他に動物がいるのか。鳥の種類は家から見ても多く感じる。群れで移動する、スズメのような小さな鳥から、つがいでいる、鳩のような少し大きめな鳥。木の上の方には、カラスのような、大きめの鳥が留まっている。その他にもちらほら。鳴き声は多様。怪獣のような鳴き声の鳥もいて、時折驚く。


 討伐隊騎士から逃げてきたガロガは、森から戻ってきた時にはいなくなっていた。誰かが取りに来たのだろう。すぐにいなくなっていたので、オレードの魔法の鳥は乗り手に届いたようだ。

 ガロガが食べてしまった野菜の畝は、一列空いている。仕方がないので、倉庫にある芋を植えた。もったいないが、種芋として使用し、増やすのである。


 野菜の使用量も確認し、一年でどれくらい作ればいいのか考えなければならない。メモ用紙がないので、木に傷をつけて、数を数えている。大体の計算で作る量を測りたい。月の数え方が同じならば、年数も同じだといいのだが。


「フェルナンさんは、一月って言っただけだからなあ。共通語だとしても、一月が何日なのか。月によって何日とか変わるのか、わかんないし」

 何ヶ月で一年になるのかもわからない。一年という単位があっても、それが十二とは限らないのだ。

 しかし、そんな常識を、どう問えばいいのか。迷う。


 日の光があって、大地があるのだから、どこかの惑星だと考えていいのだろう。ちなみに、星はある。ならば、一年の周期はあるはずだ。多分。微妙な違いはあるにせよ。そういった常識は同じでいてほしい。理解に苦しむので。


「異世界人に馴染みがあるとか、地球で宇宙人よく来るんだよね。みたいなのと同義かな」

 ぶつくさ言いながら糸を紡いでいると、道を闊歩する音が聞こえてきた。ガロガの鳴き声もする。


 珍しい。前の道を通っている人がいるようだ。ここに来てからずっと、誰かが道を通ったのを見たことはない。ほとんど家を外にしているので、一人や二人通っているかもしれないが、玲那が見るのは初めてだった。

 もう夕方を過ぎて、空は暗くなっているのに。


 窓からその姿を見遣ると、幌のない馬車をガロガが引っ張っている。そうして、なぜかオレードが馬にまたがって、一緒についてきていた。


「レナちゃーん、いるかなー」

 やってきたオレードは、扉を開けると笑顔で玄関前に立った。後ろでリアカーのような馬車から木箱を下ろす男がいる。


「どうしたんですか。なにか、」

 あったのだろうか。問う前に、オレードは口端を上げて、中に入っていいか聞いてくる。頷けば、男が木箱をどさどさと玄関前に置いた。


「食料を貯蔵する倉庫はある?」

「倉庫は地下にありますけど」

「これね、レナちゃんにお礼」

「お礼ですか? なんの?」

 むしろ、お礼をするのはこちらなのだが。首を傾げると、オレードは小さく笑う。


「ガロガの件だよ」

 ガロガの件とは、見付けたことのお礼だと言うのか。それにしても、野菜の入った木箱やら、なんだかわからない木箱が運ばれてくる。何箱もだ。


「こんなにいただけません! なにもしてないのに」

「いいから、いいから。運ばせるね」

「え、ちょ、オレードさん!」

「もらっておきなよ。見付けたのは、君なんだからね」


 オレードは有無を言わせず、木箱を地下倉庫に運ばせる。二箱だけ残り、それは倉庫に入れるものではないと、その場に置いたままにする。


「気にしないでいいからね。これは、正当な謝礼だから」

 そんなものなのだろうか。中身も見ずに地下倉庫に入れられたので、なにがどれだけ入っているかもわからない。とにかく礼を言うしかないが、そのガロガの主がいない。


「あの、じゃあ、せっかくなのでいただきます。ガロガの持ち主さんに、お礼を伝えたいのですが」

「僕が伝えておくよ。それじゃ、こんな時間にごめんねえ」

「いえ、とんでもないです。わざわざありがとうございます!」


 オレードは、颯爽とやってきて、さっさと帰ってしまった。残ったのは、目の前の木箱と、地下倉庫の木箱たち。

 こんなにもらって、良いのだろうか。

 一箱は野菜が飛び出していたが、それ以外、なにが入っているやら。

 目の前の木箱を開けると、玲那はあんぐり口を開けた。


「嘘。え、これ、本当にもらっていいの?」

 これは、オレードがくれたのではないだろうか。

 木箱に入っていたのは、糸を巻くための道具だ。昔話で見るような、タイヤの枠のような円盤に、糸を巻くものである。

 他にも、糸を作るのに使う道具だろう。いくつかの棒や、コマのような物などが入っていた。


「これ、絶対、オレードさんがくれたんだ。野菜とかは馬主かもだけど」

 もしかしたら、野菜すらもオレードがくれたのかもしれない。謝礼はいらないと言ったため、代わりに彼が謝礼分をくれたのではないだろうか。ガロガを売ればいい金になると、フェルナンも言っていたのだから。


「うわー、どうしよう! いい人すぎる!」

 なんと礼をすればいいのだろう。

 一人で自給自足しているのが気になったのかもしれないが、ここまでしてもらうと、さすがに申し訳ない。


 正当な謝礼、と強調したからには、礼などいらないと言うことなのだろうが。

 それでも、礼はしなければ。

 貴族であろう、オレードにどう礼をすればいいのか。

 玲那は途方に暮れながらも、ありがたく道具を使わせてもらうことにした。

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