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73 手伝い

 なにが起きたのか。

 玲那は腰を押さえて立ち上がる。


「天井が、崩れて」

 ぽっかりと穴が空いて、空が見上げられる。薄曇りで、今にも雨が降りそうだった。

「怪我人の治療を」

 ローディアは焦る様子もなく指示をする。


 痛む体を押さえながら、玲那はよろめきながら立ち上がる。

 どうして、こんなことに。










「はあ、なんでこんなとこいんだろー」

 玲那はドレス姿のまま、人々の並びを眺めながら建物に入るよう促した。


「どうぞー、並んでくださーい。押さないでー」

 どこかのイベントのスタッフにでもなった気分だ。建物の前には人がごった返し、みなが我先にと建物に入ろうとする。それを押しやって、片方だけ開けた扉に入れていく。

「順番守ってくださーい!」


 大声で人の流れを確認し、割り込もうとする者に並べとお願いする。まっすぐ並んでくれよ。と思いながら、ドレス姿のまま押して、中の様子を確かめる。人が多くなりすぎて、中でおしくらまんじゅうが始まってしまう。そうならないように外で誘導しろと命令したローディアは、建物の奥の雛壇の上で玲那に気づくと、にこりと微笑んだ。

 にこー。じゃないのよ。にこー。じゃ。


 なぜ玲那が、イベントスタッフの真似をしているか。事の発端はローディアの訪問だ。

 あの日、書庫での出来事の後、ドレスがまともなものになった。メイドが別の人になって、水風呂もお湯のお風呂に代わり、快適さが増した。アシュトンの嫌がらせではなく、メイドの嫌がらせだったようだが、特に本人からなにを言われるでもないので、内心びびっている。


 それでも包丁は届かず、暇な時間を過ごしていた。再び部屋でぼんやりのんびり、暇でごろごろしていた時、やってきたローディア。

 この部屋に訪れたお客は、ローディアが初めてなのだが。


「暇でしたら、お手伝いいただけますか?」

 お手伝い。ってなんだ?

 ローディアが玲那の部屋に来たら、またよくわからない疑いを深めるだけではないか。

 顔でそう言ったつもりだったが、ローディアは知らぬふりをして、微笑んだ。ローディアは、どうしても玲那を巻き込みたいようだ。


「外、出て大丈夫なんですか? 私、大丈夫??」

「私と一緒なのですから、気にされないでしょう」

 その方が大丈夫じゃないよ!

 訪問してきていいなら、オクタヴィアン様来てよ。おうち一緒に帰ろうよ。


 部屋から勝手に抜け出していいのか。そればかりを考えていたが、ローディアの用は城の外だった。ガロガ車に乗って、問題なく城からも出ることに成功してしまった。泳がされているだけかもしれない。そうとしか思えない。


「アシュトン殿下となにを喧嘩してるんですか?」

「喧嘩、ですか?」

「じゃあ、なにか張り合ってるんですか?」

「私は張り合ってなどいませんよ」


 答えは同じ。特になにかあるわけではない。一方的に向こうからちょっかいをかけてきているだけだと言わんばかり。

 アシュトンが眼中にないのならば、玲那を構わないでほしいのだが。


「私をおうちに帰してくださいよ」

「それを、私に言われましても」

 ほう、と困った風にため息をついてくる。わざとらしくて、憎たらしい。


 アシュトンをただ煽りたいだけなのではなかろうか。そんな気もしてきた。とはいえ、玲那がいるだけで煽れる要素はないので、アシュトンはローディアの行うことになにかしらの不満か疑問があるのだろう。

 カタコトと揺れるガロガ車の中で、玲那はため息しかつけない。


 早くお家に帰って、お風呂に入って、のんびり温泉気分を楽しみたい。窓を開けて雪見風呂。雪はまだ積もっているだろうか。こちらは春間近で、時折暖かくも感じる。最初にこちらに来た日よりも温度は上がっていた。


「殿下は、あなたになにがあるのかと思っているのでしょうね」

 うとうとしてきた頃、ローディアが微笑みながら言った。

 やっぱり煽ってるんじゃないか。


「巻き込まないでくださいよ」

「さて、そろそろ着きますよ」

 人の言葉を無視し、ローディアは立ち上がる。


 たどり着いたのは街中。高台にある広場を前にして、大きな建物がぽつんと立っている。その前に停まったが、驚いたのは、その広場に多くの人々が集まっていたことだ。

 ガロガ車の扉が開かれると、わあっ、と歓声が轟いた。

 何事?


「ローディア様! ローディア様!」

 人々がローディアの名前を連呼する。若い女性は悲鳴のような声を上げた。女性だけでなく男性、老人や子供もいて、ローディアの名前や神官を連呼した。

 なんか、アイドルみたい。


「手とか振らないんですか?」

「なぜ、手を振るんですか?」

「人気者っぽいので」

「ああ、あなたでしたら、浮かれて手を振りそうですね」


 にっこり笑顔で嫌味を言わないでほしい。

 アイドル並みに声が届くので、応えた方がいいんじゃないかと思っただけなのに。

 ローディアの後ろを歩いてついていくだけで、若い女性が、あのドレスの女なによ! と叫ぶのが聞こえてくるのだ。やっぱり、アイドルじゃないか。


「それで、なにをすればいいんですか?」

 玲那の問いに、ローディアは含んだ微笑みを見せた。


 からの、これである。


「う、押さないで。ちゃんと並んでください!」

 ドレスで行うことじゃないと思うのだが。まさか、こんな手伝いのために呼ぶとは。

 建物は講堂のようになった広間のある建物で、ローブを着た者たちが集まっている。神官や神殿の者たちが集まっているので、人々を治療するのだろう。

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