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「お前に言われたかないんだよ! 俺と年、そんな変わんないだろうが!」

「私の方が年上ですよ!」

「精神年齢は俺の方が上だっつうの」

「またまた、ご冗談を」

「お前ええ」

「なにもないならいいんです。では」

「おい、逃げんな。フェルナンは騎士たちといたから、俺が知らない間になにかあってもわかんねえよ。王との謁見の場にあいつは連れていってない」

「そうですか」

「ったく。なら、お前の片思いかよ」

「どう考えたらそうなるんですか。おませさんの目は節穴ですねえ」

「おいっ!」

「では、失礼致します」


 怒られる前に退散する。ルカがお腹を抱えて笑っているので、人身御供になってくれるだろう。部屋の中でルカに怒鳴っている声が聞こえる。その間にそそくさと部屋を離れた。


「まったく、なに言ってるやらだわ」

 なんで付き合ってるなんて話が出るのか。フェルナンの隣に玲那を置いてみるがいい。不釣り合いなんてものではない。考えたこともないことを言われて、呆れてしまったではないか。フェルナンにも失礼だろうに。


 フェルナンに似合いの女の子。

 そう考えて首を傾げる。

「可愛い系? 知的系? うーん」


 なんならオレードのように面倒見の良い人だろうか。それも違うような気もする。人様の恋愛事情なんて興味ないし、恋愛から離れた場所で生きていたので、とんと想像できないが。

 それにしても、オクタヴィアンを待っている間に、なにかあったのだろうか。


「なにもないなんてことないでしょ」

 だったらなんであんなに、

「あんなに落ち込んでるのよ」


「ねえ、ちょっと、あなた」

 うーんと唸っていると、後ろから声をかけられた。見知らぬメイド二人だ。一人が気の強そうな顔をしており、後ろの子はその子を盾にするようにやってくる。


「なんですか?」

「聞きたいのだけれど、あの騎士と仲いいわよね。恋人なの?」

「は?」

 あの騎士って誰のことだ? 思いつくのはフェルナンで、オクタヴィアンと同じことを聞いてくるものだから、つい顔をしかめてしまった。


「嘘でしょ? 恋人なの!?」

 やぶからぼうになんなのだ。そしてなにとも言っていないのに、断言しないでほしい。

「ちなみに、どなたのことですか?」

「黒髪の、身長の、顔のいい男よ!」


 名前も知らないのに聞いてきたのか。一目惚れでもして、周辺の聞き込みしているのだろうか。それにしても、人に物を聞く態度ではない。偉そうに威嚇しながら聞いてくるあたり、答える気も失せる。間違ってもあり得ないが、本当に恋人ならばどうする気なのだろう。


「ちょっと、聞いてるんだけど!」

 女の子は胸ぐらをつかまんばかりに近寄ると、玲那の肩を力強く押した。

 ええ、性格悪いー。その言葉が声に出ていたかもしれない。心の中で呟いたつもりだったが、目つきの悪い方がさらに目つきを悪くした。


「なんですって!?」

 性格悪いは性格悪いだよ。服が乱れたので、軽くはたくように服を整えると、噛み付くように睨んでくる。

「領主様の息子と仲がいいからって、生意気なんじゃないの?」

 領主様の息子。その言い方はどうなのだろう。そして、仲がいいとは? メイドは鼻で笑うと、まさか領主様の息子とできてるってわけ? と口にした。


 それはオクタヴィアンが怒るやつ。


「平民のくせに、かわいがられて偉そうにしてるんじゃない? どうせラダみたいに尻尾でも振ってるんでしょう?」

 ラダがなんだかわからないが、とりあえず馬鹿にされていることはわかった。とはいえ、あまりにも子供っぽい言いがかりをつけてくる。


「なんだろ。小学生。頑張って、中学生」

「はあ? ちょっと、ちゃんと答えたらどうなの!?」

「はいはい。じゃあオクタヴィアン様に、そのまま丸っとお伝えしておきますね。領主の息子と私ができてるって? いやー、発言には気を付けないと。そんなこと言ったら殺されちゃうー」


 顔を真っ赤にして怒る姿が目に浮かぶ。なんなら物でも飛んでくるかもしれない。それを言ったやつを連れてこいと怒鳴り散らすかだろう。

 この屋敷でのオクタヴィアンは、使用人に対して城とは態度が違う。城には身近な者たちしかいなかったこともあるが、こちらの使用人には話しかけることが一切ない。なんなら、視界にすら入れなかった。なにかあれば問答無用でクビにする。まるで自分が好きで雇ったわけではないと言わんばかりに容赦がない。


 玲那が誰かに尻尾を振っていたとしても、オクタヴィアンの名前を出すべきではないだろう。

 それに気づいたか、メイドがさっと顔色を悪くした。


「じょ、冗談よ。あの騎士と付き合ってなきゃいいのよ」

 メイドはあっという間に逃げていった。後ろにいた女の子も急いであとについた。

「なんだ、あれ。当たり屋? 金魚の糞付き」

 小学生か中学生か。幼稚すぎる。玲那がいかにも身分が低そうで、上から目線になるのは仕方ないが、出す名前は選ぶべきだろう。


「メイドの身分ってどうなってるのかな。騎士とかには声かけられない感じ?」

 フェルナンに直接聞けばいいのに。と思いつつ。まあ聞けないかと思い直す。それにしても、フェルナンがもてるのはともかく、まさかフェルナンに関して絡まれるとは思わなかった。


 領地だと、女性騎士たちは遠巻きにしていたし、できるだけ当たり障りのない対応をしていた。おそらく、フェルナンの出自が関係しているのだと思うが。だから玲那が一緒にいても、嫉妬のような発言はされたことがない。そもそも相手だと思っていないだろう。


 玲那が神官の事件でオクタヴィアンに使われていたことを抜きにしても、フェルナンに関しては、できるだけ距離を保つのが普通のようだった。

 町の女性たちは、討伐隊騎士ということで嫌悪しつつ、憧れの視線を遠くから向けるだけ。近寄りたくても近寄るのは、恐ろしい存在だと思っているからだ。


 この屋敷の者たちはフェルナンについて知らないため、気にする女性は多いのだろう。そのため、ああいった輩が出てくるのかもしれない。なまじオクタヴィアンが領地から女性をほとんど連れてきていないので、玲那は目立つのだ。

 肌で感じる、玲那に対するメイドたちの態度。関わることはないが、廊下ですれ違いざまに横目で見てくるのは気づいていた。

 メイドでもないし騎士でもない。なにをするための平民なのか。そんな視線だろうか。

 フェルナンも目立っているが、玲那も目立っているのかもしれない。


 今ので引き下がってくれるだろうか。

「うーん。一応気を付けておくかなあ」

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