表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/195

66 王宮

 私の窓拭き使ってる! ほんとに使う人いた!


 廊下を歩きながら、認可局に認可された窓拭きを使うメイドに気付き、玲那は歩きながらその様を眺めた。別の建物の窓を拭いているので遠目だが、間違いない。窓拭きモップだ。

 お金だけ払って、ーーー払ったのはオクタヴィアンだが、使用されることなどないと思っていた窓拭きモップを、まさか城で見ることになるとは。


 そう、お城である。どこのお城って、王宮のお城だ。


 なぜ玲那がここにいるのか。それはオクタヴィアンが出かけた後のことである。

 騒ぎがあった後、オレードと共に、フェルナンの部屋に行った。フェルナンはまた眠っていたのか、顔色悪く部屋から出てきた。ケーキは食べてくれたようだが、それ以外に食事をしていないと聞き、急いで簡単に食べられる物を作り、フェルナンが食べるのを待った。その頃にはオレードは帰ってしまい、お目付け役のようにフェルナンの食事を見守った。


 オクタヴィアンと出かけるため、フェルナンはだるそうに用意をしていたが、さすがに着替えは見守れないので外で待機。騎士の衣装に着替えたフェルナンに拍手して、顔色の悪いままのフェルナンと、おめかししたオクタヴィアンを屋敷の者たちで見送った。

 もちろん玲那が付いていくことはない。フェルナンが帰ってきた時に軽い夜食でも作っておくかとメニューを考えていた頃、使いが来たのだ。


 誰の使いって?

 ローディア・ヴェランデルだ。オクタヴィアンが出かけた後に来るあたり、計算したのだろうか。使いに理由を聞いても教えてくれない。玲那に断る理由もない。ローディアの身分を考えれば、玲那に拒否権はない。玲那は仕方なく使いの乗ってきたガロガ車に乗り込んだのだ。


 白のローブを羽織り、玲那は見慣れぬ廊下を歩く。


 サイズの合っていない服の上、足元を隠すほどの丈の長い服なため、足元が見えにくい。階段になると裾を上げて登らなければ転んでしまいそうだった。


「転ばないでくださいね」

 玲那の動作に微笑みながら言ってくるあたり、嫌味に聞こえる。足が短いと言いたいか。身長が低いと言いたいか。どちらもか。

 そもそも、ローブは厚めの服なので、動くのに重いのだ。こんな服を着せてまで、ローディアはどこへ玲那を連れていく気なのか。


 屋敷に来た使いは玲那を城に運んだ。絞首台の跡を通り過ぎ、門から入ったがそこからも馬車に乗ったまま。しばらく走り、降ろされた場所から使いと共に歩き、たどり着いた建物の中にローディアはいた。その前に馬車の中でこのローブを渡されていたのでローブを羽織っていたが、同じような服を着ている者たちと何度かすれ違った。

 これがなんの衣装なのか、なんとなくだが想像がつく。ここは神殿で、神殿に入る者が多く着る衣装なのだろう。


 まったく、どうしてこんなところに連れてこられなければならないのか。

 異世界人。その言葉が頭の中によぎる。ローディアは玲那を完全に異世界人と疑っている。

 神殿で異世界人とわかる方法でもあるのだろうか。不安しかない。


「そう警戒することなどないですよ。見せたいものがあるだけですから」

 にっこり笑顔が寒気しかしない。その見せたいものがなんなのか、ローディアは口にしなかった。

「あちらに見えるのが、本日パーティが行われている離宮ですよ」


 窓から、広い庭園と豪華な建物が見えた。ガラス張りの廊下なのか、人が歩いているのが見える。その先がホールなのだろう。いくつかのバルコニーが並び、そこにも人が見えた。庭園に出ている者もいる。もう外は暗くなっているのに、灯りが灯されていて煌びやかだ。庭にオーナメントでも飾られているのか、キラキラしている。クリスマスパーティみたいだ。


 あそこにオクタヴィアンがいるなら、助けを呼びたい。騎士たちもあの建物にいるのだろうか。フェルナンは元気にしているのか、気になる。

 周囲を見張る騎士たちも多いが、フェルナンの衣装とは違った。王宮の騎士なのだろう。


「ローディア、パーティには出ないのか?」

 歩いていると前から来た男がローディアに声をかけた。癖毛の銀髪で、エメラルドグリーンの瞳をしている。ローディアほどとは言わないが、顔の整った人だ。女性には見えないが、ローディアのように人形みたいな美しさがある。後ろに数人の騎士がくっ付いていた。身分が高そうだ。


「後ほど顔だけ出すつもりです。殿下こそ、こちらにいてよろしいのですか?」

「連日集まるのだから、少しは遅れて出ても問題ないだろう。王族がいない方が話も弾むのでは?」

「ご冗談を」


 人形同士が笑い合っている後ろで、玲那はどっと汗が吹き出しそうになった。

 殿下、って言った。殿下って。殿下だ。王族だ。ローディアは第三継承権があると耳にしている。王がいて、王子、ローディアの父親、ローディアの順番なのだから、王子は一人。殿下となれば、王子。ローディアの血縁らしく、同じ髪色。ローディアより若いようで、二十歳前後に見えた。


 つい見つめれば、王子が玲那を視界に入れた。

 やばい。じっと見ちゃったよ。

 すぐに顔を伏せて視線を逸らしたが、遅かった気がする。しかし、王子は気にしなかったか、軽く挨拶をしてそのまま行ってしまった。


「先ほどの方が、アシュトン殿下です。運が良かったですね」

 どこが?

 口には出していないのに、ローディアが、滅多にお目にかかれる方ではありませんよ。と付け足してくる。顔に出すぎているようだ。両頬を両手で上げて口を閉じておく。

 二度とお目にかかれないでほしいと思っていることは、顔に出ていないことを祈る。それにしても王族は美人の集まりなのだろうか。アシュトン王子とローディアが兄弟だと言われても納得する。


 再び歩きはじめると、騎士やローブを着た者がローディアに気づいて足を止め、壁際で待機する。傍にどき、ローディアが通るのを待ったが、後ろにいる玲那に気づけば顔をしかめた。誰だ、あいつ。の顔である。

 王子もそう思っただろうか。さすがに気づかないか。

 歩いていると、警備している騎士が増えてきた気がした。巡回している騎士も多い。


 大体、どこへ連れていく気なのか。未だ話はない。

 そうして歩き続けて、ローディアはやっと足を止めた。

 かなり奥の方へやってきただろう。荘厳な扉の前、騎士が数人槍を持って立ちはだかる。ローディアに気づけば傍に避けた。


「こちらは?」

 傍には避けたが、玲那の存在は問うようだ。一人の騎士が玲那を鋭く睨んだ。ローディアはその視線を気にもせず。ただの手伝いですよ。と返して、扉を開けさせた。騎士は渋ったような顔をしたが、ローディアの微笑みの前に扉を開く。


 ゴゴ、と大仰な音が鳴る。騎士二人がかりで開けられた。部屋の中は階高のあるホールのような部屋で、球状のドーム型の天井の下に、円形のプールのような泉があった。正面には男性の彫刻があり、杖を突き出した格好をしている。


 あ、めっちゃ帰りたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ