70−3 拘束
ローディアは敬遠な信者ではないのだろうか。ヴェーラーに対して否定的な言葉に思える。
予言ができなければ価値がない。異世界人出現の予言がそれほどのものとは思えないのだが。
ヴェーラーであれば予言はできなければならない。言い換えれば、玲那が異世界人と疑っていて、それに対してヴェーラーが予言できていないと言っているならば、問いかけはヴェーラーにではなく玲那にということかもしれない。
疑ってるなあ。でも証拠なんて一生出ないよ。使徒が現れない限り。もしくは、使徒の呪いの出生に関する質問がうやむやにならない限り。
そもそも、使徒のミスなのに、なぜ予言できるのだろうか。聞いたことがなかった。
そして玲那は予言されていない。玲那は他の異世界人と違い、別の体を持ってここにいる。
自分自身でこの世界に現れたという違いのせいだろうか。
「そこまで重要なことなんですか? ヴェーラーが予言できないってことは」
「ヴェーラーは神の使徒です。大魔法使いの名を借りるだけの者であれば、当然にそれが行えなければならない」
大魔法使いヴェーラーの敬称を得た、現代のヴェーラー。予言の力がなければその名を得るべきではないということか。しかし、それを玲那に言われても。
「ちなみに、ヴェーラーって終身なんですか?」
「そうと決まっているわけではありませんが、ほとんどがそのようになっています。意識のないまま目覚めないなどがなれば、大神官が後を継ぎます。病でヴェーラーを辞された方もいらっしゃいましたが、話ができるならば問題ないので、終身といって良いでしょう」
「ヴェーラーが、次のヴェーラーを選ぶんですか?」
「王族の介入もあります」
その時点で継承できていなくないか? ヴェーラーの名前を継いだ者が、次のヴェーラーを選ぶならまだしも。
「だったら、そのヴェーラーが絶対に予言できるって保証はないですよね。政治介入しちゃってたら、利権問題で選ばれるのでは?」
「ぷ。ははっ。はっきり言いますね」
ローディアが笑い出した。笑えること言ったか? 弾けるように笑って、人形くささを消した微笑みを見せる。美女の微笑みに、一瞬恐れおののくかと思った。傾国の美女の微笑みすぎる。美麗な微笑みに恥ずかしくなってきた。
こんな笑い方もできるのか。いつもこんな風に笑っていればいいのに。それこそ国が傾くかもしれないが。
「あなたは本当に、この国が信じる神を、俯瞰して見ていらっしゃる。あなたの国にもヴェーラーのような神はいるのでしょう?」
「えーと、まあ、そうですね」
神について聞かないでほしい。使徒のことは置いておいて、宗教観はまったく違うだろう。信仰心はあっても、身近すぎて、孤高の神を敬うとも違う。貧乏神がいる国に、ヴェーラーと同じものを求められても困る。
神がいるのを信じ神社に行くと言うより、そこにあって当然で、目の前にあるから参ろうと思う、習慣のようなものだ。行くからには参ろうと思う。けれど畏怖も持っていて、祟りなどの目に見えない恐ろしさのようなものに理解がある。失礼をすればバチが当たるという、信仰心がなくとも行ってはいけないこととして習慣づいている。
仏もまた然り。こちらは身近な人が亡くなったのだから、さらに親近感があって、神とは違う。
これをこの世界の宗教として捉えるのは難しいのではなかろうか。身近にあるもの全て神に直結している宗教観と、大魔法使いという偉人の能力は同じにはなれない。役に立とうが立たなかろうが、神は神なのだから。
「ヴェーラーは万人を癒すことができるのですから、その力の前では誰が選んだなどと問題ではないのですよ。ですから、信じる神を蔑ろにするような発言は、この国では控えた方が良いでしょう」
先に言ったのはローディアなのだが。しかし、これは忠告だ。他で言えば不敬で、王族の前で言えば不敬だけでは済まない。
国の偉人である大魔法使いヴェーラーは、王族の補佐のようなものだったのだから、当然か。目の前で簡単に病気や傷を治してくれるのならば、神だと思っても仕方がないのだし。
それにしても、意図が見えない。忠告したかったのか? ローディアの神に対する思いを吐露したかっただけか? 後者はないと思うが。
「忌憚のない意見は参考になりますね。大魔法使いであるヴェーラーと現在のヴェーラーでは意味は違いますが、大魔法使いの教えを享受しています。同じではないが、相当であるとされて選ばれます。けれどあなたの言う通り、予言ができるかは話が違います。確実に予言がなされるとは限らない」
だからあなたは異世界人ですよね? とか聞いてきそうな勢いだ。ローディアの質問はすべてそちらに直結している気がしてきた。それを肯定すれば、今のヴェーラーに能力がないことになるわけだが。言ったら言ったで、不敬すぎるってわけである。
異世界人だと思って、忠告してきているのか? もう謎すぎて頭がこんがらがってきた。
「ところで、」
面白がるように笑っていたローディアの声が、急激に冷えたものになった。
ローディアの片手が青白い光に包まれると、それを振り下ろした瞬間、光が飛んだ。




