表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶 未来の君へ  作者: 茉瀬 薫
Ⅰ キャンベラから東京への転入
6/14

5.優等生(問題なし)と優等生(問題あり)の対話

雪弦は、隣を歩く問題児くんを半目で見つめる。


「ん?なんだよ。」


視線に気づいた彼は、眉をひそめて彼女を見つめ返した。


「雰囲気、変わったわね。」


「そりゃ、当たり前だろ。もう6年も経つ。こんだけの間に変わらない人間なんて、そういるかっての。——まぁ、ここにいるけどな。」


「わたくしも変わったわよ。」


雪弦が不機嫌そうな表情を浮かべたことを、彼は読み取った。


「いや、全く変わってない。今も、お前の駄目なとこが存分に発揮されてる。」


「どこが駄目なのよ。」


「まず、その無表情を直せ。声に感情をのせろ。機械的な発言はやめろ。ロボットみたいだろ。」


問題児くんは、雪弦をにらむ。


「ロボット。」


「そう、ロボットだ。まったく、画面越しで見てる内は改善されたと思ってたのに、ただ猫かぶって誤魔化すのが上手くなっただけじゃないか。……次そういう行動したら、コンピューター人間って呼ぶからな。」


雪弦は小さく眉をひそめたが、彼の厳しい顔を見ると不承不承といった様子で首を縦に振る。


「——王来王家颯雅(おくおか そうや)!」


問題児くんの名前が呼ばれたが、彼はその声を無視し、雪弦の隣に並んで歩みを進める。


「ねぇ、王来王家颯雅!返事できないの?」


颯雅は不機嫌そうな表情でくるりと裏を向く。


「ピーチクパーチクうるさい。間の悪い顔だけポンコツ腹黒人間、今日も絶好調みたいだな。」


盛大に毒を吐いた。


「はぁ?まぁ、絶好調だけど?……それで?顔だけって、まだそんなこと言ってるの?僕、一応日本の芸能界のトップスターって言われてるんだけど。成績も、一応入学からずっとセクンドゥス=コンス(次席称号)ルだし。っていうか、なんか呼び方の装飾増えてるし。」


「一応一応くり返すな。美しくない。日本語は流れるように美しい言語なんだから、お前の知性のたりない脳みそと口で汚さないでくれないか?」


心底嫌そうにしかめた顔で、彼は吐き捨てるように話す。


「呼び方に関しては、俺の感じたことをそのまま言ってるだけだ。お前を第三者目線で見たらこうだってことだ。隣にいるのは”世界一有名な天才少女”だし、俺はケルサス=アマデウス(オール首席称号)で、王来王家一族の長子だ。」


雪弦はそれまでそのやり取りを静観していたのだが、不意にすっと目を細めた。


「あら、昔は王来王家の長子って立場を使うの、嫌いだったはずなのに。人間は変わるものだって話、本当みたいね。あなたはもう、わたくしの知っている喧嘩別れした颯雅ではなくて、王来王家一族長子の颯雅になったのね。」


小さく、苦々しい笑みを見せる。


「……残念だわ。」


彼女は踵を返し、革靴の音を響かせながら歩き去った。


 ◇◇◇◇◇


「——いいの?」


雪弦の背中が廊下の角を曲がって見えなくなったとき、“間の悪い顔だけポンコツ腹黒人間”は不意に颯雅に問いかけた。


「いいんだよ。もう、あいつは俺とは住む世界が違うんだから。」


そう言う颯雅の顔は、言葉に反して寂しそうに眉をよせていた。


「ふーん……。じゃぁ、ぼくがあの子と友達になっても文句言わないよね。」


「勝手にしろ、間の悪い顔だけポンコツ腹黒最低人間。」


颯雅は、いら立たし気にそう言った。


「ねぇ、ぼく、間の悪い顔だけポンコツ腹黒最低人間じゃなくて、御手洗松千代(みたいら まつちよ)っていう正式な名前があるんだよ。」


「幼名だけどな。」


「家の伝統なんだから、しょうがないでしょ。一五歳の元服までこの名前は変わらないんだから、幼名って馬鹿にして言わないでくれるかな。」


松千代にそう言われた颯雅は、肩をすくめた。


「馬鹿にはしてない。幼名って、事実だから言っただけだ。」


「そんなの、ただの詭弁だよ。」


松千代は唇を尖らせる。その様子を見た颯雅は、苦笑をもらした。


「笑わないでよ。」


「あぁ、悪い。なんか元気出たから行くよ。じゃ、頑張れよ。」


颯雅が謝ったことに目を丸くしている松千代に背を向け、彼もその場から去っていった。


 ◇◇◇◇◇


残された松千代はぽつり、とつぶやく。


「……だから憎めないんだよ、ほんと。」


ざぁっと一陣の風が吹き、彼の柔らかい髪をさらりと揺らしていった。

18,5,2024

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ