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58 勇者

 まあ、散々だった。結局食事係に専念することになり、料理研究をしながら建物の中で待機していた。オクタヴィアンに、罰としておいしい食事を作れと命じられたので、喜んで従事した。

 おかげで洗濯できなかった一着だけの服も洗濯できたし、足手まといにならず、過ごすことができた。

 後で、激痛睡眠薬について、バカだろ。とフェルナンと同じ感想をいただいたが。


 フェルナンには平謝りをして、今後の献立を考える。オレードにも心配をかけていて、申し訳ないことをした。

 疲労困憊。さっさとお家に帰りたい。








「どうぞ、こちらです」

 男の後をついて、玲那は薄暗くカビ臭い部屋に入り込んだ。空気の入れ替えをしていないのか、どこか湿った感じがする。雪だから湿気が多いのかもしれない。カビの匂いと一緒に、生臭いような、獣臭いような、妙な匂いがした。男は好きにご覧くださいと言って、部屋を出ていった。


 広間のような天井高のある広い部屋。廊下のように縦長の部屋だ。思っていたより蔵書数が多そうだ。

 帰る前に調べたいことがある。城に帰ってきてから、玲那はオクタヴィアンに許しを得て、書庫を見せてもらうことになった。

 なに探すんだよ。と問われて、料理の本とか見たくて~。なんて言ってみたが、信じてもらえて許可を得られた。料理の本なんてあるのか? と問われながら。

 料理の本があるかは知らない。目的は、料理の本ではないので。


「さて、どこから探すかな」

 司書などはいないのか、人の気配はない。薄暗い部屋に等間隔で本棚が並んでいる。奥に行けば行くほど、暗く、匂いがこもっている気がした。窓を開けたくなる。窓は玲那が手を伸ばしても届く高さにはなかった。薄暗いのも本の貯蔵に良いからだろう。しかし、カビ臭い。


「カビ臭いっていうか、動物園っぽい匂いって言うか」

 なんで書庫がこんな匂いを発しているのだろう。その辺でネズミでも死んでいるのではないか、不安になる。

 玲那はキョロキョロと本棚を見回した。図書館のように、なんの本がどこにあるのか、案内が書かれていない。道は真ん中に一本。窓側と廊下側も歩けるようだ。本棚は何列かあるため、案内がなければ探すのに苦労するだろう。

 とりあえずと本棚の本を見上げた。


「帰る前に、確認したいわけだけど、これ、なに順で並んでるの?」

 背表紙にタイトルすら書いていない。たまに刺繍されているものはあるが、ほとんど書かれていない。分厚い背表紙。本のサイズは大きなものばかり。抱えるくらいある。これを一冊一冊出しながら内容を確認するのは、骨が折れる。


「まさか、また作成日順? それは勘弁してほしい。ランダムだったら最低過ぎる」

 触れてみれば布とは違う、革のようなカバーがかけられている。表紙は鋲で止めてあるが、中は布のような厚めのものでできていた。

「紙じゃない。羊皮紙? 独特の匂いすると思ったら、これの匂いか。羊の皮でよく本作ろうと思ったよね。その方がミラクルだわ」


 羊に似た動物はいるのだから、あの動物の皮だろうか。魔物の皮かもしれない。本の質は色々だ。革の種類が違うので、動物や魔物の皮を数種類使っているのだろう。

 中の文字は読むことができた。いつも通りルビのように出てくるので、読みにくいが読むことはできる。


「ヴェーラー。この本もヴェーラー。こっちは神殿について。予言がなされたこと」

 ここに来たのは、勇者について知りたかったからだ。宗教ついでに異世界人の話はないのか? 勇者の話、勇者の話。この際、歴史でもいいんだけれども。

 棚ごとに適当に本を取って、中を確認する。宗教の話ばかりで、それ以外が見つからない。


「おお! 魔法の本がある! はわわ。えーと?」

 一人の男が荒地に命を与えた。荒地から生まれた一人の女は荒地を潤し、癒しを与えた。荒地は肥沃な土地となった。命を与えた男は女を娶り、女はその地で子を産んだ。子供は、地、火、水、風の力を持っていた。

 大地を揺るがす力は地の力は男、全てを燃やし尽くすのは火の力は女、潤いを与える水の力は女。荒々しくも穏やかな気質の風の力は男。


「これが最初の王様? 多神教だ。この国の宗教って、他の国と同じなのかな。魔法の説明に、宗教から入るのか」

 ヴェーラー、ヴェーラー言うものだから、ヴェーラーが最初の神のように思ってしまうが、始まりは多神教だ。ヴェーラーは大魔法使いで、今では神格化されているが、魔法を作ったわけではない。

 魔法を作ったのは古い時代の王、つまり神だ。


 当時は神の概念がなかったと、使徒は言っていた。概念はなかったとしても、神のように畏怖される存在だったはずだ。これを読むに、ヴェーラーの神格化のため、古い神たちをはっきり神と表記せず、卓越した人の子としたかったのだろう。普通ならば神が命を与えるものだ。ヴェーラーを持ち上げるための意図的な修正に見える。

 ヴェーラーは最高神で、知能の神となっている。最初に命を灯したのが最高神ではないのだから、ヴェーラーを表に出したかったのだろう。

 天地創造が子と表記されているのもそのせいに違いない。


 火を作れば、そこから光の子が。その影から闇の子ができた。光の子がまばゆい光を与えて春となり、花を咲かせて大地を彩った。地の力を持つ子が喜びに溢れて熱くなり夏になるが、暑さを嫌がった風の力を持つ子がそれを飛ばすと、花が飛び、その寂しさに水の力を持つ子が涙を流し、雨が大地に染みて冷えると冬ができた。


「秋はどうした。秋ないの? 夏の後はすぐ冬ってこと?? だから急に寒くなるの。えー、実りの秋が。秋は短いから、神話にないってことか。悲しい。一番好きな季節が」


 もっと読んでみたいが、探している本ではない。後で借りられないだろうか。物語として面白そうだ。またここに来られるとは限らない。残念に思いながら本を戻し、再び本探しに入る。勇者、勇者。

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