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記憶 未来の君へ  作者: 茉瀬 薫
Ⅱ 雪弦の幼少期への追憶
13/14

6.帰国前に

「ヴィー、明日わたくしたちはイタリアに戻るけれど、あなたはどうしたい?」


一緒に行く、と雪弦は即答した。これ以上両親と離れていることは、雪弦には到底我慢できそうにもなかった。


その日の午後、雪弦は王来王家邸に来訪した。


「まぁまぁ、雪弦ちゃん。今日もかわいいわねぇ。」


「母上、本当に気持ち悪い。いい加減やめたほうが良いと思う。」


王来王家夫人の頬擦りと同時に、颯雅の毒舌が飛ぶ。ここまではいつもと同じ、恒例の挨拶だった。


「今日くらいいいじゃない。今回を逃したら、次に会えるのはいつになるのかわからないもの。」


「また明日、会えるんじゃないのか?母上の仕事は入っていなかったはず。」


眉をひそめた颯雅に、夫人はゆっくりと言い聞かせる。


「颯雅。雪弦ちゃんはご両親がお迎えに来たから、イタリアに帰るのよ。」


「……は?」


低い声を出した颯雅の顔は、なんとも不機嫌そうにゆがめられている。そんな彼の様子を初めて見る雪弦は、おびえたような動きで夫人の陰に隠れた。


「なんで、こんなに急に?」


「お父様の代理の体調が少し回復したのと、今回の件の後始末にひと段落がついたことが理由らしいわ。」


「へぇ~。」


じゃぁ、その代理が回復しなきゃよかったのに。続いたその言葉に、雪弦は目を見開く。


「なんで、そんなこと言うの?フェデリコは、何にも悪くないじゃない!」


瞳に涙を浮かべる彼女に、ハッ、と馬鹿にしたような笑みを向ける。


「そいつさえ回復しなきゃ、もっと長いこと日本にいられたんだろ?そしたら、僕と―――」


こらえきれなくなった雪弦が夫人にしがみつくのと同時に、パンッ、と音が響く。夫人が、颯雅の頬を平手打ちしたのだった。


「やめなさい。颯雅、わたくしはそんなひどい子にあなたを育てた覚えはありません。最低一週間、部屋で謹慎しなさい。自分を見つめなおすのよ。」


「なんでだよっ。おい、雪弦も何か言えよ。」


彼女は、立ち上がった夫人の肩から顔をゆっくりと動かす。


「……嫌い。大嫌い。」


涙交じりの硬い声でそう言い、拒絶するようにさっと顔を戻してしまった。


颯雅はショックを受けたような顔で固まったが、しばらくするとわめきだした。夫人は息子の罵詈雑言を聞かせてこれ以上傷つけないよう、雪弦の耳を手でふさいだ。


「誰か連れて行きなさい。絶対に部屋から出さないように。」


集まっていた使用人たちに厳命すると、夫人は雪弦を抱きなおし、ランディクアロリス邸へと向かった。


 ◇◇◇◇◇


「マンマ?パパ?」


雪弦が目を覚ました時には、すでに外は真っ暗だった。時計の針は、八時を過ぎていた。


「ヴィー、大丈夫か?」


「フェデリコについて、颯雅くんが色々といったようだけど、気にしなくていいのよ。」


「……?フェデリコと颯雅が、どうしたの?今日は颯雅とおもちゃのことでけんかして、そのあとに疲れて寝てしまっただけのはずだけれど……。」


雪弦の記憶は、精神的ショックで塗り替えられてしまっていたのだった。

20,7,2024

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