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56 噂

「部屋は私たちと一緒ね」

「お邪魔します」


 寝泊まりする部屋に案内されて行くと、そこには女性が数名いた。みなさん騎士らしく、剣の手入れをしていた。

 女性の騎士がいるのに気づかなかった。男性でも髪の長い人がいるので、女性が混じっていても気づかないのかもしれない。

 騎士は討伐隊騎士と似たような服装をしている。違うのはマントの色だ。厚めの紺色のマント。兵士はマントをかぶっていないため、彼女たちが騎士なのは間違いない。護衛騎士よりは軽めの服装に見える。


「どこの子だろうって話していたのよ。オクタヴィアン様と仲良く話していたから」

「オクタヴィアン様たちと動いていた子でしょう? 料理人だったのねー。今日の食事おいしかったわ」


 合っているような、合っていないような。オクタヴィアンの部下だと思われていそうだ。

 騎士の身分とはどうなっているのだろう。玲那が彼女たちと同じ部屋で過ごしていいのかわからないが、特に文句もなく、笑顔で迎えられた。みないい人そうである。


 部屋は広いものではなく、なにもない一室で、毛布だけが配られた。雑魚寝をするらしい。寒くて嫌よねえ。と言いながら、慣れた手つきで薪をくべて炎を作る。鍋を置いてそこでお湯を作って、そのお湯で体を拭いたりした。汚れたお湯は窓から捨てる。ここは二階なので窓はあるのだが、豪快だ。脱ぐにも遠慮がなく、いきなり脱ぎ出すので、ぎょっとする。


 女だけの時はこんなものだと、軽く笑った。女性の騎士は少なく、いつもこの人数なので、気兼ねがないのだ。

 明日が早いからと言ってすぐに寝ることになったが、寝るにはまだ眠気がこないと、暗い中で話を続けていた。修学旅行みたいだ。


「新しい神官見た? 女性かと思ったら男性だったの」

「美しい方よね。王族の親族って話。都じゃ有名人らしいわよ」

「ローディア・ヴェランデルって、次期大神官候補でしょ?」


 女性たちは早速とでも言うように、あの不遜な神官の話をしはじめた。

 そうそう、漏電じゃなかった、ローディアだ。

 そのローディアが一人目立っていたので、女性たちは色めき立った。女性だけでいる時にしかこんな話はできないと、一気に話が盛り上がる。


 あまりに美形で近寄りがたいので、見かけたらラッキー、くらいの相手らしい。扱いがアイドルみたいだ。

 その派生でフェルナンの話も出てきた。

「美人よねえ。いつも顔見せないようにしてたけど、あの神官様がいらっしゃったから、少しは影響減るんじゃない?」

「あの人も目立つもんねえ」


 そういえば、フェルナンは町でも討伐隊騎士として恐れられていながら、女性たちからの視線を集めていたのを思い出す。前髪が長く目元を隠しているように見えたのは、その影響か。

「あの人は訳ありすぎるわ。それに、自分より美人と結婚なんて考えられないわよ。他にいいのいないかしら。騎士でもあまり会うことないものね。もっと出会いがあるかと思ったわ。同業者は嫌だし」

「家を継げるだけましってかんじ。でも婿入れるにも相手が」

「出会いないわあ」


 領地は広いものではなく、貴族の数も少ない。その上、騎士である女性を娶ろうとする男性も少ないそうだ。

 婚活するにも難しい地位だとか。

 じゃあ、なんで騎士になったのだろう? と思うのだが、


「聖女のおかげで男が減って、女が家門を継げるようになったから、私も騎士になったの。一人娘で男兄弟もいないし、この領地の騎士も減っているからね。ほとんど農村の平民と変わらないわよ。少し家が大きいだけで、城の側に実家があるわけじゃないもの」

 なるほど。一人っ子で家を継ぐために騎士になったようだ。

 聖女のおかげ。女性たちはそう言うのか。他の女性たちも頷いている。


「うちは身分がそんなに高くないから、騎士でしか稼げなくて」

 騎士って身分低いんだ? 失礼だから聞けないけれども。


「討伐隊騎士とは違うんですか?」

「あれは、ほとんどが勇者が連れて来た者たちの血筋でしょう。王宮の騎士とか、都の貴族の関係よ」

「私たちと違うのは、彼らの家門を辿れば、王族の近衛兵や騎士団に入っていた人とかもいたってところね」

「いい家ってことですか?」

「いい家の者もいたってこと。でも、いい家でも次男とかは家を継げないから、土地とかもらえないのよ。だから、土地がもらえられると思って、勇者と一緒にこの地に来た人は多かったの。元の身分が高い者もいるし、身分の低い者もいる。ただ、みんな都の貴族ってこと」


 だからなおさら嫌われ者の集まりということか。その代に住みついた人たちの二世や三世、なんなら四世と増えている。昔は都にいたのだというプライドは持っているようで、女性は扱いに困ると肩をすくめた。


「勇者のおかげでこの辺りが平和になったのは確かなんだけれどねえ」

 一人の女性がポツリと言った。少しだけ年配の女性で、四十歳前後だろうか。当時のことを知っている年齢ではないと思うが、その名残は知っていると、ため息混じりに話してくれた。


「あちこちの地方で魔物を倒して、ここの領地を賜ったけど、魔物だらけの領地を安全にしたのが勇者なの。昔はこの辺りも魔物だらけで、すごかったらしいわ。この土地も勇者が広げたようなものよ。安全になったら、勇者は統治などせずに遊びに明け暮れた。って言うけど、討伐隊騎士の一部が暴れて、勝手にしていただけよ」

「そうなんですか?」

 しかし勇者は暗殺された。オクタヴィアンの祖父に。


「勇者に従っていた者たちの中にも、まともな人はいたのよ。でも、そうでない人たちが、この領土の貴族に唆されて、勇者を殺したって聞いてる」

「私の祖父が、勇者に会ったことがあって、素敵な人で憧れていたって、ずっと聞いていたわよ」

「そういうの、よく聞くわよね。大声では口にできないけど。村人もいい印象はないんじゃない?」

 問われて頷く。玲那もそう聞いている。聖女のせい、勇者のせい。全ての悪の化身のような、その言われよう。


「城の中のことって、外にはわからないでしょ? 勇者は本当に勇者で、戦いばかりで疲れてしまっていただけだって。異世界人だからこちらのことはほとんどわからなくて、戦いに身を置いていた方だから、貴族たちも言うことを聞かなかったんだって。嫌になっちゃったのよ。あれだけ戦わせておいて、こんな寒い地方に追いやられたのだから」


 話が、違うな。一般的な話と、関係者の話の違い。

 異世界人は殺されて然るべきことを行う。だから嫌われている。どの人も晩年碌な真似をせずに追いやられたり殺されたりしている。聖女と勇者はこの国で忌み嫌われた存在だ。しかし関係者はすべてがそれだけだったとは言わない。


「陥れられて、殺されてしまったのよ」

 女性の言葉はのし掛かるような重さを感じた。

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