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75−2 会合

 インテラル領でフェルナンが調べた薬の成分から、極度の興奮状態となり、凶暴性を増す影響が示された。少量を長期間。それによって少しずつ性格に変化が起きる。これはオクタヴィアンの父親の症状だ。変化は緩やかで、薬の効果はなだらかである。

 それと違い、一気に多量を摂取した場合、どうなるのか。


「我々は同じ薬が使われていたのではないかと疑っていたが、ヴェーラーも同じことを考えていたのだろう。ヴェーラーがエルランドを調査した結果を、秘密裏に手に入れた。エルランドが怪しげな薬に侵されていた可能性がある。薬を短期間で多量に摂取したため、興奮状態が続き、異常な凶暴性を持ち、他者への攻撃を行なった。症状は似通っている」

 オクタヴィアンの父親は長期、少量を継続摂取。エルランドは短期、多量摂取。その違いはあるにしても、成分は同じだろう。


 ヴェーラーはエルランドが狂った理由は魅了のせいではないと考えていた。どうしてその考えに至ったのかはわからないが、ヴェーラーはローディアにインテラル領領主の事件を調べさせた。それがローディアがインテラル領に訪れた理由だ。神官の犯行により、薬の効果がエルランドの症状と同じであると気づき、ローディアを向かわせたのだろう。

 堂々とローディアが動いたのだ。犯人たちは不安になったはずだ。田舎の領地で起きた事件に、ヴェーラーの手下が動いたのだから。


「犯人の目処はついているのでしょうか?」

 オクタヴィアンは拳を握りしめた。父親を狂わせた犯人はまだ隠れたまま。捕らえた神官だけでは薬の出所はわからなかった。やっと光明が差したと思っているかもしれない。だが、薬の出所はまだわかっていない。

 オクタヴィアンは肩の力を抜いた。今はただ、エルランドに使用された薬と、オクタヴィアンの父親に使用された薬が同じであるとわかっただけだ。


「その薬の出所は神殿と考えていますが、確かな証拠はありません。ローディアがその始末をつけにインテラル領へ訪れたと考えていましたが、ヴェーラーによりエルランドの治療が続けられていることを鑑みるに、ローディアはヴェーラーの意思を継いでいることでしょう。現在、エルランドの治療は間違いなくローディアが行っています」

「ローディアは敵ではない。ヴェーラーもまた同じ。今回の犯行により、その背後を確認できると思ったが、生き残りがいない。おそらく犯人はその怪しげな団体だと考えているが、背後が調べきれていない。数人の貴族は確認しているが、大したことのないやつらだ。それらがどこと繋がっているかが、わかっていない」


 手詰まりであることにオクタヴィアンは歯噛みした。考えていることはあるが、ドーグラスはまだ迷っている。その原因がフェルナンであることはわかっていた。

 ローディアと組むか。しかし、ヴェーラーやローディアと組むことにより、フェルナンの素性が気づかれるだろう。その時に、ローディアがどう動くのかが想像できていなかった。

 もしも、もしも犯人の背後にいるのが、ドーグラスの考えている者だとしたら。


「アシュトン王子がローディアを警戒しているのは、そのせいでしょうか」

 オクタヴィアンはアシュトンの執拗なレナへの関与を口にする。

 ローディアが気にしているレナを、アシュトンが気にする理由。

 レナについて、なぜローディアが構うのか、それらは誰にもわかっていない。アシュトンもわかっていないはずだ。


 フェルナンは口をつぐむ。

 ローディアがレナに付きまとう理由が想像できる。なにかしらの理由から、レナが何者なのか疑問を持ったのだろう。

 聖女の指輪の文字が読める存在。ただわからないのは、聖女さんの世界、と言っていたことだ。同じ世界の人間だから読めたのではないのか? わざと言ったようには思えなかった。レナが誤魔化して口にしていたようにも思えない。

 レナが何者なのか。予言のされていない異世界人。それとも、またなにか別の存在なのか、フェルナンにもわからなかった。


「理由はわからない。ローディアがなにを考えてその娘を追い回しているかは」

 ドーグラスの声に、フェルナンははっと我に帰る。レナについては、今気にすることではない。


「アシュトン王子がローディアを警戒しているのは、エルランドを治療しているという理由だけだと考えている。王に命令されていたとしても、あそこまであからさまに煽るような男ではないだろう。自身の次の継承者としてエルランドを治療する者を警戒しているだけに思う。エルランドが正気になれば、現王の立場が曖昧になるからな。とはいえ、大した問題ではないが、アシュトンからすればエルランドの後ろ盾にローディアが入るのは避けたいのだろう」

「では、アシュトン王子も関わりはないと」

「おそらく」

「今後も、その薬について調べるしか手はないと言うことですね。では、」

 オクタヴィアンがフェルナンを正視して言葉を止めた。


「もしも、エリオット王が犯人の場合、表沙汰にすれば、アシュトン王子の継承権が揺らぐことになります」

「引き摺り落とす予定はない」

 ドーグラスの言葉に、オクタヴィアンは一瞬肩を下ろした、しかし、すぐにドーグラスが続ける。

「今のところは」


 その言葉を聞いて、フェルナンはドーグラスを見るのをやめた。顔を背けたことにマウリッツがフェルナンへ視線をよこしたように見えたが、それも無視した。

 今後もそんなつもりはない。自分がそう思っていても、周囲が騒げば話が変わる。


 それがわかっているから、早くインテラル領に帰りたかった。ドーグラスがどう考えていようが、王族がどう荒れようが、どうでもいい。

 今はただ、早くこの土地から離れ、普段の生活に戻りたいだけなのだと。

 森を走り、魔物を狩って、気ままに生きて、時折、レナの家で食事をして。


 レナが何者なのか、それを明らかにするべきなのか。そう思って、必要のないことだと、頭の中でかぶりを振った。

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