表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/195

72−2 護衛騎士

「フェルナン? 大丈夫か? やはり体調が悪いんじゃないか?」

「……いえ、大丈夫です」


 マウリッツの声にハッとして、フェルナンは額を押さえた。眠ろうとすると、夢を見るため、ここ最近よく眠れていない。うつらうつらとしても、すぐ目が覚めてしまう。


 目を瞑ると、あの時のレナの顔を思い出してしまうからだ。

 聖女の指輪を持っている。それを知って、レナはなにを思っただろうか。

 討伐隊騎士の話を気にしていなくとも、聖女の子供だとわかった今では、きっと話は違う。


 やはり、捨てておけばよかったのではないか。今更ながらそんなことを思う。こんなもの。どうしてずっと、持っていなければならないのか。

 服の上から指輪を握る。


 指輪に記されていたのが名前だとは思わなかった。ヴィルフェルミーナ。自分の名前を記した指輪を、生まれたばかりの子供に託すなど、その存在を忘れてほしくないとでも言わんばかりだ。なおさら、気分が悪い。

 指輪の文字を読めたレナが何者なのか、考えたくもなかった。


「予言もなされていないのに」

 小さなつぶやきは、ノックの音でかき消えた。








「フェルナン。レナちゃんはまだ屋敷に戻っていないんだって?」

 やって来たのはオレードだ。オクタヴィアンの屋敷に出入りしていなかったため、今頃話を聞いたと、眉を吊り上げている。


「オレード、なにかあったのか? 噂の少女の話だろう?」

「城で王子に目を付けられたらしく、城から出てこられないそうです。ローディアからも目を付けられているようなので、そのせいでしょうが」

「どうしてまたローディアに目を付けられるんだ? インテラル領でなにかしたのか?」

「ローディアがレナちゃんを気にしているのは聞いていたんですが、その理由までは」


 オレードはレナがローディアに城へ呼ばれたこと、狩りや晩餐会で起きた話をマウリッツ話す。晩餐会の話はフェルナンも耳にしていた。料理を気に入った王子が褒美をやると言って、そのままレナを留置していると。オクタヴィアンがそこに割って入る理由はなく、ひとまずはレナを置いて屋敷に戻ったが、その後もレナが戻る様子はない。


 オクタヴィアンと共に城に行ったが、レナどころか王子にも会えなかった。レナの情報を持っている者が誰なのかわからない。オクタヴィアンはそれとなく探らせていたが、城の中では関わる者も少ない。オクタヴィアンでは情報を得られなかった。

 だからグロージャン家に知らせを出したのだろう。オレードに知らせ、グロージャン家の力を借りるしかないと。


「フェルナン。なにか知らないのかい?」

「知らない」


 ローディアがどうしてレナを? それは自分が聞きたい事だった。

 ローディアは、結界を壊してまでレナの家に勝手に入り込んだ。その理由は曖昧で、レナはよくわからないと言っていた。


 こちらの屋敷にローディアが来ることはなかったのに、ローディアの使いが来てレナを城へ連れて行った。

 王子が屋敷に訪れ、レナが晩餐会で料理を作ることになったのは聞いたが、なぜローディアがレナを城へ連れて行ったかわからない。オクタヴィアンが言うには、おかしなところがあると思われている。とのことだが。


 まさか、異世界人だと思われているのではないだろうか。

 神殿で、異世界人が現れる兆候でもあったのか?


「ローディア・ヴェランデルか。アシュトン王子と反りが合わないとは耳にしたな」

 マウリッツがこの屋敷にいて、どうやって城の情報を得ているか。古い知り合いはまだいて、それらから聞いているのだろう。マウリッツは顎髭をなでながら、元王の治療について話し出した。


 ヴェーラーが治療にあたったが、回復することはなく、意識のないまま塔に閉じ込められた、元王エルランド。やっと目が覚めたが、正気を失ったまま。治療の甲斐はない。けれどその治療を、ローディアが引き継いだ。

 もしも、エルランドの治療がうまくいき、正気を取り戻すことになれば、


「危機を感じるのならば、現王のエリオットではないですか?」

 オレードが疑問だと首を傾げる。兄である元王がまともに戻ったならば、現王エリオットだけでなく、他の貴族も混乱するだろう。倒れて王を辞した元王のエルランドからすれば、勝手に王を辞されたことになる。狂ったことが聖女の魅了のせいだとすれば、エルランドの愚行が緩和されるからだ。


「多くの者たちを殺した罪は重いだろうが、すべて聖女のせいだと言われれば、他の貴族たちははっきり反論することはできないだろうな。昔の、エルランドを知っている者たちからすれば、なおさら」

 マウリッツはエルランドをよく知っていると、複雑な笑みを見せる。


 聡明で魔法の力もあり、ローディアのように神官になれるほどだった。はつらつとして、王太子らしくはっきりと意見を言うような男。

「気になるのは、あまりに忖度しないところだったな。はっきりしすぎて、敵が多かったと言うか」


 エルランドの話といえば、王殺し、聖女に惑わされた愚かな王子。そればかりで、性格などが噂になったことはない。国が傾きかけた事の方が重大だからだ。良かったところがあったとしても、掻き消えるほどの悪政。その男が今更目覚めたところで、王に推進する者などいないだろうに。貴族が推したとしても、民は納得しない。苦しんだのは貴族よりも民なのだから。


 魅了した聖女。それにまんまとかかり狂った王。どちらも多くの国民から恨まれて、異世界人全てが悪となる今日に、エルランドがまともになって戻って来たところで、誰も歓迎しない。

 それでも、ローディアがエルランドを治療していることを、アシュトンは警戒しているのか。おかしな話だ。

 オレードも、治療くらいで二人の仲が悪いと言うのはおかしくないか? と問うた。マウリッツもそれくらいしか情報はないのだと、肩を竦める。


「若き天才をうらやんでいるのか、その辺りはわからないな。ローディアは王族の血筋。アシュトン王子がうらやむとは思わないが、良い気分ではないのは確かだな。二人は年が同じくらいだし。ローディアが大神官に上がれば、王族に口を出すことも可能だろう。大神官はヴェーラーの窓口のようなものだ。なまじ、神官は王族より民に人気があるからな」

 それも聖女のせい。王族よりも、金を出せば治療をしてくれる神官の方が、よほど役に立つ。ローディアに至っては、神官を連れて町での治療を行う真似をしていたそうだ。


「ローディアが平民に対してそういった真似をするのは、どうにも想像しがたいですがね」

「ローディア自身が行うわけではないからな。号令を出して、神官にやらせるといった感じか。おそらくヴェーラーの命令ではないか? 今のヴェーラーはローディアと違って民に厚い。……まあ、予言のこともあるからだろうが」


 ヴェーラーが異世界人を予言した。その結果が国を揺るがした。その引け目でもあるのか。

 マウリッツはなんとも言えないような顔をして、そう告げる。マウリッツは聖女が悪であることを口にしたくないのだ。ヴェーラーの行動も鼻持ちならない行為なのだろう。

 そんなことを不機嫌に思う者など、数えるしかいないのに。


 そんなことはどうでも良かった。聖女とエルランドは無実だと言っても、誰も信じないどころか、怒るのが目に見える。フェルナン自体。まだ信じていない。本当に、男たちを手玉に取り、高価なものをせびっていたのではないのか? たとえ他の要因で周囲が狂っても、貢物が相当にあったことは事実だ。


 そう考えて、フェルナンは頭を振る。

 今はレナがどうして連れて行かれたのかの方が問題だ。


 レナまで関わらせるほど、ローディアとアシュトンの間に、なにがあると言うのだろう。

 贖罪のために民に施す。それをローディアが継いでいる。民から見ればローディアの先導に見える。王族からすれば良い気分ではないのか? ローディアの血筋を考えれば、王族が勧めても良いような話なのに。

 それをローディアが行なっているのが気に食わないのか?


「ローディアの行動が、王子の足元を揺るがすほどとは思えないんだがな。民からローディアを王にしろと言われるわけではないだろうに。貴族からしてもローディアは第三継承者だ」

 やはり、アシュトンがローディアを敵視する理由はわからない。それに巻き込まれたレナについても、そこまでする必要性が見出せなかった。


 その時だった。頭の中で、別の視界が遮った。

 誰かが叫んでいる。天井が落下した。それから、


「――――レナ!?」


 リリックが、攻撃体勢をとったのがわかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ