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記憶 未来の君へ  作者: 茉瀬 薫
Ⅰ キャンベラから東京への転入
5/14

4.いろいろと足りない自己紹介、理解不能な脳回路

「実は、俺のクラスには問題児がいてね。」


「問題児……ですか?」


雪弦は、突然始まった話に少々面食らった。


「あぁ。それも、筋金入りの。東京中等院一と言ってもいいかもしれない。彼は勉学は全国でもトップの方なんだが、いかんせん素行が悪い。迷惑をかけるかもしれないが、まぁ、そういうものだと思ってくれ。これまでここではケルサス=アマデウス(オール首席称号)の称号持ちだったから、かなり無駄なプライドがある。ここで一度、あいつの鼻っ柱をへし折ってくれっ。これは、俺達教師陣の切実なる願いなんだ。」


「ぜ、善処します。」


雪弦は、やや引きつった表情で返事をした。


「よし、頼むぞ。」


その数秒後、彼は歩みを止めた。教室のプレートには、1ーAと表示されている。


「ここだ。君は、呼ぶまでここで待っていてくれ。——開けるぞ。」


正面のドアを、開いた。


「佐々木、遅い。何がちょっと出てくる、だ。これだから大人ってのは。」


なるほど、と雪弦は納得した。たしかにこれは問題児だ。まず、態度がなっていない。


「はいはい悪かったよ。じゃあ、みんな。ちょっと紹介したい人がいるんだ。」


「無視するな!」


「無視はしていない。まあ、多感な君にはわからないだろうけど。大変だろうね、きっと。——入って。」


雪弦は、問題児の舌打ちとともにドアを開いた。教壇のわきに立ち、教室を見渡す。皆、多少の濃淡の差はあれど黒髪だ。日本ではかなり当たり前の光景だが、西洋育ちの彼女には新鮮に感じた。


——さて、問題児は誰だろうか。


彼女が入ってきた瞬間、一気にひそひそと話を始めた生徒のしぐさを注意深く見ていく。


「どうした?」


突然フリーズした雪弦の視線の先には、同じくフリーズした少年がいた。——言わずもがな、件の問題児くんである。


「……颯雅(そうや)?」


「雪弦……か?」


放心しているかのような二人に、文宣は目を瞬かせる。


「何だ?知り合いか?」


その言葉で我に返った雪弦は、硬い声で答える。


「幼い頃の知人です。もう会えないものだと思っていたので、驚いただけです。」


絶対違う、と誰でもわかるような反応だ。大根役者にもほどがある。普段の演技力はどこに消えてしまったのか。


「そ、そうだ。雪弦の言うとおりだ。」


問題児くんも追随する。


「あ〜……まぁ、そういうことにしておこう。」


文宣は仕切り直すかのように咳払いをする。そして、おもむろにチョークを持ち、黒板に“近衛雪弦”と書いた。


「自己紹介を。」


「はい。キャンベラ中等院から転入してきました、リュディヴィーヌ・E・S・近衛・雪弦・ランディクアロリスです。日本では近衛雪弦(このえ ゆづる)で通すので、他は覚えなくて良いです。よろしくお願いします。」


以上、と言った様子の雪弦に、唖然としたような空気がクラスに漂った。


「あ〜……近衛、これで終わりか?」


「はい。」


文宣は頭を抱えた。


「え?なんか、色々情報欠如してない?」


「情報だけじゃなくて、表情も。」


「……。まぁ、こいつはこういう性格だと思って、仲良くしてやってくれ。」


文宣は、既にあきらめムードを漂わせている。


「佐々木、ハゲないようにな。」


「あぁ……。」


問題児くんが、フォローを入れた。感動ものである。内容は、ちょっといただけないが。


「じゃあ、質問のあるやつ挙手しろ。」


なんとか立ち直ったらしき文宣は、生徒たちに呼び掛けた。


ぽつぽつと、いくつかの手が挙がった内から一つ手を選び、その手の持ち主の名前——雪弦に配慮し、フルネーム――を呼ぶ。


「ん、木村遼太(きむら りょうた)。」


一人の男子生徒がガタッという音を立て、椅子から勢いよく立ち上がる。


「近衛さんは、“世界一有名な天才少女”、リュヴィー・バッセルフォードとして活動してますよね?」


「はい、そうです。世界一云々はなにかの間違いだとは思いますが。」


「さっきも同じこと言ってたよな……。」


文宣は、ため息をついた。


「やっぱり情報欠如してた。」


「にしても、ほんっときれいな顔してるな。」


「画面越しで見るよりもずっと美人。」


「うちらのクラス、すっごい確率を引き当てたね。」


「レアモンスター並みの確率。」


「それ以上じゃない?」


生徒たちがささやきあう。


「静かに。ほかにいるか?——池田茜(いけだ あかね)。」


「趣味はなんですか?」


「趣味は、そうですね……。」


雪弦は、しばらく考え込んだ。


「すみません、考えてみましたが一致するものがありませんでした。」


コンピューターのような回答を返す。生徒たちは、あっけにとられたような表情をする。


「ま、こういうやつだ。」


文宣は、先ほどと同じことを言った。今回は、頭は抱えていない。あきれたようなため息を吐いた問題児君のフォロー(過激発言)は、当然入らな——


「雪弦、教師をはげさせるような発言は控えろ。」


——入った……?


「どこがおかしいというの?普通でしょう。」


クラス中の生命体が、(あきらめの)ため息をついた。


もうすでに、生徒たちにとって彼女の性格はかなり理解しがたいものとなっていた。

佐々木先生、指名のしかた、ちょっと……おかしい……?(かなり)ずれてます。

12,5,2024

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