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67 不安

 歩き続けてやっと屋敷の門前に着いた頃、オクタヴィアンたちが丁度屋敷に戻ってきた。

 もっと遅く出て、一緒に乗せてもらえればよかったのに。疲労でふらついて歩いている背後からガロガ車がやってきて、門を開けさせて入っていく。


「はあ。あと少し」

 森の中をいつも歩き回っているが、今日は別の疲労だ。屋敷前まででも乗せてほしいと思ったが素通りされて、くそうと毒付く。その毒付きを後ろにいた騎士たちに見られたが、そんなことよりも、別のことに気を取られた。


「フェルナンさん?」

 ガロガに乗ったフェルナンは玲那に気づかなかったか、ガロガ車の横について通り過ぎた。玲那は急いでその後を追う。

 屋敷の前でオクタヴィアンが迎えられ、騎士たちはそれを見送ってからガロガ房へ移動した。


「なにやってんだ。お前」

「オクタヴィアン様、またなにかあったんですか!?」

「なにもねえよ。あいつ体調悪いんじゃねえか? 城についてから顔ずっと真っ青だったぞ。つかお前、一人で出かけてたのかよ」


 それに関しては色々言いたいが、それよりもフェルナンの顔色が悪すぎた。オクタヴィアンの話を途中で、フェルナンの元へ走る。ガロガを房に入れて、騎士たちの宿舎へ行ってしまったか、もういない。

 もう夜遅いため、オクタヴィアンはパーティで食事を終えているだろうが、フェルナンはどうだろう。玲那のお腹はもう空腹の合唱を終えて胃が痛いほどだった。食事を作って、持って行こう。思ったが吉日。キッチンに直行する。料理長が他の料理人たちと談笑をしていた。夕食を食べた後だったようだ。


「おう、どこに行ってたんだ」

「お城ですよ。恐ろしいところでした」

「ローディア・ヴェランデルに目を付けられる真似したのか?」

「それ、私がめっちゃ聞きたいです。それより料理していいですか?」

「好きにしろ。パンの残りがあるぞ」


 残っていたパンを口の中に突っ込んで、玲那は料理を始める。体調の悪い人用に、スープなどがいいだろうか。気分が悪いのならば、さっぱりしたものがいい。こういう時、お米があればいいのだが。ないものねだりをしても仕方がない。


「料理長、朝作ったやつ、どうでした?」

「触ってないぞ。お前がいなきゃ作れないからな」

「すぐ作るんで、試食してください」

「おお! なにか手伝うか?」

「釜に火入れてもらっていいですか?」


 新しい料理を作るのならばと、料理長たちが立ち上がる。布をかけてある台を確認し、中の物が問題ないか玲那は手に取った。本当は試食用で夕食前に作るはずだったのに。乾燥しているのが気になるが、大丈夫だろう。

 慣れた手つきで野菜を刻み、ベーコンを炒めてからそれらを入れる。それからお湯を入れて煮込んだ。このままでは味が薄いので、香辛料を少々。超高速で煮詰める。


「うまそうな匂いがする」

「まだ味薄いですよ。もっと濃くないと」

「スープじゃないのか?」

「スープですけど、味が染み込まないと美味しくないんで、濃いめに作ります。あとで薄くなりますから」

 強火で煮込み、水分が飛んでいったら、さらにお湯を入れて煮込む。


「こんなに野菜を入れる料理は初めてだな」

「野菜の味でおいしくなるんですよ。ちょっと味見しますか?」

 自分で確認したが、まだ味が薄めだ。料理長はこれでもいいと言いそうな気がする。渡してみると、パッと目を見開いた。


「うまい!」

「じゃあ、もう少し煮ます」

「なんでだ! まだ足りないのか??」

「飲む用じゃないんですよ。麺を入れます」

「めん?」

「朝作った、紐上のあれですよ」


 午前中作ったのは、うどんの生地だ。うどんは水と塩があれば作れるのだし、上手くまとめられればいい。煮込みうどんが食べたい。その一心だったが、体調の悪い人にも食べやすい料理だろう。

 醤油や鰹出汁などがないため、今回も洋風だ。トマトもどきうどん鍋である。

 軽く茹でて水で洗い、それをトマトもどき鍋に入れる。チーズをかけてもいいが、胃がもたれそうなので今日はなしだ。


「うん。丁度いいかな。はい、試食してください」

「まかせろ! う、うま!」

「じゃ、私の分残して、あと食べていいですからね」

「え、おい!?」


 料理長がおいしいと言えば大丈夫。一人分を器に入れて、玲那はキッチンを飛び出した。ここで妙な輩に足を引っ掛けられたりしないよう、注意して騎士宿舎へ移動する。


「フェルナンさん、ご飯ですよ。スープですよー」

 オレードの言う通り、遠慮はしない。あの顔色は尋常ではなかった。青白すぎて、お化け屋敷に出てくるレベルだった。しかもあの近距離で玲那に気づかないのだから相当だ。頭の上でリリが鳴いて、扉をすり抜けて中に入っていく。

 玲那も遠慮せず、扉に手をかけた。鍵はあいている。


「入りますよ。お邪魔しまーす」

 そっと入り込めば、フェルナンはベッドで背を向けて眠っていた。リリがベッドのヘッドボードに止まって、フェルナンを見つめる。目が覚めているのかわからないが、顔を上げることはない。ナイトテーブルにうどんを置いてみるが、フェルナンは動かない。上からのぞいてみれば、悪夢でも見ているようにぎゅっと目を瞑っている。


「顔色わる……」

 毛布もかけていない。寒くないのだろうか。

 足元で丸まっている毛布を引っ張り出すと、フェルナンがいきなり飛び起きた。


「うわ! お、起きてましたか? 毛布かけようと思っただけで。あと、ご飯持ってきたから、食べた方がいいですよ」

 今、目が覚めたのか? 玲那を見て驚いた顔をしていた。そして顔を伏せると、そのまま寝転んでしまった。


「熱あります?」

「……ない」


 か細い声。玲那に背を向けて、丸くなるように寝転がる。食事をする気はないか。さて、どうしよう。

 出かけるたびに顔色が悪くなっている気がする。王都のなにがフェルナンをこんな風にさせているのだろう。まるでなにかに怯えているようだ。


 引っ張り出した毛布をかけてやると、びくりと肩を揺らす。軽く肩を叩いて、あったかいうちにおうどん食べてくださいよ。と言って玲那は部屋を出た。前の食事の皿がそのままだったので、机の上にあったお盆ごと持って帰る。


「肩、震えてたな……」

 やはり熱でも出ているのだろうか。無理やりおでこでも触れれば良かったか?


 リリが扉から抜けて出てきて、いつも通りと玲那の頭の上に乗る。その瞬間、パッと玲那の頭の中に、映像が浮かんだ。


 馬車が見える。城への道をゆっくり走っている。見覚えのある街並み。それらを眺めて、周囲を警戒するように人々を視界に入れる。それから、

 バッと視界が真っ暗になった。


 玲那の視界は元に戻り、フェルナンの部屋を出た廊下になる。今のはなんだ? リリは羽を動かして、頭に収まってもう動かない。今のは、リリが見せたのか? 城へ行く道。フェルナンの視線だろうか。オクタヴィアンの乗った馬車を、後ろから眺めた景色だった。


 フェルナンが嫌悪するなにかが、城にあるのだろうか。

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