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57−4 雪の中

「なに……。フェルナンさん?」


 光がパパッと瞬いた。赤い光が煙の中の花火のようだ。それが数回。吹雪に紛れて見えなくなる。

 急に心臓が鳴り出したのがわかった。フェルナンが超人でも、この吹雪の中、視界が悪いのに、戦いなどできるのか? 魔物の中には魔法を使ってくるものもいる。遠くから飛ばされてきた魔法を、この吹雪の中察知できるのか?


 不安が渦を巻くみたいに這い上がってくる。辺りは暗くなってきて、先ほどよりも空が闇に近づいていた。黒の空から白の綿帽子が降ってくる。風は弱まったかのか、それでも雪の量は多い。光は消えて、雪景色に薄曇りがかかりはじめている。魔物の姿も見えなければ、フェルナンが戻ってくる姿も見えない。


 結界に触れても、そこから出ることはできなかった。立てるぐらいの広さはあるが、結界の向こうには行けない。探しに行っても迷子になるだけなので、出られない方がいいと思われたかもしれない。さすがに探しに行くほど無謀ではないが、少しくらい周囲を探したい気持ちが起きる。


「出られなくて正解。ちょっとその辺様子見に行っちゃうもん」


 不安は増すが、ここから出て行った方が余程邪魔だ。大人しく待つしかない、不安なまま、体育座りをして、膝を抱えて、じっと戻りを待つ。先ほどの光の方向から、なにかが近づいてくるのが見えた。


「フェルナンさん? だ、大丈夫ですか!? 雪まみれ!」

 結界の向こうから、雪にまみれたフェルナンがやってきた。結界に入るとふわっとその雪が消えていく。

「大丈夫だ」


 そんな雪だらけになって、どこへ行っていたのか。もう乾いて何事もなかったようになっているが、相当寒かったのではないだろうか。

 フェルナンは抱えていた木の枝を放ると火をつけて、その上に持っていたもも肉のような物を乗せた。魔物の肉だ。これを獲りに行っていたのだ。この吹雪の中、怪我はなさそうだが、それこそ無謀な気がする。フェルナンだから大丈夫なのだろう。

 先ほどの心配が杞憂になったおかげか、力が抜けた。


「迷子になっちゃったかと思いました」

「結界から自分の魔力を感じる。だからどこにあるかわかる」


 そんなことができるのか。この結界というのも、そのまま壊れることはなく、フェルナンが行き来してもそのままだ。便利なものである。

 他の人もこういうことできるのだろうか。フェルナンだけができるような気もする。神官の力とか? あのローディアもこういったことができるのだろうか。


 ぱちぱちと油がはねる音が聞こえて、急にお腹が減ってきた。食事を伴う狩りだが、神殿に葬るための部位も持ってきたのだろうか。魔物だから関係ないのか? そんなことを考えながら、カバンからさっと調味料を取り出す。木の皮だ。フェルナンに許可をもらって、火の中に放る。


「なにか変わるのか?」

「香りですよ。この香木の皮を燃やすと、おいしさが増すって」


 植物辞典に書いてあった。と言いそうになって、口をつぐむ。ごまかすように再びカバンをあさった。

 水を入れる袋もある。フェルナンが雪を入れてくれた。これで飲み水には困らない。そうこうしていると、お肉の焼ける良い匂いが充満してきた。煙が出るのだが、なぜか外へ逃げていく。謎な作りだ。密室なのに、一酸化炭素中毒にならない。

 構造どうなっているのだろう。魔法が便利すぎる。


 お肉を分けていると、雪を踏み付ける音が聞こえた。音は遮断されていてもほんのり聞こえる。吹雪の音はかすかなのに、踏み付ける音はそれよりも大きく聞こえた。

 途端、どごん、とぶつかった音は聞こえなかったが、激突した音が聞こえるくらい、恐竜みたいな魔物が結界に突っ込んできた。


「うわっ!」

 口の中がよく見えて、玲那はびくりとした。大口開けた魔物が突っ込んでくれば誰だって驚く。しかし、魔物は硬くて噛むことができない物を噛んだと、勢い余って後ろに転げていた。呆気に取られていれば、もう一度魔物が突っ込んでくる。それでも結界が壊れない。頭でぶつかったり、足で蹴ったりするが、びくともしない。フェルナンは気にもせず、焼けた肉を頬張った。


「食わないのか?」

「あ、いただきます」

 遊園地のアトラクションでもやっている気分だ。おずおずと魔物の口の中をながめながら、魔物の肉を口にする。

「おいしー」


 鶏肉に似た味で油があって、香木のおかげか、香り高く甘みがある。持っていた塩もかけたので、完璧だ。魔物ががりがり結界を犬みたいに掘っているのを横目にして、お肉にかぶりつく。あつあつである。

 魔物が頑張って結界を頬張ろうとしているのを見るのは、なかなか壮観だ。お口の中が丸見え。牙がすごいし、歯が喉の奥まであるのが見える。安全とはいえ、結構な迫力だった。


「魔法って、なんでもできちゃうんですね。どこで学ぶんですか? 学校とか?」

 そういえば、ここで学校に行く子供は見たことがない。家庭教師でも雇うのだろうか。義務教育などはなさそうだ。村の人たちが使う火の魔法などを見るに、口伝のように親から子へ教えられるのだろうか。


「学院はあるが、この領地にはない」

 学校はあるが、別の町に行かねばならないそうだ。

「じゃあ、フェルナンさんは、家庭教師さんとかに習ったんですか?」

「学院には、神官の資格を得るために一年だけ行った」

「一年でそんなすごくなっちゃうんですか?」

「なんだ、それ」

 そんなすごく、が面白いらしい。気の抜けた笑いをしてくる。そんなすごいと思うのだが、そうでもないのだろうか。


「学院って、一年しかないんですか?」

「九年ある。そのうち全て通ってもいいし、試験を受けてその結果で年数を変えることもできる。逆に試験の結果次第で次の学年に上がれないこともある。三度失敗すれば退学だ」


 ならばフェルナンは、成績が良いため、九年通うところを一年で終えたことになる。

 小中学校を一年通って卒業するってこと? 成績が良すぎて一年で十分だったってこと??

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