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70−2 拘束

「どうしてまた、王族のことをお調べに?」

「ただの興味です。言葉だけだと理解しにくくて」

 ローディアに深く話したくない。じっとこちらを見つめてくるが、なにか変ですか? ととぼけた顔をしてみせる。察せられる要素はないと思うが、深く考えられるような真似はしたくない。


「どうぞ、こちらです」

 ローディアは一瞬考えるような仕草をしたが、ついてこいと玲那を促した。


「王族のことを知りたいということは、聖女を調べたいのですか?」

「そういうわけじゃないですけど」

 もうバレている。異世界人が好きですね。と笑顔で言われて、倒れたくなった。語弊のある言い方はやめてほしい。だが、聖女が出たついでに、これは聞いておきたい。


「聖女さんて、どれくらいこっちにいたんですか? 王様と結婚して、その後王子さんと結婚して、それで処刑されたってことですけど」

「約、三年ですね」


 三年。いつ産んだかにもよるが、早い時期に子供がいたとなれば、誰が相手なのか問題になるだろう。元いた世界に恋人か夫がいて、その人の子供だとしても、秘密裏に産めるだろうか。

 もしフェルナンが本当に聖女の子供だとしたら、結局秘密裏に産んではいるのだが、溺愛していた王子が気づかないわけがない。

 そうすると、王子との子供が一番濃厚だった。


「聖女さんて、王様と結婚した後、どれくらいの期間で王子さんとの結婚になったんですか?」

「二年は経たなかったはずです」

「じゃ、王子さんと聖女さんて、結婚して一年くらいしか一緒にいられなかったってことですか」

「そうなりますね。聖女の結婚歴に興味があるのですか?」

「結婚するまでの二年の間、王子さんは我慢してたんだなあって」

「我慢ですか。王を弑するために二年しかなかったとも言えますよ」

 そうとも言えるか。しかし王子は聖女と結婚し、一年でその盲目さを深め、近寄る者たちも殺した。


「二年で王様が殺されるまでに至って、その後、どうして一年で聖女が処刑されたんでしょ。たくさんの男性が聖女に魅了されていたんだったら、王子さんが王様を殺した時に処刑しても良かったんじゃ?」

 王子が王に嫉妬して殺すくらい魅了されていたのならば、その時に聖女を処刑すべきではないだろうか。原因がわからなかったのか? 多くの男性が聖女の魅了に狂い、聖女に貢いだというのに。それとも、その二年は魅了が弱かったのだろうか


 ローディアは再び玲那をじっと見つめた。その沈黙、怖すぎて目を逸らしたくなる。いや、逸らした。

 逸らした途端、小さく笑い声が聞こえた気がした。顔を戻せば、ローディアは先に進んでいたが。

 また笑える話をしてしまっただろうか。不安しかない。


「聖女の話であれば、オレード・グロージャンに聞いてみてはいかがですか?」

「オレードさんですか?」

 なぜオレードが出てくるのだろう。父親が高位貴族だからだろうか。確かに、聖女について詳しく知っている可能性はあるが。町でも聖女の話は聞いたのだし。

 知りたいことが間違いなければ、オレードに聞いてみるのも良いのかもしれない。しかし、オレードがフェルナンの事情をまったく知らない可能性もなきにしもあらずなので、うかつな真似はしたくなかった。


 それに、オレードが知っているならば、ローディアが知っていると思うのだが。

 玲那の視線に、ローディアはクスリと笑う。最近、この笑い方が多い気がする。前はにっこり笑顔の、嘘くさい作られた冷えた笑いだったのに。からかっている笑いというか、思った通りの反応に笑ってしまうような、そんな笑い方だ。

 馬鹿にされている気もするけど。冷えた感じはなくなったかなあ。


「オレード・グロージャンの叔父は、聖女の護衛をしていたんですよ」

「聖女の、護衛? オレードさんの、叔父さんが?」

「ええ。グロージャン家当主の弟になります。こちらどうぞ。王族系譜になります」


 ローディアから渡された系譜の本はサイズがあったが、厚さはなく、開けば系譜だけが載っているものだった。見やすくてありがたい。現状までのもので、誰がどの貴族と結婚し、どこに嫁いだかも書かれている。

 王子アシュトン。父親である現王がエリオット。その兄である狂った王がエルランド。二人の父親、聖女を側室にした王が、モルテン。

 これだけわかれば十分だ。あとは、フェルナンと話すだけだった。


 ローディアはすがめた目を向けてくるが、これでわかったことを言う必要はない。ごまかせるかわからないが、他の異世界人が訪れた時の王や王子の名前も聞いた。他のはまったく興味なかったが、なにかが問題かのようにじっくりと眺めた。


「ありがとうございます」

「これでなにかわかることでもありましたか?」

「異世界人が現れたきっかけが、王族に関わりあるのかなって思っただけです」


 適当なことを口にして、他に王族の歴史関係の本はないか問うた。必要な情報ではないが、ごまかしのためだ。ついでにこの国の歴史ももう少し学びたい。

 ローディアがなにかを探ろうとする視線を向けてくるが、玲那がなにを調べているかなど、想像つけないでほしいと祈るしかなかった。ローディアは玲那と異世界人の関わりを疑っているのだから、フェルナンについては気づかないと思いたい。


「ところで、髪を切られたのですか?」

 突然そんなことを聞いてくるものだから、警戒心をぽろりと落として、怪訝な顔をしてしまった。なにを突然、急にそんなことを聞いてくるのだろう。そう思ったが、玲那の髪の毛が肩まで届いていなかったので気になったようだ。


「ここを編んで、後ろでぎゅって詰めてるだけですよ」

「ご自分で?」

「ええ、まあ。髪の毛そのまま流してるより、まとめた方がドレスにはいいかなって思って」

「わざとそのように短く見えるように編まれたのですか?」

「髪留めなかったんで、編んだ時に結んだ紐を、見えないようにしたかったんです。紐あるとださいし。髪の毛中途半端な長さなんで、流すより綺麗に見えるんですよ」

「……なるほど。メイドたちの腕ではできない器用な真似ですね」

「これがですか??」


 ただ編んで、引っ詰めてるだけなのだが。誰でもできると思う。ボブに見えるような髪型になっており、後れ毛もピンで止めているが、難しい技ではない。

 しかしローディアは首を振った。


「つけ毛をつけるならばともかく、髪が短く見えるように整えようとは、メイドは考えないでしょう。貴族で髪の短い女性はいませんから。平民でも、余程の幼子ではない限り、髪を伸ばすものです」

 言われて目をよそへ向けてしまった。そうだったっけ? そうだった?


 今まで会った女性たちを思い描いて、そうかもと思い直す。ものすごく髪が長いという印象はないが、みな長さがあってまとめていたかもしれない。肩までの長さでも結んでいた。しかし、それ以上短い髪型は見たことがない。

 また異世界人と指摘されているようで、汗が出てきそうになった。


「あなたは、面白いですね。他国の方とはいえ、多くのことが違うように思えます」

「そうですか?」

 どうやらまたヘマをしたらしい。口を開きながら、へー、なんて首を傾げて見せたが、内心ドキドキだ。どうしてこう、この国の人間と違うところがこんなにも出てくるのだろう。玲那の常識は、この国の非常識すぎる。


「ヴェーラーは予言をし、異世界人を見つけるのです」

 なんか急に始まった。ローディアが語り始める。

「予言はなされるものです」

「はあ」

「ですが、そうなされない場合、ヴェーラーに価値があると思いますか?」

「異世界人の予言ができないと、ヴェーラーに価値がないってことですか?」


 それ、神官が言っていい言葉なのかな。

 それとも、異端審問官のような問いだろうか。そんな問い、引っかかりまくる未来しかないのだが。

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