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記憶 未来の君へ  作者: 茉瀬 薫
Ⅱ 雪弦の幼少期への追憶
12/14

5.再会と安堵

音もなくドアが開いた。


「ん……?」


起こさないように、と気を使ってはいたようだが、ここ最近眠りの浅かった雪弦は目が覚めてしまった。


「―――パパと、マンマ?フェデリコの件で、イタリアに居るのではないの?」


怪訝そうに首をかしげる雪弦の目元には、うっすらと隈ができていた。王来王家邸に行くときはメイクと明るい演技でごまかしているが、まだ幼い彼女には大きすぎる負荷により、確かな疲労がたまっているのだ。


「その件は、区切りのいいところまで終わらせてきた。ヴィーに会いたくて、紫と一緒に一度戻ってきたんだ。」


相当な激務を日々こなしていたのだろう。ラファエーレも紫も、雪弦よりも濃い隈を目元につくっていた。


疲れを隠せない二人をじっと見つめた後、雪弦は恐る恐るといった様子で口を開く。


「それで……フェデリコは?」


「救出されて、今はシルヴィオとともにローマの病院に入院している。峠は越して、意識も一度戻った。テロは入ってしまったが、世界一警備が厳しい空港と言われているだけあってすぐに部隊が派遣されたようだ。彼が助かったのは、一般的なテロよりも比較的早く鎮圧されたおかげだ。これがあと数時間遅かったら、出血多量で死体で発見されていただろうね。」


「死体……。」


雪弦は呆然とした様子で物騒な単語をつぶやきながら、安堵の涙を一筋流した。彼女にとって、世話を焼くことが好きなフェデリコは家族のような存在だったのだ。


「―――あ。会議のほうは?」


「先方も事の重大さは理解してくれていたから、延期になった。落ち着いたら、僕自身が行くことになっている。」


その言葉に、雪弦はあからさまに心配そうな顔になった。


「ヴィー。今、イスラエルは緊張状態な上に、今回のテロでベングリオン国際空港の信用も下がってしまったから、先方がローマに来てくださるのよ。だから、安心してちょうだいね。」


紫の言葉でほっとしたような表情を浮かべた彼女は、泣きつかれたのか、緊張の糸が切れたのか、すぐに眠りに落ちてしまった。


 ◇◇◇◇◇


「マンマ、パパ。おはようございます。」


「おはよう、ヴィー。」


「おはよう、あの後よく眠れたかしら?」


雪弦は邸宅の食堂に入る。すでに両親は席に着いていた。彼女はにっこりと陰りの無い笑顔を浮かべる。


「えぇ、しっかり眠れたわ。きっと、安心したからね。帰ってきてくださって、とてもうれしいわ。」


―――それに、生きていてくださって。


そんな言葉を、雪弦は声にすることはなかった。


雪弦も席に着くと、すぐに給仕が朝食を運んできた。ランディクアロリス家では随分と久しぶりの、愛情と笑顔のあふれた温かい食卓であった。

6,7,2024

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