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走馬灯

作者: nagasa

私はもうすぐ居なくなるらしい。

少し悲しいが、気分転換に今まであった事を思い出した。


ここにいるのは正直楽しくなかった。

動くことができない私は、いつも同じ風景、周りの会話、音を聞いたり、見える範囲で人間観察をしたりしていた。

出来れば早く居なくなりたいと思っていた。


そんなある日の夕方、少年が私にしがみつき泣いていた。

こんなことは初めてだったから、正直驚いた。

次の日も、次の日も、怪我をしてきたも日あった。

その日はいつも以上に泣いていた。私も泣きそうだった。

私は少年に何もしてあげれない。私は動けないし、少年は背が小さいから、目も合わせられない。

少年はただただ私の横に座り込み、泣きながら、「痛いよ。」と、かすかな声で言っていた。

「ごめんね、何もしてあげられなくて。」と言いたかったが、声も出ない。思いすら通じないのが悔しかった。

きっとこの少年は、いじめにあっているのかなと思いながら、そんな何もできない毎日を送っていった。


少年が来ない日は、道行く人たちを観察していた。ハゲている人を数えるのは楽しかった。

まあ、私もハゲているんだけど。

たまに来るようになった、少年は少し背が高くなっていた。

少年が来てくれたこと、そして目が合いそうで合わない、嬉しさと、もどかしさの中、少年は「僕はお姉さんといつか連れ出してあげるから!!!」

大きな声で言っている、そんな事出来るはず無い!誰も連れ出したことが無い、と思いつつも、嬉しかった。そして、


「僕は強くなって、お金持ちになって、お姉さんをここから連れ出すから!」


そこから月日は流れ、私は来なくなった少年を思い出しながら、ハゲ探しをしたり、はたまた、タクシーを眺めたり、イケメンを探したり、でも夜は誰もいない。

私は一人になる。寂しいなんて今まで思ったことが無かったが、その時は確実に「寂しかった」。

私に時間の感覚などとうに無くなっていたけど、少年が来るのを心から待っていた。少年の事を思い出しながら、そして大人になっていく少年を想像しながら、朝を待っていた。

そんな時にふと少年がきた、嬉しすぎて心が踊った。

久しぶりに来た少年は青年になっていた。


髪の毛を染めたらしい。可愛いなあと思いつつも、少しグレてるなこれは、と思った。

怪我をしてももう泣かない、立派になった。

いじめられっ子を卒業し、いわゆる喧嘩番長になっていた。

正直私の所には、もう来ないと諦めていたが、

でも来てくれた少年は、私と目が合うようにもなっていたし、少しかっこいいまで思ってしまった。

私の好きなタイプは、黒髪で眼鏡の似合う男性なのに(笑)


これが今まで私の所に来た「少年」を見てきた情なのかな。

そこから、少年は友達を連れてきて、私の所でたむろするようになった。

話している内容は、今連載している漫画の話だったり、喧嘩自慢だったり、それが夕方だけではなくお昼にも来るようになった。

学校は大丈夫なのかなと思いつつも、来てくれる事は嬉しかった。

あの日は少し嫌だったけど。少年の友達が、エロ本を見つけてきて少年が興奮していた。

私を連れ出すんじゃなかったのかよ!!!!!浮気者!!!!!って連れ出す=好きでいてくれると。でも、私が言える立場じゃないか。

私をここから連れ出してくれる人なんて、正直言っていない。と悲観的になっていると。


「中学校を卒業したらどうする?」


と友達たちがない頭を使ってあれこれ討論していたが、少年はするりと流していた。

ある日、少年だけが夜中に来た。

びっくりした。


「良い高校に行きたい。」


との相談だ。


「勉強すればいいんじゃないかな。君の努力は報われるよ。」通じたかな?


少年は久しぶりに涙を流し、そして、目を合わせながら少年は、


「ありがとうお姉さん!」


彼への少しの希望と、いずれ彼が約束を忘れてしまう日が来ると思うと少年の後ろ姿を見ながら、私も泣きたくなった。

きっと、少年は、毎日のように勉強して私の所に来ることはなくなる。

寂しい感情を持った私にはきつい事だ。だけど、少年が叶えたい夢があるなら。私はここでジッと応援するしかないんだ。


案の定、少年は来なくなった。私の勘は当たった。少年の「友達」だけが来るようになった。

私は一人きり(ではないが)。日中はハゲ、イケメン探しに、夜は少年の事を想う。

どうか少年の夢が叶いますようにと。


あれから何年経ったんだろうか。

あの日から少年が来ることはなかった。

そして、人間の死ぬ瞬間に見る走馬灯を私は意識的に再現した。


今日は私が居なくなる日。

昔は汚い駅だったけど改装もされて、綺麗になった。

もっともっと人間と同じように色んな事を感じてみたかったし、少年と話をしてみたかった。一言だけでも良かった。


いつから私に感情というものが芽生えたのかは覚えていない。持った時には駅が見える公園に設置されたただの銅像だった。


私にも願いが叶うなら、あの少年にもう一度会いたかったな。

お願いだから、瓦礫になった後は感情は無くなってね。


さよなら。


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