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76−2 帰宅

「なんですか。教えてくださいよ!」

「まあ、まあ。そのうちなんとかなるだろう。お前はなんというか、色々、うん、そうだな。もう少しなんと言うか」


 そうしてごにょごにょ言って、なんとかするにはちゃんと相手をするんだぞ。と玲那を肩を叩いて曖昧にして終わらせた。意味がわからない。

 ついでに、もう少し大人になれよ。と言われた。どういう関係があるのか。問いたい。

 玲那は本来ならばもう少しで十八歳。選挙権を得る年である。


「大人ですよ。私は。大人ですから!」

「わかった。わかった。手を進めてくれ」

 適当にあしらわれて、玲那は顔を膨らませた。


 時間があればなにかが解決してくれるのだろうか。ため息しか出ない。家に帰ることができても、今までと同じでいられないのはつらい。お礼に料理を振る舞うこともできなくなるだろう。治療してもらったお礼もできていないのに。


「そういえば、さっきオクタヴィアン様も神妙な顔をしていたな」

オクタヴィアン様、私の顔見て、お前は気楽でいいよな。って言って去っていきましたよ。すんごい失礼なんですけど」

「なにかあったんだろうな。グロージャン家の当主も来ていたようだから」


 ぼんやり顔を思い出して、玲那は目をくるりと一周回す。オレードの父親、それとは別にもう一人、似た顔の男性がいた。考えて、まさかな。と打ち消す。

 聖女の元護衛騎士が、オクタヴィアンに会う理由って、なんだろ。

 首は突っ込むまい。色々突っ込みすぎて、墓穴を掘っている気がする。


「今日はー、荷物をまとめてー、帰る用意ー」

「帰れるといいなあ」

「不吉なこと言わないでくださいよ!」


 アシュトンの手紙に返事は返さなくていいよな? とふと思う。いいよね?

 気になるのは、ローディアだった。

 無事ではあるようだが、インテラル領には一緒に戻らないらしい。

 誰に狙われているのか知らないが、急襲には気づいていたのだろうし、思い当たる者がいるのだろう。とはいえ、年に一度の大切なイベントを狙われたので、影響はあるに違いない。


 なにはともあれ、明日には帰るのだから、これ以上関わらない方向でいきたい。色々目をつぶって帰ることだけを念頭にしておこう。再び関わることはないと祈りたい。








 早朝、玲那はいそいそと荷物を持って外に出た。何事もなく、邪魔もなく、帰れると思うと、鼻歌混じりである。

「玲那ちゃん、おはよう」

「オレードさん! おはようございます。一緒に帰れるんですね」

 屋敷にいる間はほとんど会えなかったので、とても久しぶりに会うような気がする。狩りについていったあの日は遠い昔のようだ。


 領に戻る者たちはガロガを連れて、出発準備は万端だ。そういえば、行きはフェルナンのガロガに乗せもらって来たのだった。フェルナンはどうしているだろう。朝食でも顔を合わせなかった。これから帰るのだし、気まずいままではいたくない。


「あ、フェルナンさ」

 ガロガを連れて歩くフェルナンを見つけて、声をかけようとしたら、あからさまに横を向かれた。

 この、手を振ろうとして上げた右手を、どうしてくれよう。さすがにショックすぎて、萎えた気持ちと一緒に手を下ろす。


 ぷいって。ぷいって顔を背けたよ。

 聖女の話は理解しても、やはり異世界人だと気づけば、目を合わせるのも嫌なのか。少しの間は顔を合わせづらいとは思っていたが、それくらいでは済まないのかもしれない。

 思った以上に、心に刺すものがある。


「ぷ。」

 ガロガを横にして、突然オレードが口元を押さえた。

「ぷ?」

「レナちゃん、帰りは僕のガロガに乗らない? こちらに来ている間、ほとんど会えなかったからね」

「うう。お願いします」


 フェルナンはきっと玲那を乗せて帰りたくはないだろう。しばらく声をかけたりしない方がいいのだろうと思いながらも、こう何度も無視されると、考えていた以上に胸が苦しくなる。よろよろとオレードのガロガに近づいて、ガロガに乗せてくださいと挨拶してから、引っ張ってもらってガロガの背中におさまる。


「ぷ、く、ゲホン」

 オレードの前に乗ったが、後ろから咳払いが届いた。体調悪いのだろうか。

「風邪ですか? 私乗って大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。ごめんね。少し喉が。ゴホ。やっと帰れるね。良かったよ。家のことも心配だっただろうから」

「はい……」

「そんな睨まなくても」

「え? 睨んでないですよ。早く帰りたいですね!」

「あ、うん。そうだね。ぷ。ゴホン。さ、さっさと帰ろう」


 オレードがガロガの手綱を操り、オクタヴィアンが出発したところでガロガの腹を蹴る。屋敷を後ろにして、ゆっくりとガロガが歩き出した。

 もう来ることはないと思いたい。家に帰って、再び作業三昧の日々に戻れると思うと安堵しつつ、前のように接することはできないのだな。と考えると、途端に気持ちが沈んでいく。


 どうしよう。もうずっとこのまま、顔すら合わせてもらえなかったら。そんな簡単に異世界人へのわだかまりなど解けることはないのかもしれない。

 やっと帰れることになって嬉しいのに、心が曇っていくのを感じた。








「はー。我が家ー! ただいま、我が家! おかえり、私ー!」

 やっと着いた我が家に、玲那は疲労のまま全ての窓を開けて空気を入れ替えた。

 城にたどり着いた後、オレードが家まで送ってくれて助かった。また家まで歩くと思うと億劫だったのだ。オレードにまたお礼をしなければならない。


 帰り際、オレードはフェルナンの様子について口にした。

「大したことじゃないから、気にしなくていいよ」


 清々しい笑顔で言われて、少しだけ肩の力が抜けた。オレードの言う通り、大したことではなく、玲那を避けているのならば良いのだが。

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